24.『軍師の審眼』
久遠がどこからか書類を取り出した。様座な文字や数字が記載されたそれは、久遠が個人的にまとめた戦団の内部資料だった。
もはや解説するまでもないが、リオンの前任団長はこうした事務仕事をほとんど行っていない。
「さて、それじゃあ亜人戦団の今の状況を簡単に説明するわね。今までどんな戦いをしてきたのかとか、戦団員のこととか」
「お願いします」
それから30分ほどかけて、久遠は亜人戦団のことを説明した。
リオンはよく相槌を打ちながらそれを聞く。わからないところはときに質問などして、リオンはあっという間に戦団内の事情について詳しくなった。
一通り戦団の説明を受けた時、リオンの身体が光った。2秒ほど柔らかい明滅を繰り返す。
「え?」
「ん?」
リオンと久遠が戸惑っている間に光は消える。代わりにリオンの頭の中へ具体的なイメージが現れた。
スキル『軍師の審眼』
◆亜人戦団
{団長:リオン・フィラッファ・ケラヴノス}
{兵数:100}
{兵糧:2000}
{資金:15000ゴールド}
{戦績:617戦 612勝/5敗}
「あ、スキルが発動したみたいです」
スキルというのは呪文と魔力の入らない魔法のようなものだ。
様々な効果があり戦闘に使えるものもあれば日常生活で便利なものもある。今のように頭の中へ情報を表示させるのは知覚系スキルと言われていた。一度入ったダンジョンの地図を頭の中で再現したり、道具や武器を鑑定するのもこのスキルの効果を使う。
スキルは未だに研究の進んでいないよくわからない存在で、なんだか不思議な力だが便利だからみんな使っているというのが実情だ。
生まれつきスキルを持っている者もいれば絶え間ない訓練によって手に入れることもある。スキルそのものが進化して高い効果を持つ別のスキルに変わることもある。スキルを使うことができるのは魔族以外の知的生物のみで、神が与えてくれた祝福とも言われていた。もっとも魔人という悪魔と人間のハーフには、これを使うことができるものもいるらしい。
スキルというのは最初に名前がわかる以外基本的にどのような能力か説明されることはないので、発動したら自分でゆっくりと詳細を把握していくしかない。幸いリオンに発動したこのスキルは、軍師として自分の率いる軍団の情報を把握しやすくするスキルらしい。状況からして、リオンが生み出したと言うより身核幻獣の麒麟に関する能力なのだろう。
「久遠さん、ぼくと融合した麒麟に軍師とか武将の逸話ってありますか?」
「え? ええ、たしか麒麟は優れた軍師や、充分な教養を備えた徳の高い学者の前に姿を見せるとも言われているは」
「やっぱり軍師や参謀を補助するためのスキルを持っているんですね。それで僕にもこんなふうに戦団情報が見れたと」
「リオンくん、なにか見えているの?」
「はい、さっきまで久遠さんに説明してもらっていた亜人戦団の情報が、ざっくりわかり易く表示されています」
「へえ、それは便利ね」
団長や兵士の項目はわかりやすい。
兵糧の項目は、さっき久遠が食糧があと二十日分ほどしか無いと説明していたから、兵糧1で所属兵士が一日に消費する食糧分を表しているのだろう。兵士100名が20日分で2000。
資金もひと目で分かる。15000ゴールドというのはおそろしいほどの大金で、オペラが以前言ってた通り戦団はけっこうお金持ちだった。といっても戦って稼ぎ続けないとすぐ給料や武器食糧の支払いで消えてしまうだろうから油断はできない。なにしろ100名の兵士がここにはいるのだから。
勝敗数も、久遠の話していたとおりだった。久遠は律儀に亜人戦団が結成されてからの戦績記録をつけていた。亜人戦団のさらに前、傭兵団のころから参加した戦いはすべて記録がされている。
亜人戦団が組織されたのは2年前だ。ちょうどその頃からほぼ毎日か1日おきに戦っている計算になるが、これはおそらく『軍師の審眼』スキルが宿営地周辺に出たゴブリンなどの討伐まで細かく計算にれているためと思われた。久遠いわく、魔族領の最前線へと飛ばされてから魔物の姿を見ない日はないくらい多く出るらしい。もちろん1匹から数匹程度なら戦団兵士一人で問題なく対処できるので、それらまで数に数えてはいないらしい。スキルはそういった誰も覚えていないような自称まできちんと数字にしてくれる。神の祝福と言われる一因だった
対して5敗というのは、亜人戦団が騎士団や別の軍団と共に戦った結果共に敗北してしまったケースだったらしい。つまり亜人戦団は単体では無敗だった。敗戦の場合でも、亜人戦団はほとんど被害を受けていないという。
あらためてすごい戦績だとリオンは思う。魔物のはびこる最前線でこれだけ戦い抜いている部隊は、騎士団にもそういないんじゃないだろうか。
『軍師の審眼』スキルは頭の中に望むだけで、本のページを捲るようにさらなる情報を表示してくれた。リオンが久遠から得た情報をまとめたものもあれば、記録はされていないが表示されるとわかりやすい情報もある。戦団の情報が(頭の中で)ひと目で分かるというのは本当に便利だった。
各戦団員の情報も簡単にまとめられていた。例えばこんなふうに。
◆亜人戦団
◇戦団兵
ボルカ・リベリウス
24歳 ♀
身長:203cm 体重:108kg
戦力ランキング:1位
種族:幻人(竜人種)
身核魔獣:―火竜―
戦団兵の情報は簡単に表示されているだけで、知ろうと思えばさらに深いところまでわかるようだった。しかしプライベートな情報がごっそり入っているので、即座にまずいと感じたリオンは情報を頭の中から消した。もちろん呼び起こせばスキルによって何度でも見ることができるが、スキル詳細の把握は後にしようと考える。
「どうしたのリオンくん、顔が赤いみたいだけど」
「な、何でもありません!」
うっかりすると久遠の情報が頭の中に表示されそうだったので、リオンはあわてて首を振った。
そう? とやわらかく笑って髪をかきあげた久遠は、机の上に置いていた書類を片付け始める。
ちょうどリオンも朝食をほぼ食べ尽くしていたところだった。久遠といっしょに食器を片付け洗い場に持っていく。
亜人戦団では日常の家事を所属する家事妖精に任せていた。家事妖精というのは妖精種の中でも特異な、人間と共生する妖精である。とにかく家事をすることが大好きで、人間の代わりに様々な家事をこなし、報酬はほんのすこしでいいという異常にありがたい存在だ。人間世界では家事妖精を雇っていない家はほぼないと言っていい。
ただ家事妖精はとても恥ずかしがり屋で、滅多に人前には出てこないという特性がある。リオンと久遠も誰もいないように見える洗い場に食器を持っていくと、そそくさと後にした。しばらくして、中から食器を洗う音がし始める。
その音を聞きながらリオンが言う。
「戦団にいる家事妖精は数が多いみたいですね」
「私達が亜人だからかしら、親近感が湧くのかも。戦団員の中には妖精とはっきり交流できる娘もいて、その娘なんかは休憩中におしゃべりしたりしてるわ」
「わあ。僕はまだ妖精をはっきり見たこと無いので、うらやましいです」
「リオンくんと融合した麒麟は万象の生物に好かれる存在だから、そのうち見れるかもね」
ちょっと戦略ゲーっぽい説明表示をしてみたいなー、とずっと思っていたので出せて満足です。
あと、ボルカの体重は間違いとかじゃないです。骨格も筋肉量も人間とは違うので、こんな感じになりました。軽い方が好きな方ごめんなさい。




