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28.リオンの一日②

 ウルフ、オペラの二人と昼食をとった後、リオンはルルカの小屋で戦況の確認をした。


 宿営地の外での戦いも、ルルカの能力によって伝令を待たず知ることができる。『あらためてものすごい能力ですね……』と、リオンは感心する。


 各方面に派遣した戦団兵部隊の戦いは順調なようだった。というか、リオンはあの大悪竜霊との戦い以来戦団兵がピンチになるところを見たことがなかった。それだけ戦団兵客員の戦闘力は突出しており、襲ってくる魔物が哀れなほどだった。

 戦況に問題があればすぐに助けられるようリオンは毎日準備している。麒麟になれば空を鳥に近い速度で駆けることができるので、宿営地周辺であればすぐに援軍として赴く事ができる。今の所それが必要となったことは無いが、準備と覚悟だけはしていた。

 午後、午前にやり残した分も含めて一通りの業務が終わるころ、派遣した部隊が帰ってきた。今日も快勝で死亡はゼロ。重傷者もいなかった。若干名の軽症者も帰る途中に救護兵のヒールで回復されていた。

 この後は出撃の戦果報告及び損害分析を行う時間だ。反省点は翌日以降の作戦に改善点として検討しなければならない。


 もっとも、それはなかなかうまくできていなかった。



「リオン、勝ったぞーー」


「お帰りなさいボルカさん。早速ですが今日の戦果報告と反省会議を……」


「いやー、今日も圧勝だった。酒だ酒! 飲むぞーー!!」


「あの、反省会議を……」


「おーいウルフ、お前も祝勝会やるだろ」


「あったりまえだろ! 今日は届いたばっかりのエールがあるぜ!」


「よーし樽でもってこい!」


「あの……まって、待ってください……」


 傭兵団時代の風習を色濃く残した亜人戦団はみんな帰ってくるとすぐに祝勝の宴会が始まってしまう。戦闘を終えた疲労など感じさせない盛り上がりようだった。そして全員以上に酒が強いのでこのまま夜半まで飲み続けることとなる

 リオンの言葉も届かず盛り上がる宴会を前にして、少年団長はぐずぐずと泣いた。


「うう、……みなさーん、……反省会……」


 そんなリオンのもとへ、宴に加わっていなかった久遠とオペラがすぐにやってくる。


「ああ、ああ、泣かないでリオンくん。ボルカたちはちょっと……アレだから。戦果報告は私が代わりにやってあげる」


「泣かないで~、リオンくん。反省会はお姉ちゃんがいっしょにやってあげるから。ルルカちゃんに聞けば戦況もわかるし」


「うう、ありがとうございます久遠さん、オペラさん」


 普段年上の彼女たちに甘えることを良しとしないリオンだが、このときばかりは年相応に取りすがった。年上のお姉さん二人はその姿を見て勝手に鼓動を早めている。


「他のみんなは宴に夢中で気づいてないわね、好都合……、じゃなかった、リオンくん、私達だけで反省会議済ませちゃいましょう。静かな、団長室とかで」


「お姉ちゃんも賛成。それじゃあリオンくん、うるさいところは離れて3人だけになれるところに行こうか」


「はい!」


 何も気づかぬリオンは素直に久遠とオペラについていった。



 戦果報告と損害分析は滞りなく終わった。反省会議とは銘打ちつつも、基本的に亜人戦団側が圧勝してしまうので反省点が少ないのだ。

 それでも今後の作戦に活かせる小さな発見は多いので、リオンは毎回細かに戦況を振り返っている。これには麒麟の持つスキル『軍師の審眼』の力も大きいが、元々リオンが努力家で日々研鑽を怠らないためでもあった。


「ふう、これで今日の振り返りは終了ですね。久遠さん、オペラさん、ありがとうございました」


「いいえ、当然のことをしたまでよ」


「いつでもお姉ちゃんに頼っていいからね」


 出没した魔物を倒し、損害もなく戦いを終えられたことに、リオンがほっと息をつく。軍指揮官としては甘い考えかもしれないが、リオンは戦団の誰も死なせたくなかった。それだけに全員の無事を確認すると、一日分の緊張が一気に解けてしまう。

 そのタイミングを見計らったかのように、久遠とオペラのふたりがスススッとリオンの両隣へ近づいた。

 半日戦った後にも関わらず変わらぬいい匂いを漂わせている久遠と、半実体化して柔らかな部分を押し付けてくるオペラに、リオンはまったく別の緊張を覚える。


「あ、あの、お二人ともどうしたんですか……?」


「リオンくん、お腹すかない? 夕飯はお姉ちゃん達と一緒に食べよっか」


「それともお風呂にする? いつもリオンくん一人だけで入ってさみしいでしょう。私達と一緒に入ってもいいのよ」


「あ、あのあのその」


 亜人戦団は前線の宿営地としては破格なことに、毎日お湯を沸かしての入浴が認められていた。薪や水のことを考えると贅沢極まりないが、女性兵士だらけの戦団員はたとえ給料がちょっと削られてもここだけは譲らなかった。

