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06.亜人戦団 1

「オレはまだ認めてねえぞ」


 突然部屋の扉が開いて、さっき部屋を出ていったはずのボルカという大柄な竜人女性が入ってきた。

 すぐに久遠がきっと眉を吊り上げて振り返る。


「ボルカ! 団長室に入るときはノックしなさい!」


「ああん、ノック? 久遠よぉ、そんなガキを団長として認めろって、本気で言ってるのか」


「当たり前で――」



 「こぉらーーーーーーーっ!!!!」



 突如響き渡った叱声に久遠の反論は中途で遮られた。同時に、ボルカの頭がゴチンと何かで殴りつけられる。「いってええっ!」と頑丈そうに見えるボルカが頭を抑えてうずくまった。

 背の高いボルカを殴りつけるなど相手はどんなに大柄な人物か……そう思って扉の奥を覗いたリオンの目には意外な姿が写った。

 扉の前には普通の人間と変わらない背丈の女性がいる。

 ただしふよふよと浮いて。

 しかも半透明な体で。

 ふわふわと浮かび上がった女性はそのまま部屋に入ってくると、くるりと一回転してボルカの向き合う形で見下ろした。腰に手を当てて完全に説教モードだ。


「ボルカちゃん、そんなこと言っちゃ駄目ってこの前も散々注意したでしょう! 命令にはちゃ~んと従いなさい! さもないとお姉ちゃん本当に怒っちゃうよ」


「ウス、すんません……」


 ふわふわ浮いている女性の下でしょんぼり正座するボルカ。

 唖然として見つめるリオンの隣で、久遠が呟いた。


「オペラさん」


「オペラさんというと、さっき話されてた救護兵長さんですか」


「よく覚えていたわね、そうよ。あなたの体をちゃんと診てもらえるようここに来る前呼んでおいたの」


 久遠が説明すると、オペラもまたふわりと浮かんでリオンの側にやってきた。


「そうです! はじめまして団長さん、私はオペラ・モンブラン。この戦団の救護兵長をやっています! 見てのとおり幽霊(ゴースト)です♪」


「ゴースト……」


 いくらリオンでもゴーストを間近で見るのは初めてだった。しかもこんなにはっきりした形の、元気そうなゴーストを。


 オペラの外見は半透明になっているのを除けば完全に生きた人間のように見えた。顔も多少青白いくらいだ。

 真っ白の長い髪が風に浮くようにふんわりと広がり、銀色に輝く瞳はくるくるとよく動いている。言葉からも冷気などはまるで感じず、表情はにこにことやさしげな笑みを浮かべていた。


 そして肉体は伴わないものの、オペラもまたスタイルがいい。他の二人に負けず劣らずの豊かな肢体を、白いワンピースから覗かせている。

 そこでようやく我に返ったリオンは慌てて挨拶を返した。


「は、はじめまして。新しく戦団長に抜擢……されたリオンです。よろしくお願いします」


 ベッドの上でペコリと頭を下げたリオンに、なぜかオペラは身悶えした。


「か、かっわいいい~~♡♡♡ 資料の魔導映像で見ていたけど本物のリオンくんは数倍かわいいね! 美形さん! ねえいくつなの? 彼女はもういる?」


「は、え?」


「ちょっとオペラさん、団長にいきなり何聞いているの。いきなりくん付けなんて失礼だし、他の子に示しがつかないでしょう」


 固まるリオンに代わって、久遠がたしなめるように声を上げる。

 先程自分もリオンくんと呼んだことは棚に上げまくっている。


「あ、ぼくは全然気にしませんから、皆さん好きなように呼んで下さい」


「そう。じゃあ私もリオンくんって呼ぶね。寛容な団長で良かったわねオペラさん」


 光の速さで既成事実を作り上げる久遠。「は、はい……」とリオンも若干引き気味に返事する。


 部屋の入口で、正座からあぐらに姿勢を変えたボルカが呆れたようにぼやく。


「あ~あ、久遠もオペラもこんな小便くせえガキになに考えてんだよ。アホか」


「かわいいは正義でしょ!」


「意味わかんねえよ!!」


 ただひとりついていけないボルカが怒鳴り返す。

 それを黙殺したオペラがリオンに近寄って尋ねた。


「うふふ、ところでリオンくん、きみ、お姉ちゃんはいる?」


「いえ、ぼくはひとりだけの嫡子でした」


「そうなんだ。それじゃあ私がお姉ちゃんになってあげるね」


「は、はい?」


「気をつけてリオンくん。オペラさんは好きあればみんなのお姉ちゃんになろうとしている人だから」


「どういうことですか?????」


「リオンくん、甘えたいときはいつでも言ってね、私ちゃんと実体化もできるから、ウエルカム~~」


「あの、すみません、ぼく今さすがについていけなくなってきていて……」


「ちなみにオペラさんはこう見えて生前は凄腕の魔法使いでね、回復術は宮廷魔術師や大神官にも負けないレベルだから安心して。1000年近く前にゴースト化したうちの最年長でもあるの」


「ああ~! 久遠ちゃん私の年齢いきなりバラさないでよ~」


「いいじゃないですか。見た目は20代なんですから」


「こういうのは気持ちが大事なの!」


「あ、あの……」


 オペラが涙目になって久遠を揺さぶる。自分の周りでポンポンかわされる会話にリオンはまったく入ることができない。


「ああもう茶番はやめろよ! 肝心の話がいつまで経ってもできねえだろうが!」


 ついにボルカが立ち上がって叫んだ。

 それでいくらか落ち着きを取り戻した二人がボルカの方を見る。


「こほん、肝心の話って?」


 咳払いして久遠が尋ねる。ボルカも真面目な顔になった。


「ルルカがまたなんか見つけたらしくてな。どうもこっちへ魔物が近づいているらしい」


「本当!?」


「ああ、進路によっては迎撃に出なきゃいけねえ。ルルカのとこまでいっしょに来てくれるか」


「もちろん。……リオンくん、ちょっと待っててる? また戻ってくるから、それまでオペラさんに身体を診てもらってて」


「わ、わかりました」


 魔物の襲撃。会話に出てきた言葉にリオンは知らず拳を握りしめた。

 そうだ、ここは最前線なのだ。


 先程まで幻人の説明をしてもらっていたせいか、何故か魔物を身近に感じてしまっていた。亜人戦団と銘打つだけあって、ここにも魔物のような人が次から次へと出てきた。

 だが忘れてはならない。魔物は人類の敵であり、魔獣は本来討伐しなければならないモンスターなのだ。


 自分の命を助けてくれた魔獣も、そんな魔物のひとつなのだろうか。

 自分を害するために融合したとしたらどうだろう。

 放っておいても死ぬはずだった自分とわざわざ融合する理由はわからないが……。


 久遠とボルカは連れ立って部屋を出ていった。

 部屋の扉が閉まる前、


「また戻るって、まさかお前魔物の群れについてあいつに報告するつもりか?」


「そのつもりだけど」


「正気か!? あんなガキに何が判断できるっていうんだよ」


「団長なんだから報告するのは当然でしょう――」


 という二人の会話が聞こえてきたが、全部聞き終わる前に扉は閉まってしまった。改めて魔物との戦いの術を何も知らない自分にリオンは不甲斐なさで震える。

 そんなリオンの気持ちを知ってか知らずか、オペラがふんわりと寄り添ってきた。


「さて、じゃあ二人が戻ってくるまでに済ませちゃおうか。早速だけど怪我してないか診させてもらうね」


「……よろしく、お願いします」


 リオンは言葉少なに頷いた。

亜人戦団側で出てくる人がヤバい年上のお姉さんしかいない……。

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