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魔に魂を売りし者

テンペスの案内で隠された何かを見つけたキリヤ。しかし、そこでテンペスが動いた。


「キリヤッ!」


気付いたギリアラが声を上げるも、振り下ろされる極小の刃の歩みを阻むことは間に合わない。キリヤもすぐに振り向くが、ノヴァを構える暇もなく刃が胸に刺さる。


「キリヤァ!!?」


この場にいる全てが凍り付く。テンペスはニタリと笑い、ギリアラとセバスは制止しようとした体制で停止する。ノヴァは絶叫し、ある意味感情の起伏が薄いキリヤでさえ恐怖を顔に…


「ひひ…力は、僕の物だ…あ?」


勝ちを確信した顔から、首を傾げ、困惑の表情へと変わる。人間を刺した感触ではなく、どこか硬い物に当たったような感覚がしたからだ。かちり、と音がした。


「ぬわ!ごわあ!!」


音がした後、物凄い熱波がテンペスを襲う。その吹き荒れる魔力は、つい最近見た物だった。テンペスを押しのけ、キリヤを護った物。それがキリヤの胸あたりにあった。


「これ…は」


あたたかなオレンジ色の御守り。ヨモギがくれたあの御守り。それが熱波を噴き出していた。熱波が出尽くした後、役目は果たしたぞと言わんばかりに、黒ずんでボロボロと崩壊していった。黒い炭化した残骸を拾い、キリヤは彼女を想起する。


「ヨモギ…」


「ぐうう…馬鹿なぁ…!」


凍った空間が氷解し、固まっていたセバスとギリアラがキリヤを庇うように前に立つ。


「どういうおつもりですか、テンペス様!それにその魔道具は…!」


「あなた…一体何のつもり?」


セバスはテンペスの行動を認めたくないかのように見つめ、ギリアラはとても警戒している。しかしテンペスはくつくつと笑った。


「ちょおっと、こういうのに詳しい人と知り合いでねェ…その人のおかげで、セバス、君を手に入れることもできた…ああ、人じゃなかったな…ひひ。」


「私と何の関係があると!話してもらいますぞ!それは能吸いの刃…魔族に奪われた経歴のある禁具!なぜ貴方が持っているのかを!」


「セバス…君が本当にヴァイルのことが好きなわけないじゃないか。」


突然、テンペスはそんなことを言い出した。だがセバスがヴァイル好きなのは前にもあるように明白だ。


「そ、そんなわけありませんぞ!ただ暗殺するしかできない暗い人生に光を―」


「ひひ…それが嘘だって言ってるんだよ。君は便利だからねぇ…魔道具を使って記憶を刷り込ませて僕の元へ来させたんだよ。君のおかげであの無駄に長生きなジジイも殺せて、判別する石もしーっかり貰えたんだからね…ひひ」


「そ、んな…なら、私の、捧げた時間…は?生きる、希望…は?」


セバスは膝から崩れ落ち、そのまま動けなくなってしまった。それをニタリと見届けた後、キリヤを見る。前に立つギリアラが見えないとでも言うように。


「ひひ…驚いたよ。まさか今日君が来てくれるとは。丁度ハナサもお出かけで、君も一緒に見つかるんだから!主に即馬車を襲わせたよ…そしてハナサなら助けてもらってお礼に家に連れ帰ってくれるって信じてたからねえ…ひひ」


つまり、娘をエサにキリヤをおびき寄せたということだ。とんでもない外道だ…


「娘を…!?それが本当に人間のやることなの!?」


「ひひ…僕は人間なんてやめたよ。証拠に…ほーら」


熱波によって溶けかけた服を、腹のあたりで引き裂く。そこには紛れもなく…


「魔族との契約の印さあぁァ!僕はねええ!どーーしても才能が欲しいんだよおォ!」


呆然とするギリアラを押しのけ、未だ黒い残骸に目を向けるキリヤに能吸いの刃が首を狙う。


「キリヤ、危ないッ!はよ防御せな!」


「そっか~。君はそんな悪い人だったんだ~。」


刃と首があとほんの少しで触れる―


両腕が弾け跳び、胸に十字の傷をつける。赤く温い雨が降る。


「ひ…は…へ?」


自分の状態を把握できず、ただ立ち尽くす。失った腕を見、胸を見、最後に儚い笑顔のキリヤを見る。その手には、雨に塗らされた歪な剣。


「あ゛…!あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」


怒り、憎悪、絶望。その他全ての負の感情が籠った声を上げる。タタリイチシキにも負けぬほどの感情が、たった一人の哀れな存在から発せられる。無様に自らの体を地に打ち付けながら、怨嗟の籠った声で叫ぶ。


