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番外編1.久遠の見たユメ

 今回は久遠しかでてこない番外編ですが、物語の今後に関わる重要な話も含まれているのでぜひ読んでもらえるとうれしいです。

 久遠がなんでリオンに最初から好感度が高かったのかというお話。

 いまから20年前にそれは起きた。久遠がまだ4歳のときだ。


 久遠が同族と共に暮らしていた土地――扶桑国(ふそうこく)東北部の山深い里――で村人全員が同じ夢を見た。内容に多少の際はあれど、全て結末は同じ夢。津波のような大量の魔物が人間界に進行し、人類を滅ぼし尽くす夢。戦士たちは大した抵抗もできず飲み込まれ、城塞は意味をなさず、戦う術を持たない人々はただただ蹂躙されていく、そんな夢。地獄を再現したような、絶望を形にしたような夢だった。これを老人から生まれたばかりの赤子まで全員が見たのである。


 全員が妖怪(くだん)の血をひく牛人である村の人々だ。翌朝、最悪の目覚めとともに体を起こし、同じように起きてきた家族の顔を見た時、皆が覚った。これはただの夢じゃない。未来に必ず起こる予知夢なのだと。10年後、20年後、30年後かはわからないが、少なくとも自分たちの生きている時代に人類は滅ぶのだと。それが運命なのだと。


 村人はすぐに口を閉ざした。予知を他者に話せば死ぬ呪いは件同士であっても発動される。何も言わず、伝えず、目線だけで合図しあい、成人した者たちは全て村の長老の家に集まった。そこは普段村の方針を決める集会所としても機能していた。

 石のような沈黙が落ちる中で成人した村の男女が全員集まったことを確認すると、長老は口を開いた。


「皆、何が起こっているのか理解していると思う。この地に安住してはや数百年、我らはこれから巨大な運命に立ち向かわねばならぬこととなった。あるいはこれこそ我らが此の世に産まれた使命だったのやもしれぬ。しかし恐るべき災難がいつ降り掛かってくるのか我らに知るすべはない。じゃがわしはそれほど遠くない未来ではないかと思っておる」


 そこで長老はちょっと言葉を区切った。一拍、二拍の間虚空を見つめる。その場に集っているものは瞬き一つしなかった。

 やがて長老は視線を戻し口を開いた。


「ただちに今後の方針を話し合わなければならない。寸刻も惜しんでいられぬ。その時予知の内容に踏み込んで話し合えないのはいかにも時間を無為にすることじゃろう。そこでだ、わしはこれから死ぬ。わしの言うことをよく聞いて、後の方針はお主らが決めるが良い」


 それから長老は血を吐くような気迫で自分の見た夢の予言を語り始めた。その場の全員が食い入るように長老の言葉に耳を傾けていた。件の血族の長老だけあって長老の夢が最も詳細な内容を持つ夢だった。全て語り終えた後、長老は体中の血を吐いて死んだ。件の血族としてもっとも崇高な振る舞いだった。


 村人はまず長老の葬儀を簡素に行った。直ちに話し合うようにという長老の遺言に反する行いではあったが、そうせずにはいられなかった。また全員が長老の語る予知夢と自分の見た夢とを照らし合わせて整理する時間が必要だった。


 人類滅亡の予知は、長老が語った事柄(・・・・・・・・)のみであれば全員が話すことができる。長老の葬儀を終えると村人は話し合いのため再び集まった。また、予言の内容を詳細に記したものを扶桑国の統治者へ送った。


 話し合いは三日三晩続いた。互いに自分の見た予知の内容を話さないよう慎重に慎重を重ねて話した結果、予知の内容は全員がそれぞれ微妙に細部が異なっていることがわかった。そしてその違いこそが災厄を回避する取っ掛かりになるのではないかと考えた。しかしそれ以上は死の呪いが邪魔して話すことができない。災厄を回避するために、それぞれが独自で予知を解釈し動かなければならない。


 彼らの出した結論は、これから件の血族は全員が人類滅亡回避のため全てをなげうち行動する、というものだった。件の血族は本来安寧を最も大事にしてきた人々である。災厄を予知すればそれに立ち向かうのではなく避けるように動き、ささやかな幸せを喜び、大きな成功もなければ不幸もない一生まっとうするのが最上とされた暮らしを送ってきた。しかしその日より件の血族は自分たちの幸福を捨てた。

