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勇者に奇襲されたけど私は元気です

いよいよ観光も終わり、ついにソーサヨリとのお別れが来た。挨拶時には、国王はニコニコ微笑み、その妻は物凄い隈ができている。そんな顔だが、ジェットパック試作機が完成したとのこと。試作機はキリヤが引き取り、試運転してみたところ、砲撃はできないものの飛行性能は同じであった。だが流石に一般人が使うには魔力の燃費とスピードの調整が課題だと熱烈に語った。


「キリヤ様…ギリアラ様。私は幸せな数日を楽しみました。また、次会うときは、沢山遊びましょうね!」


「うん!もちろん。またいつかここに来るよ~。」


(うーむ、あの表情はどう見る?側近よ。)


(おお、完全に持ってかれております、初恋。)


(我が娘の春、全力で応援せねば!)


(ですな!あ、でもキリヤ殿はそこの娘と結ばれるのでは?)


(…)


なにやらコソコソと何かを話している。いったい何を話しているのでしょーねー


「では、お別れですね。貴方方に会える日、待っていますよ。あーもっと研究したい…」


キリヤ達は手を振りながら国を出る。背を向けるのは心苦しいが、しっかり前をむいて歩く。見送る王女は、数日前のネイク様からは考えられないほどの可憐な笑顔を後ろ姿に向けた。


「さて、私の鑑定がなにやら怪しい気を感じてるわ。」


「ワイ、いっつもも思うんやけどもう鑑定から探知に近くなってないか?」


確かにスキルは人によってやや異なる。例えば攻撃小上昇でも、中ほどの効果を得れる人もいる。修得方法も人それぞれなため、一括りにしにくい。名前は同じでも効果が微妙に異なる場合もあり、猶更括れない。学者も研究が進まないと匙を投げる始末である。


それを抜きにしても、鑑定のほか会心強化のスキルなど、レア尽くしなためにギリアラは運の神様に選ばれているのかもしれない。


「出てきなさい!誰かは知らないけど、いるんでしょう?」


「…バレたかあ。さすがソーサヨリ王国の救世主だよ~。」


「めっちゃキリヤそっくりや…」


勇者、出現。しかも皮肉たっぷりなセリフを言いつつ。お仲間もゾロリとお出ましで。草むらでずーっと待っていたのだろうか。暇人…?


「ほーう、なかなかの宝石ですな。鑑定持ちとはなかなかに…」


「あら、勇者様と釣り合わなくは無いわね。」


「好き勝手言ってくれるわね。」


勇者一行の対応はまあ酷い物だった。ギリアラはそれに目を回した。で、キリヤは暇なので足元の薬草を引き抜いている。無防備な姿だが、一応僧侶と賢者は監視してはいる。


狂戦士はどこか明後日の方向を見ている。キリヤにもギリアラにも微塵も興味を抱いていない。


「そんなに警戒しなくてもいいよ。僕たちは話をしに来たんだ。」


「…」


胡散臭さMAXの勇者に冷ややかな目を送らずにはいられないギリアラ。只今ギリアラの中では自称勇者を名乗るキリヤに似た子供というイメージに格下げした。


「君たちの活躍を聞いて、僕は大変興味を持った。そして君の目を見て確信したよ。君は強い人だ、とね。」


世辞も甚だしい。そう見抜いてはいるが、事を荒げる必要もないので殴ることなく冷ややかな目を送る。


「だから、僕と共に行かないか?悪の化身たる魔王を討伐するために、僕の力になってくれないか?その美貌も一切傷つけないと誓うよ。」


「お断りします。」


「もちろん、最初は戸惑うさ…だって君は乙女なのだから…」


抱き寄せようと手を伸ばす勇者。僧侶はああ、そんな言葉をかけられて幸せ者だなあという目を。


賢者は断られたのにもかかわらず、必殺の言葉を放った勇者に賞賛の目を。


ギリアラは今すぐ殴りたいという目を向ける。手がポケットのちょびっと出ている鎖の端に掛かっている。額に皺を寄せながら。


しかし、完全に監視の目から逃れたキリヤは勇者の腕を、


バァン!