 たった一人の男性であるリオンは当然最後に一人だけで残り湯に入っていた。そのことにまったく不満はないのだが、久遠たちはなぜかいっしょに入ろうとグイグイ迫ってくる。


「あの、久遠さん、オペラさん、ぼくが一緒にお風呂に入るのはさすがにまずいんじゃないでしょうか……」


「そんなことないわよ。ねえオペラさん」


「うんうん。お姉ちゃんは大歓迎だよ。さあさあ、ほかの娘たちが来ないうちに早く……」


 団長室の扉が唐突に開かれた。ワインの瓶を片手にボルカとウルフが部屋の中へ入ってくる。


「おーい、久遠まだか? ……ってなんだ、もう戦果報告は終わったのか?」


 赤い肌のせいで酔っているのかすこしもはっきりしないボルカが、しっかりした目で部屋の中を見渡す。

 久遠とオペラはそれぞれ、


「ああ、もう少しだったのに」


「あちゃー」


 と残念そうな顔をした。ボルカはキョトンと首を傾げるだけだが、ウルフが部屋の中の妙な雰囲気に鋭く気づく。


「おまえらまた抜け駆けしようとしてたな! リオン、仕事終わったなら早くこっちの宴来いよ。ここにいるとあっという間に食われちまうぞ」


「あの、ぼくはまだお酒が飲めないんですが……」


「うるせえ、安全確保だ!」


「ウルフ待ちなさい! リオンくんは私達と一緒にいるのよ」


「わーん! お姉ちゃんを置いてかないでー」


「……よくわからねえが、久遠もオペラも宴に参加するってことでいいんだな?」


 一人事態についていけないボルカだったが、それでも宴の参加者が増えたことでうれしそうにしていた。



****



 日はとうに没しすっかり夜闇があたりを覆う時間となっても、戦団の宴はまだ続いていた。むしろ盛り上がりを増していた。北側の兵舎の前で焚き火がたかれ、みなその周囲で思い思いおいしそうに酒を飲んだりつまみを食べている

 取っ手付きの木杯を片手に楽しげなボルカがリオンの元へやってくる。


「ようーー、リオン飲んでるか?」


「飲んでます」


 ミルクですけど。そう心のなかで付け加えながら、リオンは返事する。

 本当はジュースのほうが良かったのだが、宴につれてこられた時ボルカにお前はもっと背を伸ばせと押し付けられた。

 ミルクはミルクで好きなので言われるがままに飲んでいる。

 一方ボルカの木杯に入っているのは白い泡が豊かに盛り上がったエールだった。まだワインもエールも味を知らないリオンは想像だけたくましくするしかない。


「ボルカさんもずっと飲んでいますね」


「いや、こいつはチェイサーだ。さっきシェリー酒を飲みすぎた」


 リオンの隣に座り込んだボルカは、そう言って手元のエールを煽る。アルコールが入っている飲み物をチェイサーとは言わないのでは……? とリオンは当然の疑問を持ったが、口にはしなかった。

 ボルカのように勢いよく煽るようなことはできす、リオンはちびちびとミルクを口に含む。焚き火の光を見つめたまま、ボルカが言う。


「あ~~~のさ、リオン。こいつは言いたくなけりゃなんも言わなくていいんだけどよ」


「はい?」


「おまえ、どうしてこんなところまで追放されたんだ?」

 リオンの杯を傾ける手が止まる。その整った面貌が凍りついたように固まったのを見て、ボルカが慌てて頭をかきむしった。


「すまん! オレはどうも気遣いってやつができなくてな。やっぱ忘れてくれ」


「いえ」

 金縛りから解けたリオンがすぐに否定する。


「ぼくこそごめんなさい。王都から追放された団長なんて、怪しすぎますよね。みんなにちゃんと説明しないまま就任しちゃいましたけど、考えてみればもっと早く話すべきでした」


「そういうんじゃないんだ。その、オレは久遠たちと違って政治のことはよくわからねーからよ。王都で誰々が争ってるだの、宮中でどの派閥が勝っただのがまったくわからねえんだ。でもよ、お前はこんな北のド辺境に追放されたのに、文句も言わずよく働いているだろ。オレははじめまた貴族のボンボンが来たと思ってたから、どうせすぐに逃げ出すと思っていたのに、いつまでたってもお前全然我儘なんか言わねえし、むしろ働きすぎなくらいだし……それでオレもちゃんとお前のこと知っておいたほうがいいんじゃないかってな」


「ボルカさん……」


 リオンはボルカの方を見つめた。焚き火の照り返しを受けて、ボルカの赤髪はますます燃えるように輝いている。

 ボルカが自分に興味を持ってくれていた。それだけでリオンはうれしかった。リオンの過去は人に軽々しく話せるような内容ではなかったが、亜人戦団のメンバーには知っておいてほしいと最近思い始めていたのだった。

 リオンはそっとお尻を動かして、半メートルほどボルカの方へ距離を詰めた。ボルカの赤肌に触れるか触れないかというほどの近さだ。隣にピタリと並ぶと、ボルカの大柄な体格がなおいっそう巨大に見えた

 リオンは普段、戦団のメンバーからガンガン近寄られ愛でられているため、彼の方から近づくことはあまり機会がない。そのためか、ボルカがちょっと戸惑ったような顔をする。


「な、なんだよ」


「いえ、ボルカさんの隣に座ると安心するので」


「そ、そうか」


 ボルカはやや動きがぎこちなくなりはしたものの、拒絶したりしなかった。そのことにリオンはますます安心する。


「ボルカさん」


「なんだよ」


「いい機会ですから、ぼくが王都で何があったか、お話しようと思います。ただ、できれば亜人戦団の幹部の人達にも知っておいてもらいたいので、久遠さんたちも呼んでいいですか?」


「好きにしたらいいんじゃねえの」


「ありがとうございます」


 それから、リオンは宴に参加中の久遠、ウルフ、オペラ、を呼んだ。全員適度に酔っ払っていたが、リオンが大事な話をすると言うとすぐに真面目な顔になった。

 焚き火からすこし離れた場所で、リオンは四人に語り始める。


 たった1年で何もかもが変わってしまった日々のことを――。


申し訳ないです。腰痛でめっちゃ寝てました。お待たせした方申し訳ありません。これからもよろしくお願いいたします。

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