ソーサヨリ王国
どこからか逃げてきたかのような人を助けたキリヤ達。こいつは一体何者なのだろうか?
「ぷはあ!水というのはこんなにも美味しいのだな!何なら飯も分けてもらえると嬉しいのだが…おっと、自己紹介がまだだった。」
そう言うと水筒を置き、ボロボロのフードを脱いで顔を見せた。青い髪に明るい黄色の瞳の青年で、見たところ15~16歳といったところだろう。
「いやあかたじけない!私の名前はシラクス。実は王国から何とか逃げてきたんだ!」
「王国ぅ?」
「私は回りくどいのが嫌いだから単刀直入に言う!私の国を救ってもらいたいのだ!」
どうやら何かがあって国から逃げてきたらしい。本当にいきなりで驚くキリヤ達をよそに、シラクスは続ける。
「私の国は魔王の配下の中でも上位に位置する魔王軍13魔将の一人に占拠されてしまったんだ。私の国はロッズナイト王国に近いので狙われたのだろう。私は何日もさまよい、ようやく強そうな冒険者達に会えた!さあ、私についてきてくれ!今すぐにでも私の国を…」
「あのー…シラクスさん?その国を助けるのはいいんですけど…まずは場所教えてくれませんか?」
「おっとすまない。早まりすぎたか。私の国はソーサヨリ王国だ。」
「な、ソーサヨリやって?むっちゃ遠いやんけ!」
ソーサヨリ王国はここから歩いて5日はかかる。つまりシラクスは5日間飲まず食わずでここに来たのだ。
「ねえ~、ソーサヨリ王国って~、どんなとこ~?」
「ソーサヨリ王国は魔法系の専門家などが集まる王国なんだ。ロッズナイト王国の王都にも多くの魔法物資を送っているぞ!もちろん私も魔法を使えるぞ!」
祖国だからか胸を張って説明するシラクス。
「へ~。そ~なんだ~」
「そんなん話してないで急いで移動する方法を…あ!ええこと思いついた!キリヤ、そこの山から木切るで!」
「い~よ~?」
「うぇ、急に何を…ってすっご!」
とりあえずノヴァの言う通りに木を切り倒す。いきなり動き出したキリヤに驚き、太い木を一回で切り倒したことにも驚いている。
「ギリアラ、ジェットパック出してそれを鎖でぐるぐる巻きにするんや!五日近く国放置のまんまなんや…急がなあかんで!」
「え?ええ…」
ストレージからジェットパックを取り出し、ノヴァの指示に従い鎖を巻き付け、余った部分を手綱風にする。
「ほんならキリヤ、木の端っこを切って車輪にして馬車みたいなん作んで!生木なんが惜しいねんな…」
木の端っこを車輪とし、他を馬車風に改造するのがノヴァの考えだそうだ。ついでに、ソリにした丸太も有効利用しようとのこと。木工大工をすること一時間。急ごしらえの馬車風の物が出来上がった。
「最後にギリアラの鎖でジェットパックとこいつを繫げれば完成や!」
鎖でジェットパックと馬車を繋げば完成らしいが…?
「で、どうやって動かすんだい?その…なんかよくわからない道具はどう使うんだい?」
「ふふふ。ギリアラは操縦、キリヤはジェットパックの燃料や!ギリアラと一緒に鎖持って魔力送れ!」
「え、ええ!?馬にすら乗ったことないのに?」
「おっけ~」
なんとなくジェットパックが動くイメージを持つ。するといきなり炎が噴き出して車を引っ張っていき、あっという間にシラクスが小さくなる。かなりのスピードで進んでいく馬車は、しっかり捕まってないと吹っ飛ばされそうだ。
「おっし成功や!荷物持って行くで!操縦はギリアラ、任したで!」
「む、無理かも…(でもキリヤとの共同作業…!)」
「置いて行かれるのかと思ったぞ…」
猛スピードで地を駆ける馬車。このくらいの速さでも真っすぐ進めるのはギリアラの技術によるもので、この速さがあれば一日でソーサヨリ王国につくだろう。早く救わねばロッズナイト王国にも被害が及ぶのは確実といっていい。
「おおすごい!速い!黒髪の少年よ、やるな!」
「ふふん、ワイの呪いをものともしいひんからな!」
キリヤは黒髪黒目で平均なスタイルである。探せばちらほら見る髪と瞳で、髪や瞳の色が変わっている人はだいたい何かしら特殊な力を持っていることが多い。シラクスもさては何かしら…?