という炸裂音と共に銃撃した。元より地味なキリヤは認識から逃れやすい。よってものの見事に僧侶、賢者は目を離してしまった。狂戦士は元々見ていない。


「ッ!貴様!」


銃弾が手をかすめ、その熱で伸ばした腕を引っ込める。初射撃が対人になろうとは。


「ギリアラに触れるな。その汚い手ェ洗ってこい。」


「ちょ、キリヤ!?」


長方形の黒い箱のようなものを向け、ソレの先から煙が昇る。驚きのあまり手を引っ込めたおかげで手の甲をほんのり焼いただけに済んだ。キリヤは笑顔なんてかけらもなく、虚無の様な顔をしている。かちゃりと物体の上半分を引くキリヤ。その先を頭に向けている…


「次は無い。その頭ぶち抜く。」


「キリヤ…ということで、私は心に決めた人がいるので。」


「こんの…!訳の分からない物を…!」


「勇者殿。ここでは目が多いですぞ。潰すには人目のつかない場所の方が。」


「不意打ちなんて最低!これだから信仰心の無い人間は…」


勇者=神の使い(らしい)なので、神の使いに手を出したキリヤ達を信仰心の無い者と認定した模様。


「へえ?結構面白そうじゃん。」


興味が沸いたか、キリヤの貧弱そうな体を隠すつもりもなしにジロジロ見ている。どう見ても見下しているのだけれども、筋肉達磨に眺められてもそれに屈しないキリヤは格好いい。とても。


「ギリアラに手を出すな。嫌がってるだろ。仲間には手を出させない。」


いつもののほほんとした口調は彼方に消え去り、寒気のするほど冷淡に話す。しかも潰されそうなほどのプレッシャーが勇者達を襲う。タタリは使っていない。


「ヤバい、ギリアラ。こいつ感情が不安定なるとワイの呪いのケが払えんくて浸食されるみたいやわ。下手したらキリヤ乗っ取ってまうかもしれん。そしたらキリヤの身体はワイのもんになる…」


「乗っ取られた後にキリヤが主導権取り戻す可能性は?」


「ない。」


即答。望みは無い。なるべく早く気を逸らさなくてはキリヤがノヴァに浸食されてしまう。しかし助け船は意外にも賢者が出した。


「ここでは貴殿らの身も危ういですぞ。もし勇者と剣を交えたなんてバレてしまったら、後は分かりますな?」


「…まあいい。乗った。」


「場所は貴殿らが決めてよいですぞ?」


何やら企んでいるようだが、フィールドを探す間にキリヤの感情を静まらせる。ひたすら無表情なキリヤに話しかけるのはなかなかに勇気が必要だった。ぼちぼち落ち着いたようで、いつもの口調になり、笑顔も戻ってきた。


「…ごめんね~。ちょっと頭に血が登っちゃったんだ~。」


「びっくりした…でも私のために怒ってくれてありがとう。」


「甘!この空間甘いわ~。ワイ浄化されてまいそうや。」


幸せム~ドを醸し出している最中も賢者を中心に話し合っている。やはりキリヤに何かするようだ。


「ごにょごにょ…というわけである。」


「おお、賢者は頭いいなあ。じゃ、早速頼むよ。」


「お任せを。マジカルソード!」


賢者の周りに十本の魔力でできた剣が浮遊する。それをキリヤとギリアラに五本ずつ分けて四肢と頭に狙いを定める。


「甘いよ~」


「ふんっ!」


音もなく忍び寄った剣を両者共にはたき落とした。キリヤは剣の刃を殴るだの蹴るだのして叩き割ったり地面に刺したりした。ギリアラは鎖で円を描くように一纏めにして術者に投げ返した。まあ回避されるが。


「…あんまり痛くないね、これ~。」


目標を頭に定めていた剣をキリヤが片腕で受け止める。ガッ!と腕に当たったとは思えないほどの音がなっているのだが。と、そこに勇者が突進しながら突きを繰り出す。戦いの火蓋はこうして開かれた。


…不意打ちは卑怯じゃなかったのだろうか?


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