隣国の王太子殿下から無実の罪で婚約破棄され、国外追放となった聖女の称号を持つご令嬢とやらと恋に落ちたと殿下に言われて、婚約破棄された女です。悔しいと泣くと、まあ見ていてご覧とお兄様が笑ったのですが。
「は? 婚約破棄?」
「すまないリオーラ、僕は真実の愛を見つけてしまったんだ!」
「はあ?」
私はカップを手に持った間抜けな姿で、婚約破棄をお願いされてしまっていました。
優雅に午後のお茶をしていたときに、王太子殿下が言いにくいのだがと切り出してきたのです。
思わずお茶を噴き出してしまいました……。
「私、あなたが気に入らないことなど何か?」
「君は悪いことなど何もしていない、僕が悪いんだ!」
私は殿下の言い訳を聞いていました。
隣国の王家に招かれていた。いやそれは知ってますって、そこで、舞踏会で無実の罪で婚約破棄をされたおかわいそうな『隣国の聖女様』を見てしまって、そして泣く彼女に一目ぼれした?
「わかりましたわ、でも一目ぼれって……」
「彼女はかわいそうな人なんだ!」
「かわいそうなのはわかりましたわ、私はかわいそうじゃないっていうのですか!」
君には悪いとか言いよどむ殿下、聖女様を連れて帰ったのは聞きましたわよ。
婚約者にするとか聞いてません!
「私には非がないですわ」
「ああそうだ僕がすべて悪いんだ」
自分に酔っている殿下、ロマンチストなのは知ってますけど。
聖女様とやら、いや殿下はもう21歳ですわよ? その年になった王太子に婚約者がいないとでも思っていたのですかね、恋に落ちたとか。
非常識すぎません?
「私、絶対に婚約を解消いたしません!」
「陛下も婚約解消を了承してくださったんだ」
「はあ?」
外堀を埋められてしまっていました……私は、殿下が土下座までしてお願いとやらするのでそれ以上いやとも言えず、殿下に婚約破棄のために土下座をさせた侯爵令嬢といわれるようになってしまったのですわ!
「……悪役令嬢とかなんとかひどいですわよ!」
「自棄ケーキはもうやめたほうがいいと思うよ、リオーラ」
「でも、私、聖女様と殿下の恋を引き裂こうとした悪役令嬢って巷で言われているとか!」
「……」
私は実家に帰され、次に良い縁談を見つけてやるとお父様は言ってくれましたが納得いきませんわ!
「いや、妹いじめの無実の罪って! 私こそいじめられてますわよ!」
「リオーラ落ち着いて……」
私は兄のアレンにひたすら愚痴っています。だってだって私、私、何も悪いことしてませんわ。なのに婚約破棄された悪役令嬢って言われてますのよ。
「腹が立ちますわ!」
「……まあ多分自滅も近いと思うけどね」
「アレンお兄様?」
「まあ黙って見ておいたらいいよ」
クスクスと楽しそうなアレンお兄様、何か悪だくみをしているときの顔ですわ。
氷の貴公子などと言われていますが、基本は笑顔なのです。氷というのは……。
長い銀の髪をかき上げ、お代わりいる? と笑顔で聞いてくる兄にもういいですわと私は首を振ったのでした。
「ほら、自業自得、自滅したよねえ」
「お兄様何をしたのですか!」
「いやあ、思った通り、踊ってくれたから楽しかったよ」
お兄様、これ悪だくみが成功したときの顔ですわ!
兄の部屋に飛び込み、私はお兄様の悪だくみとやらを聞きました。
「……お兄様悪知恵だけはありましたが」
「僕のかわいい妹をいじめたやつらには手ぬるすぎたくらいだけどね」
お兄様、笑ってますが青い瞳を見ると目だけが笑ってませんわ。
本気で怒っているときの顔でしたわ。
「まず、聖女様とやらが男を作ったというのは?」
「身辺調査を軽くしてみたら、尻が軽いってことがわかったんだ」
「はあ」
「騎士団一の女好き、クリスをけしかけてみたってわけ」
ああ、クリス様ね、私が口説かれた後、お兄様が半殺しにしたあのクリス様ね。
私が頷くと、クスクスとお兄様はまた笑います。笑顔が怖いです。
「……そうしたらめでたく不義」
「クリス様も巻き添えですけど」
「僕のかわいい妹に手を出そうとした奴だし」
ああ妹しか大切じゃないとか言われているのは本当ですけど、ここまでとは……。
「その証拠を陛下に匿名で届けたらどうなる?」
「陛下も調べますわよね」
「陛下にかかったらすぐわかるよね!」
「……」
あのロマンチストの殿下が王太子でなんとかなっているのも、陛下がしっかりされているからですけど。それで聖女様は婚約破棄され、修道院送り、殿下が廃嫡と…。
「聖女様の持つ癒しの力とやらと……」
「天秤にかけたら、男と不義をする女はだめだってことになったんでしょ」
ああ、この人は私が5歳の時からあった時から相変わらずでしたわ……一生涯妹を守ると騎士様ごっこをしていたときも言ってましたけど……私もう15歳ですけど。
「いやあ僕、妹がほしかったんだよね! だから現実に妹ができてとてもうれしくて、一生妹を守るって誓ったんだ。だから」
「お兄様、ほどほどにしてくださいまし」
私はこの血のつながらない兄の過保護のせいで、次の婚約者が決まらないとため息をつきましたわ。
私が5歳、お兄様が8歳の時に、両親の再婚で兄妹になって10年。
シスコンといわれた兄は相変わらず絶好調でした。
読了ありがとうございます。もしよろしければ
下にある☆☆☆☆☆を押して応援してもらえると嬉しいです!