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26.5.図書室

 ルルカの小屋で1時間ほど過ごしたリオンは、新しい本の手配することを約束して退出した。内容はほとんど他愛ないおしゃべりのようなものだったけど、おかげでルルカの人となりはよく理解できた。

 『軍師の審眼』にもあたらしくルルカのページが追加される。


◆亜人戦団

 ◇戦団兵

  ルルカ・クロノール

  18歳 ♀ 

  身長:173cm 体重:52kg

  戦力ランキング:100位

  種族:幻人(巨人種)

  身核魔獣:―水の巨人(ミーミル)


 あの身長でこの体重は大丈夫なのかな……とリオンは心配になってしまう。

 体の構造が人間とはかなり違うルルカは、主に大気中の魔力を吸って生きているらしい。人間よりも魔物に近い生体だ。普通の食べ物も食べれなくはないらしいが、どれも味が濃すぎて食べたくないとのことだった。ルルカにとってはただの水ですらしょっぱいらしい。

 幻人が普通に暮らすことの難しさに悩みつつ、リオンは団長小屋へと帰る。



 小屋からは、すでにいい匂いが漂っていた。リオンが中に入ると久遠の温かい声に出迎えられる。


「あ、リオンくんおかえり。お昼ごはんできてるよ」


 執務室のテーブルにはすでに昼食の準備がされていた。お礼を言ってリオンも席に付く。


「ありがとうございます。いただきます」


「うん、いっぱい食べて」


 メニューは朝食と似たようなものだったが、戦団についている家事妖精の腕がいいのか飽きずに食べれるおいしさだった。宿営地の食事はどうしても日々に通ったメニューになってしまうが。色々工夫されているのだろう。


「ルルカとはどうだった?」


「大変そうでした。ぼくにできることは少ないですけどもっと生活が良くなるようにしてあげたいです」


「ルルカは亜人戦団が王国軍で組織された頃に存在を知ってスカウトしたのよ。元々この北部地方の出身で、それまでは魔物の危険を知らせたり、山で遭難した人の捜索とかで働いていたらしいわ」


「そういえばルルカさんが新しい本がほしいと言っていました。なるべく買ってあげたいと思うんですが、この戦団からも注文できるでしょうか」


「大丈夫よ。戦団の必要物品はここまで行商に来てくれる商人に頼んでいるけど、本みたいに特別に注文しなきゃいけないものとかは北都に当番制で買い出しに行っているの。今度リオンくんも一緒に行こうか」


「はい、お願いします。それと、戦団にすでにある本も確認できますか?」


「かんたんよ。戦団員が読める本は全部この団長小屋で管理しているの」


 昼食が済むとリオンは久遠に案内されて団長小屋内の別の部屋に入った。


 それは執務室の奥にある部屋で、ちょっとした図書室の様になっていた。亜人戦団の業務に必要な書類棚意外にも、様々な本を収めた本棚がずらりと壁に並んでいる。

 博物学に関する本や普通の物語の本もあったが、リオンはある書棚の前で目を輝かせた。


「こ、これは!!! 『リバート建国記』、『エウロパ戦史』、『グレア戦記』、『戦争論』、『会戦における騎兵運用』。すごい、桃源帝国の『尊子兵法』まで! どれも一級の戦術書じゃないですか!」


「これは亜人戦団が創設されたときから揃えられてきた本ね。もちろん自由に読んでいいわよ」


「すごい……初めて軍の指揮をするので不安だったんですけど、これならたくさん勉強できそうです」


「もう勉強することを考えているの? そういうとこ、本当12歳と思えないわね。ここの本は騎士学校を出ていないと理解しづらいものも多いと思うんだけど、大丈夫?」


「がんばって勉強します。戦団の指揮官になった以上、ぼくの指揮にみなさんの命がかかっているんですから、サボるなんてできません!」


「そう、無理しすぎない程度に、がんばってね」


「はい」


 感心と心配のないまぜになったような顔で言う久遠に、リオンは力強く返事をした。

 なし崩し的に午後はリオンの学習時間となった。リオンは図書室からさっそく10冊ほど持ち出すと、午後の時間すべてを読書に費やす。その集中力は凄まじくて、久遠ですら声をかけるのをためらうほどだった。

 まだあどけなさの残る12歳の少年が、大人ですら理解に苦労する戦術書を夢中で読んでいるという姿に、久遠はますます尊敬を深めるのだった。


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