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22.帰還

 戦団兵は帰還を開始した。

 行きと同じく、特に行軍のための整った隊形は取らない。騎士団であれば考えられないことだが、リオンもだんだん亜人戦団のやり方を理解し始めていた。

 亜人戦団は兵士全員が体の大きさも歩幅も、足の形さえ違う。そんな兵士の集団が同じ間隔を保っての行軍などどだい無理な話なのだ。さらにはそれぞれが得意とする地形も違う。


 そこで亜人戦団は、最初から隊形は組まずそれぞれがもっとも歩きやすいように道を選び、遅れるものがあれば互いに助け合い、前に出すぎていれば教え合うという行軍が自然とできあがっていた。

 兵士各人の違いが大きい亜人戦団だからこそ、お互いの特徴をよく知り合い協力しているわけだ。


 リオンもまた、そんな亜人戦団の気風にさっそく助けられた。

 初めての幻怪がたたったのか、それとも緊張が切れたためか、リオンはひどい疲労を感じて再び麒麟に変身することはできなかった。行きと同様カタリーナの背に乗せられ、リオンは宿営地に戻ることになる。


 鞍の上で揺られながら、リオンはカタリーナに話しかけた。


「カタリーナさん、このままだとぼくはもう幻怪(リベレーション)できないんでしょうか?」


「そんなことはありません。幻怪というのは非常に体力を消耗するものなのです。それでなくとも初めての幻怪は体の負担が大きいですから気にする必要はないですよ。リオン殿も食事をして睡眠を取り体力が回復すればまたできるようになります。何しろ別の生き物に変身するようなものですからね。実際幻怪を会得したものでも維持できる時間は1時間ほどが普通だそうです。長いものでも2~3時間が限界だとか」


「1時間……」


「一方獣化(セリオン)は幻怪よりも手軽な分、活動時間も長くなります。ウルフ殿は5時間ほどぶっつづけて戦えると以前話しておりました。幻怪は強力な分使い所が難しいのです。それ故我らは幻怪だけでなく獣化のできる仲間も厚く信頼しているのですよ」


 リオンは今日が初陣だ。戦場での時間間隔というものがまだよくわからない。

 たとえ1時間でも、ボルカのようにドラゴンが戦場に現れるのであれば、十分脅威となる気がする。一方で、敵を長い活動時間を生かして長距離の移動や匂いによる敵の追跡を行えるウルフの強力さも理解できた。

 今日一日で亜人化、幻怪と経験したが、まだまだ知らないことだらけだった。自分の身体としてもまた亜人戦団の団長としても、もっともっと勉強しなければいけないとリオンは強く思う。

 


 部隊の全員が疲労の極みにあったこと、また戦利品を抱えていることで行軍の速度は遅く、1時間弱ほどもかかってようやく宿営地へと帰還できた。

 宿営地からはすぐに待機中の兵士が出迎えてくれる。

 彼女たちはリオンの部隊の危機を知ると、すぐに援軍の編制を始めたらしい。しかし編制や出撃準備をしている間にあれよあれよといつの間にか敵は倒されてしまい、狐につままれたような心持ちでリオン達の帰還を待っていたというわけだ。

 ともかく絶体絶命と思われた魔物討伐部隊が無事に戻ってきたということで、いのこりぐみもまたおおいによろこんだ。


 一方リオンに率いられた討伐組は、宿営地の門をくぐって陣営内に入ると全身へ疲労が一気に噴出しその場に倒れ込んでしまった。

 久遠やボルカでさえ座り込まざるを得なかったほどだ。


「つっかれたーーー! 本当に今回はきつかったわね」


「オレもだ、さすがに休まねえと動けねえな」


「みなさんお疲れさまでした」


 声をかけつつ、リオンもまた宿営地に戻った安心感からかどっと疲労が押し寄せてきた。カタリーナの背から苦労して降りると、ボルカと久遠のもとへゆく。


「あの、ようやく帰還できたわけですが、団長としてなにかやったほうがいいことはありますか?」


「あん? そうだな。いまはお前が団長だもんな。とりあえず魔物討伐に出た兵士全員に休息、宿営地歩哨シフトの確認、戦利品の倉庫への保管くらいでいいんじゃねえか? 戦いの検証は後にしようぜ」


「わかりました」


 まだ日は西に傾き始めた頃合いだった。ものすごい長い時間戦っていた気がしたが実際は宿営地を出てから帰還まで4時間ほどしか経っていないことにリオンは驚く。ものすごい濃い初陣だった。


 ボルカのアドバイス通り指示を終えると、リオンは団長室へと帰ることにした。ボルカは戦利品の運搬のためここで別れ、久遠とオペラがリオンに付き従う。オペラは宿営地に戻ったことですでに半実体化していた。


 朝に目を覚ましたのがウソのようだった。恐ろしく濃密な一日を過ごしたリオンは、団長室に入るなりフラフラとベッドに倒れ込む。


 さっそく久遠が心配そうにそばへ寄ってきた。


「だ、大丈夫? リオンくん」


「すみません、さすがに……疲れました」


「無理もないわ。あとの処理は私がやっておくからリオンくんは少し休んでて。オペラさん、リオンくんをお願いできる?」


「まっかせてー!」


 フヨフヨと元気いっぱいにオペラが返事する。戦闘に参加してないとはいえ、20名近くの人間を治療したとは思えない快活さだった。リオンはそんなオペラを見て苦笑すると同時にこの上ない頼もしさも感じる。


 ベッドに横になったリオンは、オペラに言った。


「すいませんオペラさん、ぼく、すこし休ませてもらいますね」


「気にしないでたっぷり休んで。そうだ、ついでにオペラ流ゴーストマッサージしてあげるね!」


「? えっと、ありがとうございます」


 ゴーストマッサージとはなんだろう。そんな疑問が湧いたが、リオンは素直にお願いする。

 するとなぜか久遠がリオンの方を見て『しまった』という表情をした。


「あー、リオンくん、そのオペラさんのマッサージは……気をつけてね」


「どういうことでしょう」


「その、痛いとかではないの。むしろとても気持ちいいのだけど……。その、マッサージされている時、とても他人にはお見せできない表情になってしまうと思うから……」


「どういうことですか???」


「それじゃいっくよー!」


「あ、あの、オペラさん、やっぱりちょっとま――――」


 一瞬でオペラによって仰向けにされたリオンは、そのままオペラのマッサージを存分に受ける羽目となった。

 団長室からは、60分ほどの間、悲鳴とも絶叫ともつかない声が響き続けたという。



 しかしオペラのマッサージの効果はてきめんで、その日リオンは再び深い眠りに落ちた。

 この一年、リオンの身にはあまりに過酷な出来事が立て続けに起きていた。体と心に溜まったストレスは一朝一夕に取れるものではない。


 それでもリオンは、その日一年ぶりにぐっすりと眠ることができたのだった。


ようやくこれでプロローグ完結という感じです。やっぱり初めての投稿は色々思い通りにいきませんね……。なにはともあれ、ここまで読んでくださった方本当にありがとうございます。いよいよ本格的にリオンの少年の団長生活が始まります。

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