委員長の因縁
精神的に弱ったヨモギを運び込んだキリヤ。連れはキリヤとは一緒にいたくないのか、すぐにどこかへ行ってしまった。
「う~ごめん…」
あまりの広さに病院かと間違えそうになる保健室。余りにもベッドが多すぎる気も…教頭は何故か遠くのベッドに。ぼーっと天井を見つめるヨモギ。
「…全然大丈夫よ。」
キリヤが謝ると、無表情で答える。保険室担当によると、ここでは治せないとのこと。なんせ精神的に弱った人間を治す魔法は無い。精々症状を軽くする程度。
「不用意に呪いは出したらあかんって。ただでさえこの国は呪いで衰弱してたんやぞ?」
「ううう~…ごめんなさい。」
目を横に向け、凄まじく反省しているキリヤ。それをちらりと見たヨモギは、ぽつぽつと語り始める。
「…私、実は魔族の事を思い出したわけじゃない。確かに死にかけたし、あなたにはわからないだろうだけど、魔族の兵士に辱められそうにもなった。」
「私の小さい時。丁度あなたくらいの歳だったかな。とある蛇に襲われたことがある。すごく大きくて、私の中では最強だった両親も、簡単に死んだ。」
幼少期の体験をさらに語る。ヨモギの目の前で、両親が苦しみながら息絶えていく…彼女のトラウマの元は、その凄惨な記憶である。
「…私は、その時にフレアに使った。熱で陽炎を作り出して、ズレた場所に攻撃させて何とか逃げ出した。近くに運よく冒険者の人がいたから助かった…今でも夢で見る。奴は、バジリスク…蛇の王。」
「おいおいおい!バジリスクて…よう生きて帰ってこれたな…」
バジリスク。非常に長い寿命と激烈な毒を持っている蛇の魔物。人語を解するほどの高い知能を持つが、その知能を残忍かつ狡猾に使う。毒を使って即死させるのではなく、自分で毒の強さを調節してじわりじわりと真綿で首を絞めるように命を刈り取る。
というのは有名すぎる例だ。
その全身は捨てる所などなく、全ての部位は、全ての分野において最高の素材である。過去二度しか発見されていないため、ヨモギのバジリスクは三度目の発見例となる。
「奴は恐らくまだ生きている。そして逃した私を未だ狙っているはず。なんせ、私が逃げ出したのは、奴が私を食べるその瞬間だったから…」
今までの無表情を崩し、顔を恐怖に歪める。玉のような汗がこれでもかと流れる。胸を掴み、苦しむ。
「私は蛇が怖い!特に、こちらに向けて口を開けている、蛇が!カエルよ…私は、カエル。蛇に睨まれると、どうしようもできないの!だから、あいつをこの手で倒せば、ようやく私は人間として生きていけるのよ…それが今の私の、生きる理由…」
大きく息をしながら口を閉じるヨモギ。大きすぎるあまり胸がかなり上下している。キリヤは、真剣に彼女の話を聞いていた。
「そうだったんだ~…」
「でも、とことん頑張って勉強しても、どうシュミレーションしても勝てるビジョンが見えない。冒険者みたいに、ガンガン魔物倒した方がいいのかしら…」
「まあそこらの魔物相手なら相手にならん気もするけどな…」
ズレたメガネを押し上げながら呟く。キリヤは話を聞いて、自分も何か話そうと決める。
「僕ね~、端っこの村にいたんだよ~、数日前まで。」
「端っこ…どこかしら?」
「多分わからないと思うよ~?」
ちょっとムッとしたが、村なんて大小さまざまで、カウントされてない農村は沢山あるのを知っているので気にしないことにする。
「村に~、昔からあるダンジョンがあるんだけど~、そこでこれを拾ったんだ~。」
「これて…まあワイは物やけども。」
「シュミ悪いわね…気持ち悪いというか、生理的に無理というか…」
「泣いてええか?」
キリヤがノヴァに視線を移す。目は開けていないのだが、その時点でもう気持ち悪いという悲しさ。キリヤは本人はかっこいいと思っているのは内緒。
「ふーん、内包してる魔力は濃いし、あなたとかなり強く繋がれてる感じもする。いい相棒って感じね。私にも、バジリスクと戦うときにそれくらい強く繋がれてる仲間がいた方がいいのかしら。」
