王国を奪還せよ
もはや国とは言えないほど荒廃し、生命の息を感じられないソーサヨリ王国に悲鳴を上げたのはシラクスだった。
「そ、そんな!私の国が…幸せが取り巻き、民の笑顔があふれる国が…」
シラクスは大粒の涙をいくつも零し、「少し」と震えた小さな声をかけ、キリヤ達から離れた。岩陰にふらふらと歩いて行ったシラクスの方からは朝食べた数少ない料理を全て吐き出す音が聞こえた。
「キリヤ、ギリアラ。シラクスは今は…しばらく一人にさせたるべきやな…」
「「うん…」」
数十分後、シラクスは空も驚く真っ青な顔でキリヤ達の前に現れた。しかし、その目には熱い決意の火が燃え盛っていた。祖国がめちゃくちゃだというのに、強い男だ。
「シラクス、安心して。私のスキルで見たところ全員生きているわよ。でも…」
「いや、生きているならいいんだ。私はそれだけで十分だ。」
それを聞いてシラクスは顔に少し血の気を取り戻した。
「さて!魔法で厳重に警備されとる国をこんなんにしたんや。かなり強い魔術師と大量の魔物がいるはずや。ワイとキリヤは敵のボスがいると予想する城へ突っ切る。後から追っかけてくる魔物はあんたらに任すわ。」
「大丈夫なの…?」
「様子見やからだいじょぶやって。」
シラクスに戦法の内容を伝えて、役割を果たしていない門を潜る。やはり子供が単身で乗り込むのは腑に落ちないのか、シラクスは言いたいことが言えない顔である。
「「…!」」
中に入ると、後ろにいたギリアラとシラクスの様子が急変した。
「ぐう…体が重い…けど動けない程じゃないわね。」
「この感覚は慣れないな…レジスト出来ないのが癪だ…」
「あ~…こいつは呪いやな。弱化のタイプか?呪いってことは魔術師やなくて呪術師がおんのか…」
「?」
「キリヤには関係ないで」と最後に付け足す。呪いに喘いでいても進まないので、城までの広い一本道を突っ走っていく。しかし、もちろん簡単には通れない。城への階段まであと少しというところで数多の種類の魔物が、滾る命の炎を感知して崩れ落ちた建物の影から飛び出し行く手を阻む。
「邪魔くっさ!一気に薙ぎ払ってまえ!」
「おっけ~!」
力の数値が300近いキリヤによるフルスイング。初戦闘時の時よりも飛距離や出力は上がり、高地の城へ登るための階段まで届き、大きなクレーターを作った。当然、道中の魔物は皆消し飛んだ。
「おし!一気に突入や!こっからは別行動!ギリアラ、シラクスは魔物の殲滅を頼んだで!」
「「OK!」」
城まで一直線に走り抜けるキリヤ。後方の魔物はしっかりギリアラとシラクスが相手してくれている。道を塞ぐ魔物を斬り払いながら着々と城へと近づいていく。
(う~ん…そういえばノヴァに気になることあるんだよね~)
気になること。それは剣身と柄の間に眼のような器官があり、魔物を倒すたびにだんだん瞼のようなものが開いていっていることだった。最初に発見したときは眼が閉じてあったのだが…
(もっと斬ってたら完全に開くかなあ~。)
魔物一体倒しても、瞼はほんの少ししか開かない。ノヴァも気づいてないらしく、
「どけどけ~!斬られてえか~!」
と言って楽しんでいる。キリヤが斬り払いつつ進んでいると、今まで感じていた力の上昇がピタリと止まった。違和感を感じつつも魔物を倒す。やはり力は上がらない。
「あっれ~?おっかしいな~…」
「どうしたんや?キリヤ?」
ノヴァをくるくる回して異変が無いか調べる。眼が表と裏で共用しており、開き具合も一緒である。不審な点は、眼が半眼になっていることだろうか。
「ここで立ち止まったらマズイから調べんのは落ち着いてからやぞ。」
「う…うん…」
どうにか階段付近まで来れたので城を見上げる。続く階段は1000段はありそうだが、キリヤのフルスイングにより所々崩れてガタガタになっている。穴ぼこの階段を登って城に急ぐ。
中央付近で振り返ると、もう魔物は追ってきていなかった。
「あー、疲れた~…でも、なんで力の上昇が無くなったんだろ~?」
「ならステータス見てみよか。あ!ワイのもついでにな。どんだけ攻撃力上がってんのかなー?」
