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キリヤの血筋

「ば、化け物…」


「む?どうかされましたか?」


鑑定結果に思わず小声で漏らしてしまった言葉。この執事は一体…?それに鑑定されていることにも気付いていたはずなのに…?恩人だから?と色々な事を考えるギリアラ。


「いえ、何でもありません…」


「ふむ?何かあれば何時でもお呼びください…おお、行き過ぎてしまいました。こちらの部屋です。」


「ありがと~う。ねえねえ、ハナサちゃんのお父さんってどんな人なの~?」


「あの方は…いや、直接お確かめになられた方が良いでしょう。ささ、どうぞこの中へ」


セバスの開けた扉の先にはとてつもなく高そうな装飾やら絵やら道具やらがある部屋。本当にこの中に平民が入っていいのかとギリアラの苦悩は絶えない。


「…」


「テンペス様、お客が来ております。」


「むん?ああすまない。」


部屋の奥、細かい装飾を施された椅子に座り、木目の美しい机に左肘をついて頬杖をし、右手に紙を持ち、それが親を殺したと言わんばかりの顔で紙を睨んでいる男がいた。目力だけで紙を粉々にでもするつもりなのだろうか。


「あー、こういうのは先に私が名乗るものでしたかな?」


セバスに話しかけられた後、紙から目を話してキリヤ達を見る。鬼神の如し顔から一変、優しい、人から好かれるような笑顔で対応する男。自己紹介の順番を気にするほど配慮ができるのだろう。どうやらキリヤは良い貴族に会いやすいようだ。


「私はテンペス。テンペス・ゴイムだ。適当にテンさんとでも呼んでくれ。」


「は、はあ…私はギリアラです。一応宿を経営してました。」


「ね~え~、なんでさっき怖い顔をしてたの~?」


ここで流れをぶった切っていくのがキリヤクオリティ。ギリアラがソーサヨリの謁見時と同じくあわあわするが、テンペスの方では子供には貴族の作法は難しいものだものと笑って気楽にするようにと言った。キリヤはほんとに巡り合わせが良い。


「う~む、自分の顔は見えないからわからんかったが…そんなに酷い顔だったか?」


「はい。それはもうキレたオーガのような顔でした。」


セバスが茶化すように言った。セバスは話を邪魔したのではと恥じ入ったように気配を消した。普段はこんなノリでも、今はお客が来ているから自重しているのかもしれない。


「なーに、ちょっと図に乗った能無しの木偶の棒がしょうもない要求をしてきただけさ。しかし困ったものだ。遠回しに街をよこせだの…よし、追い出すか。」


なかなか黒い事を言う貴族街の領主。ほんの少しノヴァの目が細まる。どことなく、胡散臭さを感じ取ったのだ。


「え~っと、この子はキリヤです。先ほどは失礼なことを…」


「あ~、いい、いい。私の街ににじり寄ってきた木っ端貴族よりは可愛げがある。」


「こいつホンマに容赦ないな。貴族嫌いなんか?昔なんかあったとしても相当拗らせてるで?」


常に笑いながら話しているが、貴族について少しでも触れるときは目が笑わず、一気に背筋が冷える。根はいい人であってほしいものである。


「一応聞いておくが、その剣は?」


「ん~、なんかダンジョンにあったから拾った~。」


「なるほど。しかしなんとも禍々しい…一応聞いておくが、姓名は?」


一般の冒険者になぜ姓名を聞くのだろうか。もしや貴族の関係の者か探っているのだろうか。


「私はないです。キリヤは…なんだっけ?」


「ミラージュ…だった気がする~。」


「むむ!ミラージュ…すまないが、少し待っててくれ。」


キリヤの姓名を聞くと、立ち上がって慌ただしく部屋から出て行ってしまう。思わず顔を見合わせて肩をすくめる。


「はあ、はあ。すまない。ふう~…キリヤ君。このネックレスを握ってくれないかね?」


息を切らせて戻ってきたテンペス様は、キリヤにネックレスを渡す。透明な宝石に皮の紐を通しただけのシンプルなネックレス。キリヤが壊さないように宝石をそっと握る。魔力を少しだけ吸い取られる感覚がする…魔力が染みるとその場所からじわじわと色が変わる。その色は…


「おお…紫。ようやく待ち人は来たようだ。爺に報告せねばな…」


「ね~、どういうこと~?僕なんかした~?」


椅子に座り、一呼吸、二呼吸してテンペス様は語り始める。自分の爺さんは有名な風魔法使いで、負けなしだったこと。しかし、ふらっとやってきた呪術師の男に負けたこと。その男に弟子にしてもらい、旅を共にしたこと。


しばらく旅を続けてていると、「何十年、いや何百年か後かもしれない。もしも、儂の力を受け継ぐ子孫がお前の子孫を訪ねてきたとき、儂とお前で一緒に作ったあの魔法を伝授するのじゃ。見分ける方法はこの魔石を使え。触れた者の魔力を色で表す物じゃ。そうじゃの…儂の魔力は紫色じゃ。儂の姓名でもわかるじゃろう」と言って爺を置いてどこかへ消えたことを話した。


