国王大暴走
翌日の朝。兵士がめちゃくちゃ頑張って救出した多数の貴族の来賓の中で、キリヤ達は正式に王に謁見した。修復されていない天井の穴から太陽が祝福している。
「ほらもうちょっとやで。ピシッとしいや。」
今キリヤ達は継ぎ接ぎの巨大な正面扉の前にいる。暗行と会う前に蹴飛ばした扉である。それを木の残骸で直したのでこのような形になっている。あちこちに小さな穴が開いていて、中の声が少々聞こえる。
大きなラッパの音と共に正面の扉が開いた。開くと同時に、不死鳥の模した刺繍が施された深紅の絨毯が目に飛び込んでくる。が、泥などで汚れている。魔族が踏み荒らしたのだろう。
「人多い…そこまで私たちが気になるのかしら?それとも暇なのかしら?」
「シッ!聞こえるって!」
あまり気のない拍手と共に囁き声が聞こえる。自分から見に来たくせに、なんという態度だ。
「え?この少年が国を?」
「いや、まさか。そこの美女じゃないのか?」
カーペットを通り、視線を浴びながら王様の前にて跪き頭を下げる。王妃は不在だが、ジェットパック研究に熱中してるのだろう。多少礼儀を知っているギリアラが口を開ける。
「国王陛下。お目にかかれて―」
「あーよいよい。顔を上げて、そんな堅っ苦しい言葉遣いもせんでよい。」
「ゑ、しかし国王様…」
「この子らはこの国ばかりかロッズナイト王国すら救ったとも言える者たちなんじゃぞ。」
有無を言わせぬような物言いで断言する。貴族たちは困惑して顔を見合わせたり、ざわついたりした。
「そんなことよりも、お主らはこの国を救ってくれたんじゃ。じゃから様々な褒美を遣わそう。」
(ねえ~、これいいのかな~?)
(ワイに聞かんといてえや…)
「まず、我が国のあらゆる施設は半額じゃ。宿と温泉については金は払わんでもよい。この印を見せれば半額にするように皆に伝えておくでな。」
従者からキリヤへ、布に包まれた印を渡された。布を少し開いて本物が入っていることを示しながら耳打ちしてきた。赤の宝石がきらりと輝く四角い箱に見えた。
「キリヤ様。こちらは店側で本物だと一目でわかるような細工をしております。ご安心下さい。(眠い…一晩で作れとかきついぜ…)」
受け取るとき、少し触れてしまった。すると触れたところから複雑な模様が浮き出した。これが細工ということだろう。カバンに入れておく。
「次に、中央公園の噴水を改築して噴水兼銅像にする。なんとなくあれだけだと寂しくての。丁度良い機会じゃから賑やかにと言う事じゃろう。」
「へ、っは!?」
一陣の風が舞い込んだかのようだ。絶句の音が聞こえ、今にも怒鳴りそうな雰囲気の貴族もいる。ノヴァは一度来る途中に噴水を見ているが、なるほど大きい噴水だったと思い返す。
「最後に金もそうじゃが、もっと大事なことを託そうかと思う。」
金が一番大事な貴族からすると不思議なことだろうが、今は誰も咎めない。はち切れそうな空気の中、王はとんでもないことを口にした。
「わしの娘を連れて一日街を歩いてもらう!」
その大きな声が玉座の間に響き渡る。その声よりもことさら高い声の方が勝った。
「ヒッ!」
玉座の裏に隠れていた(バレバレ)王女がひょっこり頭を出した。麗しい小顔にクリっとした目に、ドレスが似合うの金髪の少女。王族は金髪が多い気がするが気のせいである。国王?白髪だけど?