「そういえばシラクスにはワイの声聞こえてへんねやったな…」
なんてつぶやきながらもソーサヨリ王国へと距離を詰めていく。だんだん夜が近くなってきているのでそろそろ眠ることにした。キリヤも疲れてきたのでちょうどよかった。キリヤの魔力も無限ではない…
「とりあえず簡単な物作るわね。」
明日に備えて夜ご飯を食べる。といっても本当に簡単な一品もので、腹を膨らます、というより誤魔化すような量だ。ノヴァはシラクスの正体について考えていたが、見た目といい肌に感じるオーラでなんとなく感じ取り始めていた。
「おお!美味い!一品だけなはずなのにお腹も心も満足している!これはすごい!」
いちいちオーバーな反応をするシラクス。しかし夜食は適当サラダだけ。今まで何も食べてないからそう感じるのだろうか。
「食べたら早く寝る!ソーサヨリ王国で何があるかわかんないから体力を回復させるのよー。」
「ごちそうさま~。そしてお休み~。」
テントに入って眠るキリヤ。しかしこのテントではシラクスが入れるスペースが無い。キリヤは絶対として、ギリアラか、シラクスかが外に出なくてはいけない。
「う~ん…どうしようかしら。私が外に出てもいいけど…?」
「いや、私が外に出よう!お嬢さんは中に入って寝てくれ。少し夜景を楽しみたく思ってね。」
「ならお言葉に甘えて。あ、そうそう、一応この剣を傍に置いといて。何かと役に立つから。こいつ。だけど、できるだけ触らないように!私は注意したからね!」
ノヴァを収めている鞘を持ち、地べたに座るシラクスの横に置く。シラクスはなんで武器をこんなところに置くのかはわからなかった。しばし不安げに夜空を見上げた後、どうしても気になる剣に手を伸ばす。
「この剣は一体…?」
危うく触りそうになったが、ゆるりと近づく何かの気配を感じ、即座に警戒をする。
「むう。この剣について知りたかったが仕方ない。」
現れた魔物は穂先だけの槍が刺さった紫のスライムだった。その紫色の体には毒を含んでおり、それは食性によるものである。普段は毒キノコ等を食して毒を蓄積させ、大物に出会った時に毒を使って捕食する。
また、普通に毒キノコをすりつぶすよりも半液状のこちらの方が使いやすいのでパープルジェルは人気の素材である。ただし取扱注意。
「しかし素手で戦うのは悪手だな。まだ魔力も回復してないというのに」
もちろん武器無しで戦うのは毒液に手を突っ込むような行為なのでできない。迷っている隙を突いてパープルスライムが襲い掛かる。それを迎撃したのは傍に置いてある剣だった。服を脱ぐかのように鞘から抜け出し、顕わとなったS字の刃が半液状のスライムの体をしっかりと掴み、引き裂いた。
「ぬわ!こいつ勝手に動くのか!あの少年…こんなもの一体どこで…?」
ゾッとしつつも、どこか安心したような気持ちの中、自然に眠る。
「ふわ~あ!よく寝たなあ。しっかしベット以外で寝るのは初めてかもな!おおお…体が痛い…」
バキバキと体を伸ばしつつ辺りを見回すと、体が中途半端に残った魔物が複数転がっている。それにS字の剣の位置も変わってる気がした。猟奇的だが、こんなのにいちいちビビっていたらこの世界は生き抜けない。
「寝れなかった…あら、起きてたのね。なら朝食急いで作りましょうか。」
魔物には目もくれず、ささっと調理してスープを作る。たいして美味しいものではなく、味も薄いし具も少ししかない。二人で最低限の食材しか買ってないので、在庫をうまいことやりくりして三日持たせないといけなくなってしまった。しかも三人分。
「いや、少し待ってくれ。この槍を調べさせて欲しい。」
昨日のパープルスライムに刺さっていた槍に近づき、矛先から柄までじっくり観察する。パープルジェルに覆われていても、刻まれている紋章は隠せなかった。
「これはッ…我が軍の投擲槍…!」
ソーサヨリは魔導国家ではあるが、魔法部隊だけでなくしっかりと装備を着込んだ兵団がいる。しかしそこは魔法の栄える国。武器に属性を纏わせられるよう特殊な細工が施されている。
武器の中で、槍を使う部隊は、魔法を纏わせた投擲槍を雨あられと浴びせる中々えげつない戦法をとる。その穂先がここにあるということは…
「もうすでに私の国は、滅んで…?」
「お、落ち着いて!今から急げばまだ間に合うかも!」
「キリヤ、起きなさい!早く出発するわよ!」
「は~い」
テントの中からくぐもった声が聞こえた。爆速で飯を食い、テントを押し込み、素材を集めようとしたキリヤを馬車に放り込み、馬車をかっ飛ばした。
数時間後、キリヤ達はソーサヨリ王国につき、その異様な雰囲気を目の当たりにした。門は壊れ、城壁は穴だらけでところどころ崩れていて、人の気配が全くない。奥に見える巨大な城も半分が崩壊している。
国だったものは、吹き曝しとなっていた。