「まあこれが爺から聞いた話だ。風魔法使いは本当だろうし、爺が死んだ日、その魔石を貰ったから信憑性は高いはずだ。いやはや…まさか三代目の私の代で会えるとは。」


「ん~、キリヤの血筋どうなってんのよ?なんでそんなに有名なのかしら?」


「ああ、だがそのことはセバスが詳しいはずだ。あいつは…なんといか、ファンでな。」


ちらりとセバスに目を向け、視線を受けたセバスが目の色を変えて話し始める。


「ええはい!あの方のことは存分に調べたものです!伝承、彼の周りの事、仲間や旅した場所など全てです!あの方は超、いや伝説扱の呪術師でした!残念ながら私は同じ道を歩むことはできませんでしたが、それでもあの方に少しでも近づきたいと思い、弛まぬ努力を積み重ねてきました!なぜならあの方は呪術師ながら体術も一流でして…」


「あー、こうなったセバスは長いから…」


「な、なるほど…」


それから一時間余り話続けたセバスは、狂気に満ちていると言っていいだろう。ひたすら崇めるように褒め称え、目をランランと光らせた様はおぞましいほどだった。


「いやーしかしあの方の仲間の孫であるテンペス様が執事を募集していると聞いてからは即今までの仕事を捨ててテンペス様にお仕えしましたよ。このチャンスを逃すわけにはいかん!と思いましてねえ。後悔はないですよ?なぜならキリヤ様にもお会いできたのですから!私の慕っている人の身でありながら呪術を扱う伝説の呪術師、ヴァイル・ミラージュ!んー!良い響き!」


「へー…(ピンとこない)」


「へ~。(興味なし)」


キリヤは、希代の呪術師の血を引く少年だった。もちろん自覚は無い。呪術なんて特殊な一族しか使えないものという認識なので、特に何でもないヴァイルが呪術を扱えたのはいろいろおかしい。


「へ~、でも~お母さんは何にも言ってくれなかったよ~?」


きょとんとして言うキリヤ。ノヴァは、ヴァイルという言葉に懐かしさを感じる。


「むー、なんかヴァイルって聞いたことあんな―。すんごい懐しい感じするわ。会ったことあったっけ?いやワイ剣やからないんか?」


「とにかく、君は割と…いや、結構すごい人物なわけだ。そんなことはいい。私は約束を守るために領主になったんだ。爺が受けた約束をね。さあ、少し下がっていてくれ。」


言われた通り数歩下がるキリヤ達。テンペス様は机の上の砂時計を三回ひっくり返し、立ち上がって壁の絵画を少しずらす。最後に扉のすぐ左の壁を二回ノックする。音と共にさっきまでキリヤ達がいた床が開く。


「ははは、からくりだよ。こういうのに詳しい人と知り合いでね…ちょっと改造したのさ。さ、お先にどうぞ。中は暗いから気を付けたまえ。ああ、セバス、勿論君も。」


「は~い。」


「承知いたしました。テンペス様。」


言われた通り、階段を降りていく。丁重に作られた石レンガ造りの地下空間を進む。とても暗いが、テンペス様が後ろから魔道具か何かで照らしてくれている。


「実は私もこの奥に何があるのかはあまり覚えてないんだ。かなり昔に一度見ただけだからね。たしか…扉があったか。そこに血を引く者が手を置く…だったかな。」


何段もの階段を降りる。ある時から気味の悪い像が壁に埋まる様に飾られているのが目に入る。まるで今にも動きそうだ。


「…降りきるまで長いから、少し『僕』の話をしようか。僕は貴族に生まれたけれど、魔法に関する才能がなかった。だから、才能のあるやつらがうらやましくて仕方がなかった。それこそとても、とーっても。僕には無い物を持って、自慢気に振りかざす奴らが、憎かった。うらやましかった。才能が、欲しかった…」


コツ、コツっと階段を降りる音の中、ようやく降り切る。最後の段から隙間を開けて、奇怪な紋様が描かれている壁が聳え立っている。それと場の空気も変わる。


「なんでしょうね?これ…」


「キリヤがなんか関係してんのは絶対やな…ベタな感じでちょっとこの壁に触れてみてや。」


「やってみる~。」


キリヤが紋様に触れる。子供らしいような、手のひらをぺたーっと押し付け方。紋様が光り出し、重い石造りの壁が開いていく。緊張と興奮が一行を取り巻く。一見沈黙して冷静に成り行きを見ているセバスからも、同じように感じられる。


「おお、凄いじゃないか!壁が開いたね!ほーう、どうやら台のようなものがあるようだね。」


「そうみた~い。」


てくてくとその台の元へ歩くキリヤ。しかし不可視の結界のようなものに阻まれる。防衛機能と見ていいだろう。


「痛~い…ノヴァ、どうすればいいと思う?」


移動しながらぺたぺた触って、切れ目の有無を確かめる。台付近を囲うというより、今の地点から先に進めないように壁ができている感じ。なので切れ目はなさそうだ。


「切り裂いてみるか?でもなあ…こういうのって衝撃与えたらビリビリするのもあるしな…あ、あれ使えばいいんちゃう?魔族撃墜したあれ。」


「あ~、あれか~。そんじゃ、『タタリイチシキ解放』!」


体中から溢れる負の力。その圧に負けたのか、それともタタリイチシキが結界解除のカギなのか。定かではないが、パリンと音が聞こえ、阻むものが消える感覚。結界は消えた。


「ふふ…本当に素晴らしいよ。キリヤくん…その無自覚の才能、羨ましいよ。僕はたくさん努力したけれど、いつもいつも、才能には足元にも及ばない…」


「だからさぁ…君の才能を、僕にちょうだい?」


キリヤの背後で、テンペスが振り上げたナニカが光る。


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