国王たちは牢獄に閉じ込められていたが、王女は自分の部屋のベッドに隠れていた。もちろん生半可な隠れ方ではない。小柄なのを利用してマットレスと床板の間に挟まっていたらしい。腹が減って抜け出して、こっそり食事を漁っていたとか。
だが巧妙すぎたせいで見つけるのが遅れたとかなんとか。
「可愛いな~あの娘。なあキリヤ、将来ああいうのと結婚するんか?」
「?」
「えと…街なんて、怖い…」
恐ろしく小さな声で否定する王女。この場で隠れていたりしているところを見ると、かなり引っ込み思案なようだ。我慢の限界の複数の貴族が立ち上がり、王に向かって怒鳴った。
「こんなただの少年にネイク様を渡すと!?私は認めませぬ!」
「そうだ!それに銅像だと!?甚だしい!」
この王女のはネイクというらしい。可愛いらしい少女なので惚れこむ輩が多いのだろう。これに便乗して、三分の一程の貴族が口々に叫ぶ。その他の貴族は非常に迷惑そうにしている。キリヤ達はどうしようもできないカオスな状況。
「静まれい!!!」
怒鳴り声よりも大きな声を出し、場を鎮める。
「わしはネイクを託すことに何の悔いもない。シラクスた―コホン。シラクスよ、キリヤ達の善行はわかっておるのだろう?それに、銅像の件は民衆の希望じゃ…」
「はい、父上。彼らは信頼できます。」
「具体的にどうすればいいの~?」
話せそうな雰囲気なので、キリヤなりに言葉を考えて聞いてみた。
「な~に、ちょっと街を周るだけじゃ。お主は見たところ歳は10。ネイクは今年で11じゃ。この子は同年代の友達がおらん。少々話し慣れておかんとな?ついでに結婚…」
「父上!?」
断ることでもないが、王女に何かあったとしたら…処刑で済むのだろうか。それ以上に、隣のギリアラから負の感情を発す。どうやら国王がちょろっと漏らした言葉を聞いてしまったらしい。近くにいたシラクスも。
「さて、お主らには数万を授ける。これくらいしか出せず申し訳ない。そうそう、お小遣いはネイクに渡しとる。何か買うといい。どこに行っても歓迎されるじゃろう…」
「男の子…男の子…不安だよぉお父様…」
「そうじゃな…ソーサヨリ魔術学校にも行ってみるがよい。多分、一日入学を拒む者はおるまい。あそこは我が国の誇る教育場じゃ。楽しんでな。あと、ネイクにあまり気を遣わなくてよいぞ。いつもとは違うということをはっきりせんとな。」
しれっとネイクをスルーしながら提案する王様。その旨を話した後に解散となった。城を出る最中に、一部の貴族に無茶苦茶睨まれたのは言うまでもない。
王が指定した中々に居心地の良い宿にてキリヤ、ギリアラ、ネイクは押し黙ったまま椅子に座っていた。魔術的な工夫のされた箱から暖かい風が送られてくる音が聞こえるのみ。
(王女…でも去り際に気を遣いすぎるなって釘刺されたし…)
(なにか…話さないと…)
(あったか~い)
一人だけ見当違いが混じっているが、そんなことはどうでもいい。大国の王女が目の前にいるのだ。下手のことをすれば打ち首になってしまう。
「(とりあえず…)町、行ってみましょうか。」
「は…はい!」
「い~ね~行こう行こう~」
城下町は冒険者や一般人などでごった返していた。どこでも人が足らず、立ち寄った冒険者も復興の手伝いをしている。人だらけで到底歩けそうにないが…キリヤの背にある異常な雰囲気を感じ、人が少し避けていく。
「人、多い…あ、りんご…」
ふるふると震えながらもとある八百屋を指す。リンゴと書かれた張り紙が貼ってある箱の中には真っ赤に熟れたおいしそうなリンゴが覗いていた。残り一つという状況だが。
「それなら~僕が行くよ~」
「いや…でも…私…」
「いいからいいから~」
そう言うと、僅かな隙間をスルリスルリと縫っていく。体の小ささを駆使して進んでいく姿は、大きめの蛇のようだ。さらに、ノヴァの持ち手を他人に当てないという高等テクニック。
「「これください!」」
キリヤがリンゴに手を置くと同時に、モフっとした手が置かれるのを見た。
「おっと、失礼しました。」
手がリンゴから手を離すと同時に、キリヤも手を引く。見ると、フード付きのパーカーにジーパンというちょい古スタイルの女性がいた。なによりサイズがあってないようで、ちょっとぶかぶかである。
「別に~?リンゴどうする~?」
「いえいえ結構ですよ~。」
フードはここに来るまでに脱げてしまったようで、犬の顔が丸見えだ。ノヴァはその顔に注目した。
「こ、こいつ人やない!」
「気のせいじゃないの~?」
「いや気付けよ!」
「あら?獣人が珍しいですか?それと、誰かとお話してるんですか?」
不思議そうにキリヤの顔を覗き込む。何故か彼女にキリヤの村に来た獣人の気配を感じるノヴァ。
「してないよ~。それよりも見たことある顔~。」
「…」
なぜか暗い顔をする彼女。それはなぜだろうか。