ヨモギはキリヤとノヴァの親和性を見出す。それを聞きなんとなく照れ臭く感じる二人。後半の仲間云々は望みが薄いのか、ぶっきらぼうである。
「それでね~、襲ってきた獣人を倒したんだけど…この国に、その人の妹がいたみたいなんだ…」
「ちょ、キリヤ!?」
「そう、なの…」
重苦しい空気。余計なことを言ったかな…とおどおどしていると、ため息を吐きながらベッドから立ち上がる。
「はあ。ただの子供と思っていたけれど、あなたも相当苦労しているようね。じゃ、私は授業を受けに行ってくる。あなたも教頭が起次第、また案内してもらったら…」
ベッドから抜け出し、制服を整えて行ってしまった。果たして、彼女はバジリスクとの因縁は断ち切れるのだろうか…
「まー教頭起きるまで待とかー。」
「そ~だね~。」
ぼーんやり窓を見ながら待つキリヤ。外で何かしらを追いかけてるギリアラとネイクのような人影が見えた…ような気がする。一体何をしているのだろうか。
「のほぅ!あれ、どうして医務室にいるんでしたか?ほへぇ?」
独特な声と共に飛び起きる教頭。周囲を呆然と見渡し、キリヤを見つける。
「おや、キリヤ殿。私は…どうなってしまったのでしょう?」
「寝てたよ~」
「ふーむ…私も歳ですかね、お客さんの前で寝るなど…」
歳のせいにしたヒイルド教授。都合がいいのでそういう事にしておく。キリヤが簡単な魔法が覚えたい。と言うと、ああそれならとキリヤを連れて、何階か数えるのも億劫なほど登って着いた教室。
「ここです。ではお楽しみください。」
「え、また会ったじゃない。」
なんとヨモギはこの授業にも出席していた。基礎の基礎でも、習うことは悪いことではないとのこと。
これにてしっかりキリヤは基本的な魔術を覚えた。これで一応火、水、風、土の基本は扱うことができるようになった。
「私は別の授業があるからお別れね。」
「うん。バイバ~イ。」
「それで、次はどんな授業をご要望で?」
「せやな…魔法の基礎のところから学んだ方がええと思う。なんちゅーかキリヤの魔法は滅茶苦茶んよな…めんどいと思うけど、図書室行こ。多分あるやろ。」
「本あるところがいいな~。」
「かしこまりました。ではこちらへ…」
どうやら地下まであるらしい。地下への階段を降り、通される。無数の棚に本がびっしり保管されている。日の光で劣化しないように地下に建てられているのだろうか?湿気そうだが。生徒も多い。
「この中では静かにお願いします…気が立ってる生徒も多いので…あ、折角なので、ご所望の本を探しましょうか?」
小声で注意する教頭。と言う事なのでゴブリンでもわかる魔術入門という喧嘩売ってそうな本を借りる。しかし名の通り非常にわかりやすい。質問役のゴブリンがこれまたいいキャラしている。
「んー、ふざけたタイトルの割にすんなり頭に入ってくるのが妙に腹立つ。」
「僕って結構魔術高いんだね~。」
本によれば初級の魔法を使うなら十から十五、中級近くを扱うなら最低でも二十五近く、中級全体扱うなら三十五は必要とある。四十から五十なら中級はもちろん、上級も難なく扱えるだろう…とのこと。
「魔術に関するステータスは他に比べて上げにくいんやな…まあキリヤはこれ以上成長することもないんやけど…」
読み終えたキリヤは、キャッチコピーを見る。これを読めばただのゴブリンでもゴブリン・マジシャンになれる!?と書かれている…そもそもゴブリンが人語を解さないのは言ってはいけないのだろう。
よくバジリスクは睨まれると石になる…といいますが、それは睨まれた者が石のようになってしまった、という目撃談を聞いた吟遊詩人などが誤認識した結果です。少なくともこの地に生息する蛇王にそんな能力はないです。もしあれば彼女は、今頃キリヤと話してはいないでしょう。以上蛇足でした。




