エンチャント
「あれ?皆さん?英雄様ですよ?」
ヒイルド教頭がちょっと焦りながら見回す。胡散臭そうに見る生徒や、キリヤの向こうを透かして見ている生徒ばかりだった。完全に相手にされていない。
「はい、ヒイルド教頭。」
そんな中、メガネをかけた気の強そうな女生徒が手を挙げた。メガネとは、視覚を強化する魔道具で、希少な水晶を使うために、高価。つまり金持ちしか買えないのだ!
「なんじゃね?ヨモギ委員長。」
「こんな子供が救世主なんてあり得ません。冗談だとしてももっとマシな嘘を吐いてください。」
淡々と話すヨモギ委員長。凛とした顔に、腰まで届くオレンジ色の髪。キリっとした目で、デキる人感満載な委員長。そんな彼女を生徒達はだんだん支持していく。一方教頭はニヤニヤと笑っている。絶対にこの状況を楽しんでいる。
(あー早くこの子の才能を見せてあげたい!絶対驚くぞ~!)
「うわ~…この教頭ドッキリの仕掛人みたいになっとるな。」
こらえきれないという様子で指を動かしている教頭。ギリアラとネイク王女はなんとなく居心地が悪くなった。そこで…
「私たちはちょっとお暇させていただくわ。鎖の調子が悪くて…折角来たのに、申し訳ないです…」
と言い訳。
「んじゃあワイがしっかりキリヤの事監視しとくわ。」
「あ、そうですか…では!キリヤ君は…ヨモギ委員長の隣が開いていますね!ささっどうぞ~」
促されるままに座るキリヤ。隣のヨモギからは奇異な物を見る目で見ている。
「本当にこいつが…」
とかぶつぶつ言っているけども、授業は始まるのでしっかり口を閉じた。教頭は笑いながら教室の端っこにいる。不気味。
「え~っと、今日はですね、付与魔法についてですね、教えていこうと思うんですね。」
付与魔法とは、魔法を対象に纏わせる魔術であり、主に属性を纏わせるという。武器に魔法を纏わせ、魔武両方を扱える者が魔法剣士のジョブを得れる。が、その特性上少ない。
「よくエンチャントと言われる奴ですね、付与魔法はあくまでも纏わせるということにですね。注意していただけたらですね。いいですね。弾き飛ばされたらですね、終わりですからね。」
授業の半分は説明で終わったが、ついに付与魔法の練習が始まった。これを心待ちにしていた生徒も多いようだ。ヨモギ委員長も例外ではない。
「え~っとですね。こちらにですね。魔晶で出来たですね。棒があるんですね。これにですね。魔力を流し込んでですね。付与魔法をですね。習得してもらいたいんですね。」
まず、先生にどんな属性を得意としているかを実際に魔法を出して確認してもらい、それから付与魔法の練習に移る。魔晶棒は一本しかないため、時間はかかるだろう。
得意な属性を纏わせる生徒たち。しかしうまくいかない人が多く、できたのは火と水使いの二人だけ。そしてついに委員長の番である。
「ヨモギさん、適正属性をですね。見せてもらいたいんですね。」
「はい。」
手のひらに小さな太陽のようなものを出現させる。教室の室温が上がるのがわかる。
「いつ見ても素晴らしいですね。フレア持ちは希少ですからね。」
火を越えて熱そのものを操る類稀な魔術。フレア。これを適正属性とする者は滅多にいない。なぜなら普通は熱に耐えられずにてが爛れてしまうほどであるから。しかも爆発もする。
「魔術を浸透させ、全体に行き渡る様に…」
目を閉じ、完全な集中状態にある彼女の気迫と熱気は、太陽そのもののようだ。熱い適性属性に対して冷たい性格なのが難点だ…
「もう少しですよ…もっと、強く…それでいて優しく…」
棒の周りには陽炎が立ち上り、先生の顔を歪ませる。
「はあ!」
気合を入れるように声を出し、目を見開いた委員長の手には、薄いオレンジ色の陽炎を纏った魔晶棒があった。
「素晴らしいですよ!初日でこれだけ出来たのはあなた含めて3人ですよ!」
先生が我を忘れて飛び跳ねている。魔力の供給と出力が偏ったり滞るとすぐ解除されるため、大変困難なことをである。それを難なくクリアする。さすが委員長。
「では…キリヤ・ミラージュ。でしたね。ではどうぞ。」
キリヤが席を立ち、先生の隣に立つ。キリヤが呼ばれてから囁き声が絶えない。
「あなたの適正属性は?」
「う~ん…どうしようかなあ?」
「どうしよう?なんだ、まだ決まってないのか?」
「仕方ないんじゃない?どうせまだ未熟な10歳近くなんだし。」
いろいろ言われているが、ノヴァと相談して(不死鳥の火や!)決めた属性は…
「それっ」
手からナニカを出すように手を動かす。何も出ていない…と思ったのも束の間。全生徒が背筋に激しい悪寒を感じた。
冷たく、恐ろしい。負の感情を圧縮したナニカが体を駆け巡る。恐怖。先日まで魔族に支配されていた恐怖が、記憶に刻まれた恐怖が、体を這い回っている…!少なくとも、ここに居る全員がそう思った。
「は…?」
先生が硬直してしまった。死んでないか本気で確認したくなるほどに青ざめ、動かない。
唯一教頭だけが涼しい顔をしている…いや、気絶しているッ!
「はっ!」
「話聞いてたんかキリヤアア!」
先生の意識が戻った。兎にも角にもソレを止めるように伝える。ノヴァは半狂乱である。
「なんだったんだアレは…」
「怖かった…二度と幸せが訪れなくなるようなことが起きそうな気がして…」
呪いは他の属性とは違い、目に見えないし、そもそも実体化自体が不可能である。呪いを扱う種族(魔族)はいるが、人間が使ったという話は一人しか前例が無い。
「うく…ヒック…」
どこからか泣き声が聞こえる。声の元は…ヨモギ委員長だ。過去の恐怖を想起させる、と先ほど説明したが、彼女は生徒たちの中で最も辛い経験をしたのだろう。
「…それ以外には?」
「火かなあ~」
一応火で試してみるも、キリヤは失敗した。不死鳥が力になってくれたとしても、さすがに不可能だったようだ。
「えー…では授業を終わります…」
授業が終わり、先生が退室。そして露骨にキリヤを避ける生徒。委員長はキリヤと生徒一名が運ぶことに。無論その生徒は目を合わそうとしない。ついでに教頭も。
「やってもうたな…」
「そうかな~?」
ヨモギを運ぶ途中、こんな会話を。呪いをまき散らすなんて、魔族と疑われても仕方ないことをしでかしたのだ。それでも一応、キリヤが国を救ったという真実味が出たのではあるが…