 結論が出ると村人はすぐに世界各地へと散っていった。それぞれができることを精一杯やり遂げるために。元々の村は次の世代を育てるための最低限の人数が残された。


 扶桑国の統治者も件の血族が言うことを信じ、予言の内容を公にはしないものの影から国を上げて支援した。扶桑国は海商で成り立つ島国で、富は豊かだが身を守る力は(つたな)い。魔物の侵攻が始まれば真っ先に滅ばされるのは目に見えている。この以前にも件の血族による命をかけた予言に助けられたことが何度もあったため、今回もすぐに動いたのだった。


 外に出た村人は300人以上いたが、最初の数年で半分に減った。村人たちは扶桑国とともに自分たち専用の連絡手段を作り上げ、最悪の未来を回避するための試行錯誤を共有していった。


 そうして20年の時が過ぎた。世代は代わったが、件の血族も扶桑国も変わらず戦いを続けている。世界中の人々が誰も知らない、密やかな戦いを。

 

****

 

 久遠もまた物心ついたときから予言回避のために戦うよう育てられた。久遠自身も人類滅亡の予知夢は何度も見ている。災厄の予知夢は、年数を重ねるごとにより長く、鮮やかに、詳細になっていった。はじめ久遠の年齢が上がったためかと考えたが、他の血族も同じことを話しておりこれは災厄の未来が近づいているためという結論になった。

 人類滅亡は近づいている。現在の久遠が見る夢は匂いまでかげそうなほどリアルになっていた。


 予知夢を共有することができないためはっきりと確認したわけではないが、久遠の夢にしか現れない者が二人いる。それがボルカとリオンだった。久遠はこの二人こそ自分の運命の相手(・・・・・)、災厄を回避するために自分がはめるべきピースだと直感した。まだ二人の名前もわからないときから世界各地を歩き回り、勘だけを頼りに探し回った。ようやくボルカに巡り会えたのは18歳のときだ。その時は感極まって泣き出してしまい、初対面のボルカに大いに心配された。久遠は人類滅亡の予知のことは隠してボルカに自分を売り込み、最も側にいられる立場を手に入れた。知り合って間もない頃はボルカの猪突猛進ぶりに怒りを覚えかけるほどだったが、今は逆にボルカを殺せるものなどこの世に存在するのかといぶかるようになっている。


 リオンはボルカより難解だった。災厄の予知夢とともに2、3回見た後パッタリと出てこなくなり、一月ほど前急に頻繁に予知で見るようになったのである。リオンの名前も知らない久遠ではどうすることもできず、亜人戦団に着任してくるための書類を見てようやく何が起こっているかを理解したのである。そしてリオン襲撃の当日に決定的な予知を見て、焦り狂いながら救援に向かったのだった。


 いま、久遠は自分がなにかの運命を変えたとはっきり思っている。

 おそらくリオンの死はある程度まで確定された未来だった。

 だから運命を見ることのできる久遠でも死を回避するタイミングで予知することができなかった。しかし、世界の持つ運命が変わりつつあった。久遠と同じように世界中で活動する同士たちが、おそらくは桃源国(とうげんこく)(※東方大陸にある大国。麒麟の本来のすみか)で活動していた誰かが、何かをやったのだ。運命の歯車を動かしたのだ。営々積み重ねられた試行錯誤によってなぜか死にかけのリオンのもとに傷ついた麒麟が現れるというありえない奇跡が起きた。


 運命は変えられる。人類滅亡は回避できる。久遠はそれをはっきりと信じている。

 件の血族は災いのある未来、不幸な未来しか予知することはできない。幸福な未来を思い描くのは全てただの夢想だ。

 それでも、と久遠は思う。

 それでも、自分の想う夢がいつか叶うのなら。

 人々が、笑って自由に生きられる未来が来るのなら。

 久遠はどれほど残酷な夢を毎日見せられても、笑って立ち向かうことができるのだ。

 不可避の運命を、覆す。

 それこそ久遠が、起きている時に見る夢だった。


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