双子の魔族
馬車が襲われていることに気づいた飛行中のキリヤ達。装飾から見て馬車にはお偉いさんが乗っているはずだ。上空から、殲滅を図る。
「キリヤ、いける?」
「多分大丈夫~。そ~れ、バーニング・ウェザ~」
キリヤのインフェルノ・ウィングから炎を纏った羽根が数十枚発射された。ゴブリンたちに全弾命中したのは良いのだが、刺さった羽根や身体を覆う炎に一切反応しない。
「なんか変やで。これは下降りて斬らなアカンかもなあ…」
仕方なくゴブリン達の元に急降下する。その間も羽根を射出するのはやめない。反応は無くてもダメージは確実に入っているだろうから、少しでも弱らしていた方がいい。
「あ、このゴブリンたち首に変なもやが付いてるよ~?」
「なんやろか。多分やけど闇魔法…か?」
謎の黒いもやが首周りを覆っている。なんとなくだが、首輪に見えなくもない。
「とりあえず全員首から上を消し飛ばせばいいよね~。」
ということで銃を取り出し、発砲する。狙われたゴブリンは例外なく頭が破裂した。何気にえげつない。そして、ノヴァの言葉を完全スルーしている。斬ってあげようよ…
「こんなもんかな~。この銃にも名前つけないとね~。」
「凄まじい正確射撃。ワイでなきゃ見逃しちゃうね。」
「何言ってんのよノヴァ…」
一息つき、中の人物の救助に横転した馬車に向かうのだが、まだ戦闘は終わっていなかった。急に、体中の神経が逆撫でされているような感覚がする…
「何か来る!避けて!」
ギリアラが嫌な気が近づいてくるのを感じ取った。体の危険信号とギリアラの声に従い、すぐに今いる場所を離れる。
「わ~。」
なにかが天より落ちてきた。数秒間砂煙がこの場を支配する。晴れた砂埃の中にいたのは、
「魔族…やな。」
灰色の髪と目に角。完璧に魔族だった。その身に漆黒の剣士服を纏い、キリヤ達を睨んでいる。その顔は、どこかで見た顔。
「貴様らが…よくも…!」
なぜかすんごい憎まれている。それはもう親の仇のように。全力で歪める憎悪の表情の気迫は、言い表せぬ程。
「え~っと、僕~、何かした~?」
「黙れぇ!貴様が一番わかっているはずだろう!あの時…あの時ッ!貴様が…貴様が俺の弟の命を!」
あの時。それはソーサヨリ奪還を言っているのだとして、殺した魔族と言えば…
「暗行の…兄!?」
「そうだっ!あいつと俺は双子だった!本来は俺とあいつが一つであれば…最強の魔剣士になれたかもしれないのに!だが、俺たちは俺が剣士であいつが魔法使いとなった。」
「あれ?でもアンコウって呪い使ってたよね?」
「ああ!どれもこれも同族のクソ共のせいだ!俺たち魔族は魔法なんてありふれてる。だからってクソ共は俺の弟を凡庸だとほざきやがった!俺のことは天才剣士だと持ち上げ!弟には、見向きもしない!弟もッ!俺のために魔法を磨いていたというのにッ!」
改めて見ると、暗行とこの魔族は特徴が似ている。顔の輪郭だったり雰囲気が似通っている。既視感があって当たり前だ。
魔法とは少々精神に依存するものである。しかし、それでも簡単に呪いへの移行はできないはず。それほどまで心を病んでいたのだろうか。職業も系統も違うものが発現するほどに。
「元より俺たちは双子。片方が欠ければ察っせる。だから…俺は、いや、真黒は貴様を滅する!」
そう叫ぶと、マグロは手にこれまた真っ黒な剣を召喚した。ゴブリンの黒いもやは、この剣による闇魔法だろうか。もしくは、元より使え、剣の効果で増強しているのだろうか。
