表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/32

19.神獣との融合

 1000体のワイト兵は30分とかからず殲滅された。

 大悪竜霊という司令塔を失ったワイト兵はただ機械的に攻撃をし続ける人形同然の存在となり、殲滅も容易だった。これが最初のゴブリンやオークだったら、勝てないとみるや逃げ出すため追撃が困難になっていただろう。

 魔物は討伐し、戦団のみんなも守ることができた。麒麟の姿ながらようやくホッと息をついたリオンは、仲間の元へと戻る。

 実のところ、リオンは内心不安をいだいていた。戦場に無理やりついてきたかと思えば、突然幻怪(リベレーション)した上に、麒麟というエウロパでは知られていない幻獣へと変身したのである。不気味がられ、拒絶されても仕方ない……そんなことをリオンは考えていた。

 もちろんそれは杞憂に終わる。


「へーーいリオン、すげえじゃねえかお前! なんでいきなり幻怪できてるんだよ。あたしの活躍横取りしやがってこのこの!」


『!!??』


 まず飛びかかってきたのはウルフである。麒麟という未知の幻獣への恐れなど微塵もなく、リオンの首へ腕を回して抱きついてくる。


「リオン殿、まこと素晴らしい戦いぶりでした。私率直に感服しております」

 

 続いてカタリーナが、パカパカと蹄の音を立てて近寄ってくる。この戦場に来るときは彼女に背負ってもらったのに、今はリオンのほうが大きいというのは奇妙な感覚だった。

 それでもカタリーナは馬人だけに目線はリオンとほぼ同じ高さがある。

 何の恐れもなく近づいてくる二人に、疑いなくリオンと呼んでくれる二人に、麒麟の少年は涙がこぼれそうなほど嬉しくなる。

 彼女たちに感謝を伝えたいが、麒麟と変じた身では言葉の出し方がわからなかった。ウルフは獣化している間狼と同じ声しか出せなかったから、リオンもきっと同様だろう。


 もどかしく思いながら、ひとまず心の中だけでも彼女らに感謝を伝えようとリオンはウルフとカタリーナに向けて祈った。


『ウルフさん、カタリーナさん、ご無事そうで何よりです』


 途端に二人がびっくりまなこで驚いた顔をする。

 もしやと思いリオンは続けて思念だけで祈った。


『もしかして、ぼくの言葉が聞こえていますか?』


「あ、ああ。聞こえてる聞こえてる。頭にこう、ぐわっと響いている感じで」


 ウルフが激しく首を縦に動かす。カタリーナも頷いて、


「すごいですね。思考伝達の一種なんでしょうか? 高位の魔術師でも習得が難しい術と聞いておりましたが、リオン殿は幻怪だけでなくそんな事もできるのですね」


『いえ、ぼくは魔術は基礎を習ったことがあるだけでほとんど素人です。その思考伝達ができているのは、この幻獣の力だと思います』


 この世界では全ての人間に生まれつき魔力が備わっており、学習すれば誰でも魔術を取得することができた。リオンもまた生活に必要な魔法は学んでいるが、当然思考伝達などという高度な魔術を身につけた覚えはない。


 つくづく麒麟の能力に助けられているな……と思いながらリオンは思念を続ける。


『とにかく、お二人とこうして思考の上でも会話できてよかったです。カタリーナさん、ウルフさん、あらためて無事で良かったです。それと、ぼくが討ち漏らしたワイト兵の掃討、ありがとうございました』


「なあ~~~に言ってんだよ。あたしたちのピンチを救ったのは誰だっつーの」


「リオン殿がいなければこの危難を抜けることはできませんでした。私達の方こそ心より感謝しております」


『とんでもないです! 自分はただ夢中でやっただけで……』


 ウルフがバンバンと肩を叩き、カタリーナは深々と頭を垂れる。

 リオンがあわあわしている間に治療を終えた戦団兵の面々が合流してきた。


「勝った勝ったー!! 絶対死んだと思ったのに勝てたよ良かったー!」


「リオンくん、すごーい! 大暴れだったじゃん」


「ていうか、リオンくんでいいんだよね? 何なのその姿? 魔獣」


「リオンくん、ほんとうにほんとうにありがとーーーー!!!」


 みな口々に喜んだり、感謝したり、不思議そうにリオンの体に触れたりする。

 なんとも不思議なくすぐったさを感じながら、リオンもまた彼女たちに感謝の念を伝えた。


『みなさん、ご無事で本当によかったです。こちらこそ、あの激戦からぼくを守ってくれてありがとうございました』


「「「「しゃべった!!!??」」」」


 全員がハモって驚きの声をあげる。なんだか照れくさくてリオンは苦笑した。


 一番最後に、久遠がやってくる。大悪霊の毒を人型で最初に浴びた彼女は、やはり回復も一番遅れたらしい。それでもいまは顔色良く元気そうに歩いてくる彼女を見て、リオンはほっとする。