「ガーゴイ゛…る、やれぇ゛!!!!」


階段の横に置かれていた動きそうな石像が赤く目を光らせ階段を降りる。そしてキリヤを捕捉。一つしかない入口から続々と出てくる悪魔を模した石像。しかし、皆切り捨てられる。動かずとも、キリヤは斬った。ただ、淡々と。


「ぞん゛…なぁぁあぁっぁ。」


疑似体液を吹き散らしながら倒れる石像を、目に焼き付けながらテンペスは気を失う。血を流しすぎたのだろう。


「うわ。えっぐ。キリヤのあんな顔、見たことないわ…」


「ね~、どうしてポカンとしてるの~?あの台に近づいてみよ~よ~。」


「え、ええ…(怖い怖い怖い…)」


キリヤは何事もなかったかのように台に向かう。本当に、何もなかったかのように…そこに、どうしてと言える勇気のある者はいなかった。


「ふわぁ~、すっごい大きな石板~。」


「セバスさんすら…」


厳重に保管されていた物は石板。長ったらしい文章と、何かを伝えるための簡単な絵が描かれた大きい石板だ。絵は、棒のような人間が波動かビームみたいな魔法を撃っている図だ。人が棒のように見えるほど大きなビームなのかそれとも手抜きか。


「すご~い。いっぱい書いてる~。呪文だってー。」


「いや長すぎるわよ。普通に唱えてたら何分かかるよ…しかも魔力消費量も熟練の魔法使いの魔力三分の二も必要ってあるけど…役に立つの?」


「これヴァイルとテンペスの爺さんの合作らしいで。あれ、確かテンペス、爺さんこ―」


「ノヴァ、キリヤすごい顔してるからそれ以上駄目!」


キリヤはあの儚い笑顔を浮かべている。よく見れば目が全く笑っていない。本能的に怖いと思う、恐ろしい表情。ノヴァは慌てて気づいたことを口に出す。


「でもこれ…滅、星、崩、砕、風、砲。これだけでええ気がするんやけど?」

  

「この魔法、滅星崩砕風砲って言うらしいよ~。詠唱…なんとかって言うやつなんだね~。」


「詠唱破棄な…まあ強力な魔法なことに変わりないな。詠唱削って魔力消費も抑えられへんのかなこれ。」


新たな魔法の前に、キャッキャする様子を、目を覚ましたテンペスが睨みつけている。


「てめえら…主様、パターンBを!…クソ!まさか隠し玉を持っていたとはな…ッ」


「なッ!?まだ手を残してたというの…?」


「ひ…ひ、これで今度こそ、終わ…り」


あれが最後の力だったのか、また力尽きる。だが、信じられないことに、まだ生きている。人間ならば軽く死んでいるほどの出血量でも死んでいない。非常に気味が悪い。


「ふう…な、なんとか落ち着けましたぞ…」


ショックから立ち直ったセバスが、周りを見渡す。その目がガーゴイル、両腕のないテンペス、そして石板の前に立っているキリヤ達と順に捉える。


「ああ、元主よ。魂を…売っていたのですな…キリヤ殿、元主が迷惑をおかけしました。お怪我はありませぬか?」


「ないよ~。」


項垂れた様子で声を出すセバス。長年仕えてきた主の本性がセバスの何かを躊躇わせている。心配して近寄ってくるキリヤを見て、決意した。


「今から…話しましょう。なぜ私があの方に仕えようとしたのか、なぜ私が…あの人の悪事に気付けなかったのかを。」


あまり思い出したくないが、それでも伝えなくてはならないという思いから、ゆっくりと、ぽつりぽつりと話し始めた。


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