「はあ!でャぁ!!おらァ!」
繰り出される剣撃の速いこと。剣筋が途切れぬ線のようにうねる。本当に剣一本で戦っているのか怪しくなる。
「ノヴァ、リロードの隙は無いかも~。」
キリヤは表面上普通にふるまう。しかし、内心はまた、兄弟だと考える。始め殺した獣人も、ソーサヨリで妹である犬の亜人と出会い、彼女が家族であると知った…若干動きが鈍る。
「ぐ、なれば!」
らちが明かないと判断したマグロは剣をぶん投げた。なんとなく嫌な予感がするノヴァは即座に回避するように警告する。
「掴めばいいよね~。」
とガシッと掴む。マグロはキリヤにしか眼中にないようなので、ギリアラは馬車に乗っている人を救出に向かう。
「掴んだ…?フッ、だがこれはどうかなぁ!散!」
キリヤが掴んだ剣が煙のように霧散する。そして煙が剣の形に凝固し、多数の小剣が独立して襲ってくる。弾いたり避けたりするものの、どこか単調である。
「すっご~い!ねえ、ノヴァもあれできる?」
「いや、ワイの構造的に絶対無理に決まっとるやろ…あれ魔剣やで?」
なんとも緊張感の無い会話。マグロにはノヴァの声が聞こえないので一人で喋っている様に聞こえている。そのせいで何かの策を警戒してしまう。
「何かが隠れているのか?それとも思念体か…まあいい。しっかりこの剣を身に刻むがいい!」
しかしキリヤ達は剣にいい勝負。マグロが仕方ないといった様子で両手に剣を出現させる。魔剣としての本体はどれなのだろうか。
「剣何本あるんや…?この分散できる剣は一本だけなんか?」
ノヴァの冷静な解析。キリヤに指示を与えるのも忘れない。しかし、独立して動く剣と二刀流の猛攻で少し余裕が無くなる。家族殺しの妄執も、じわじわと体を重くしていく。表面気丈に振舞うと、より重くなる…
「ねえ~、この飛んでる剣無視で良いと思う~。当たっても痛くないし~。」
「バカな!幻覚や幻痛、毒までキツく仕込んでいるのに!…あ」
「あ…て。」
なんともわかりやすいバラし方で仕込みをバラした。キリヤに状態異常は軒並み効かないので、バラそうがバラさまいが一緒である。
「く…マズイな。こうなればコレで押し切る!」
「させないよ~!それっ、静電気~」
左手の指からほんの一瞬高電圧の雷魔術が放出される。まさに冬場に現れる誰でもビクッとくるアイツである。
「ふぐおっ⁉」
キリヤが的確に指を狙ったため、変な声を出して背を反らすマグロ。おかげで剣を一本落した。多分この技は雷耐性が高くても食らうだろう。なかなか恐ろしい魔術を作ったものだ。しかも放出は一瞬なので燃費がいい。
「それそれえ!」
二刀流に勝るとも劣らない連撃を今度はキリヤが行う。それを捌くマグロの顔に余裕が無くなる。
「くっ…魔剣黒魔黑が効かない…チッ今日はこの位にしといてやる!」
捨て台詞を吐きつつ自らの影に溶けるように沈み込む。そして気配が消えた…
「キリヤ~、そっちが終わったならこっち来てくれる?私、あんまり力ないのよ?」
救助活動を行っていたギリアラが呼びかける。護衛の騎士は一応全員生存していた。ただ重症多数だが…馬は残念ながら一匹も生存していなかった…
「逃げられたし、行かせるわ。ほら、行くで。」
「は~い」
と移動しているキリヤに、初めに救助された騎士が優先的に救助した人物が話しかける。
「お待ちくださる?」
「あれ?さっきまで隣にいたのに…」
「キリヤ…殿でしたか?私はハナサ・ゴイム。近くの貴族街に住む貴族の娘ですわ。」