「僕のは変わってなかったけど~、ノヴァは?」
ノヴァ
攻撃力87 属性 呪
スキル
呪い-装備が外せなくなって、体の自由がきかなくなる。呪い耐性が上がると緩和される
吸血-【LEVELMAX】敵を倒すたびに攻撃力+2とHP回復
魔力蓄積【LEVELMAX】-敵を倒すたびに剣に魔力が蓄積され、剣から魔法を出せるようになる。レベルアップで使える魔法が広がる
「MAXやって!うれしー!…コホン。力が上がらへんか…普通なら剣が成長しきったって考えるけどもなあ…キリヤの力の数値とワイの攻撃力を合計するとちょうど300になっとって偶然とは思えんわ。」
「う~ん…?よくわかんな~い」
「あー、じゃあ城行こか…」
難しいことは後にして階段を駆け上がり、城の、機能していない扉を蹴破って玉座の間へと侵入する。
目に入ったのは正面にある、抜け落ちた天井から差す光に当てられた玉座。
そこには黒いフードを被り、左手で頬杖をつき、右手に杖を持った魔族だった。顔を隠すフードをしていても、フードの隙間から覗く角は隠しきれていない。魔族は角が強さを決めるという。人間には違いが判らないが、そうらしい。
この魔族は色も形も大きさも地味だが、纏う魔力の濃さが生半可な相手ではないことを示している。
「ククッ!僕の呪いが効かないなんて初めてだヨォ!」
玉座に座っている魔族の男が興味深そうにこちらを見つめている。気味の悪い話し方だ。
「お~っと!初対面のヒトには挨拶をしないとネ!僕は暗行。いやあ、王子に王の座が受け継がれる前日に国を呪って弱体化したところを攻めル!僕ながら天晴だヨ!」
フードを下げながらお辞儀をする。ぼさぼさでくすんだ灰色の髪。額からの角。光のない色の薄い目。魔族の特徴が一目でわかる。だからこそフード付きのローブを着込んでいるのだろう…灰色の髪と目は魔族特有である。
「はっ!アホらし。こんなガキ、ささっと片付けてまうで。」
「へえ~君面白い剣を持ってるネ。僕らの中でも喋る剣なんて珍しいんだヨ?あと、こんな見た目だけどキミの持ち主の倍は生きてるからネ?」
ノヴァの声が聞こえる様子。魔族は長生きなので一見幼そうに見えてもかなり歳を食ってる可能性がある。ロリババアもいるとか、いないとか…
「面白くなってきた!じゃあ、こんなのはどうかナ?」
ローブを脱ぎ捨て、杖を構える暗行。呪詛を呟くと、彼の魔力が高まってゆく。
「呪術 劇毒!」
杖に嵌っている宝珠が紫に光り、目には見えない呪いが飛んでいく。普通の人がかかると形容しがたい苦痛に苛まれながら死んでしまうが、キリヤには…
「何かしたの~?」
何も起こらない。剣すら構えてない十歳前後の少年には何も起こらない。
「いや、キリヤ。剣くらいは構えた方がええで…」
「は~い。」
「ぬぬぬ…バカにしやがっテ!」
アンコウは怒りで立ち上がり、様々な呪いをキリヤにかける。
「呪術 獄炎!呪術 氷棘!呪術 黒雷!」
約15種類くらいの呪いをかけ、呪いの発動条件である負の感情により、玉座の間が果てしなく暗いオーラに包まれる。
「はあ…はあ…これで、どうダ…!」
後先考えず呪いをかけたせいでかなり消耗する暗行。一方キリヤ。
「何かした~?」
「そ、んな馬鹿な…」
何も起こっていない。むしろ、呪いを受けて強くなっているように感じる。
「なんで僕の呪術を受けて無事にいられる?これでも13魔将の一人!そんな僕の呪術を受けて!なぜ!」
「あっれ~?呪いを受けたらノヴァの目が開いたんだけど、なんで…?」
ノヴァの変化。それは今まで半眼だった眼のような器官が一気に開眼し、鬼灯のように赤い強膜と、猫のような切れ長の瞳孔が現れた。
「おおお!?なんや?一気に視界が広がったで?」
眼をキョロキョロさせたり、瞬きをしたりしたノヴァ。まるで生きているようだ。
「お、スキルと名前も変わっとるな。」
成長?したノヴァのステータスとは?
蛇足:魔族の定義は灰色の髪に目、角です。しかし人々は、害のある人型を魔族と呼んでいたりします。ちゃんと勉強している人は分けて呼称しますが、大概そんなものです。




