20.激闘終わって
激闘をくぐり抜けた戦団兵の中でただ二人、リオンを囲む輪に加わらないものがいる。
最も深刻な毒に侵されたボルカと、その治療をしていたオペラだ。つい先程まで治療に専念していた二人はちょっと出遅れてしまった。
すでに解毒の治療は終わっており、大悪竜霊によって斬られた箇所も回復術によってふさがっていた。
和気あいあいと労いあうリオン達を、ボルカはぶすっとした顔で遠巻きに見つめていた。不機嫌なボルカの内心を何もかも承知しているような顔で、オペラはニコニコと見守っている。
「……いいの? あっちに混ざらなくて」
「なんのことだよ」
オペラの問いかけに、ボルカはぶっきらぼうな返事をした。
「もう毒も怪我も治ったんだから、ボルカちゃんも行っていいんだよ」
「何しに行くっていうんだよ」
「リオンくん、すごいがんばってくれたじゃない。もちろんボルカちゃんもすっっごいがんばってくれたけど、リオンくんが幻怪してくれなかったら危なかったし、ちょっとほめてあげたら?」
「はああ!? なんでオレがあんなクソガキをほめてやらなきゃいけないんだよ! あんなクソザコデーモンオレ一人でも余裕だったっつうの。ちょっと毒食らって休まなきゃいけなかったときに、あいつがしゃしゃり出てきただけだ。ほめるところなんかねえよ!!」
フン! と、いっそわざとらしいくらいに顔を背けるボルカに、オペラは微苦笑する。
「も~~、素直じゃないなあ」
オペラはそれだけ言って、特にそれ以上強いることはなかった。長い付き合いだけにオペラもボルカノ性格をよく知っている。口ではああ言っていても、根っからの戦士であるボルカがリオンの活躍を認めていないわけないのだ。それになんだかんだと言いつつ、久遠と同じくらい戦団の仲間を大切に思っているのがボルカである。そうでなければ大悪霊の毒を全部吸い込み仲間をかばうなどとてもできない。
明後日の方角へあごをそらしていたボルカだが、しばらくすると、だんだん顔が沈んできた。
「……百万歩譲ってだな、あのガキがたしかにちっとばっかし活躍していたとしてだ。オレみたいな竜人にやさしくされても不気味なだけだろ。そういうのは久遠とかの役目なんだよ」
「あら~、そんなこと気にしてたの? リオンくんが気にするわけないでしょう。むしろボルカちゃんにほめられたら絶対よろこぶと思うけど」
「…………そう思うか?」
こくこくとオペラがうなずく。
ボルカは腕を組んだまましばらく黙っていた。
突然、片手で頭をかきむしったかと思うと、大股でリオンのもとへと歩いていく。
麒麟の姿になっても戦団員によってもみくちゃにされていたリオンだったが、彼女が近づいてくると背筋を伸ばした。近くにいた戦団員も道を開ける。
リオンの首元まで近づいたボルカは、すぐには言葉を発さなかった。頬をかいたり、意味もなく咳払いをしてからようやく口を開く。
「あーーー……。今日は助かった。これからよろしくな、リオン団長」
「え…………」
あまりにぶっきらぼうすぎるボルカのねぎらいだったが、リオンにとっては言葉を失うほどほどうれしかった。
どのくらいうれしかったかと言うと……、その衝撃で幻怪が解けてしまったほどだ。
一瞬でもとの美少年にもどったリオンは、そのままボルカへと抱きついた。
「ボルカさん!!! 体治ったんですね!」
「うおわっ!!? 何いきなり抱きついてんだてめえ!」
「ぼく心配で心配で……。ぼくの方こそ、ぼくの方こそありがとうございました! ボルカさんが毒を吸い込んでくれなかったらきっとみんな無事じゃすみませんでした」
「わかった、わかったからさっさと離れろってんだよ!」
「わー、ボルカずるーい。なにリオンくん独り占めにしてるの」
「ぶーぶー!」
「やっかましい丸焦げにするぞてめえら!」
リオンはボルカに抱きついたまま泣き出し、周りは好き勝手囃し立てる。魔物相手にあれほど無双したボルカが弱りきっていた。
「だ~~~~も~~~~~~! どーすんだよこの状況!」
グズグズ泣き続けるリオンに、悪戦苦闘するボルカ。それらすべてを包み込むような笑顔で、オペラが陽気な笑い声を立てた。