「お疲れ様。意識を失っていたら、いつの間にか勝ってて驚いちゃった。えっと、リオンくん……で、いいのよね」


『はい。無我夢中で祈ったら、幻怪することができました』


 思念で返事をしつつ、リオンは一抹の寂しさを感じていた。久遠には最初に助けてもらったときから何かと世話になっており、短い時間ながらすでにかなり彼女を頼りにしている部分があった。久遠は毒のために昏倒していてリオンが幻怪(リベレーション)する姿を見ていないから当然とはいえ、彼女にひと目でわかってもらえない姿に変わってしまったことがかなしい。


 しかしリオンのそんな小さな不安は、続く久遠の言葉ですぐかき消された。

 彼女はゆるやかに目を細めて、口元をほころばす。


「きれい、だね。私、こんなきれいな幻獣始めて見た。うん、リオンくんにぴったりだよ」


 リオンの胸に喜びがあふれる。

 幻獣と化した自分を、人ではなくなった自分を、率直にきれいだと評してくれた久遠の言葉がたまらなく嬉しかった。


『ありがとうございます。ぼくが融合した幻獣はキリンというらしいです。桃源帝国の文字でも書けるんですが、久遠さんは読めますか?』


 そう言ってリオンが『麒麟』という文字を思念して久遠へ送ると、彼女は大きく目を見開いて驚く。


「え? えええ~~~~っっ!!!!?? 麒麟!? リオンくん麒麟と融合したの!!? 麒麟って私の出身の国でも有名な破格の幻獣よ! 四聖獣の一つで……。え、えええっ!? ごめんちょっとまって頭の整理が追いつかない」


『自分も先程幻怪した時に知識が頭に流れ込んできて知りました。エウロパでの知名度はほとんど無いですが、桃源帝国やその周辺では神のように崇められている幻獣なんだそうですね』


「神獣も神獣。それが地上に降りたとき国が戦乱を収めて平和になるってくらい規格外の神獣よ。は~~~~、道理で誰も見覚えないはずだわ。麒麟なんて絵図で描かれてきただけで、本物を見た人なんて現代ではいないもの」


 こめかみを押さえるようにして久遠が言う。その騒ぎっぷりに、周囲もざわざわしてきた。

 ウルフが久遠に尋ねる。


「なんだ? リオンの身核魔獣がその~、キリン? って幻獣だったのか? そんなにすげえのか」


「比べられるものが見つからないくらいの大神獣よ。無理やりこっちで例えるなら……フェンリルとか、ヨルムンガルドくらいの神格」


「マジかよ……」


 ウルフが絶句する。リオンもまた久遠の例えに改めて驚かされていた。

 そうだ。麒麟の桃源帝国での信仰を思えば、世界を滅ぼす魔獣にも比肩する獣なのだ。

 ウルフが続けて久遠に尋ねた。


「てことはリオンはあれか? 「神造種」だったってことか?」


「そうなるわね」


『「神造種」?』


「幻人種の区分の一つよ。古代の神によって作られた魔獣と人間が完全に融合した存在。古代神によるものだから人の手で再現することは不可能で、めったに新種が生まれることもない。融合が最良の状態で行われていて、普通の混血種や魔導種より全体的な能力が高いの。そしてこの種だけが、魔獣だけじゃなく神獣、東洋龍といった種との融合が確認されているの」


「はっは、あたしたちは、とんでもねえのを団長にしちまったみてえだな」


 ウルフがカラカラと笑う。

 リオンはといえば、ただ死にかけただけなのに予想を遥かに上回る、人智を超えた存在になってしまったことに混乱していた。


『た、たいへんな幻獣にぼくは助けてもらったんですね……。どうしよう、やっぱりちゃんをお礼を言いたかったです』


「はっはっは、かたくなんなよリオン、もらえるものはもらっとけってな。ウチらの団長が神造種の幻人なら願ったり叶ったりじゃねえか。初陣もうまく言ったしこいつは幸先がいいぜ!」


 ウルフがまたリオンの肩を叩く。

 続けて他の戦団員たちも、


「よくわかんないけど、強い幻人になったんならいいんじゃん?」


「リオンくんの幻獣きれーだし、ウチらもうれしいよ」


「たてがみ触らせてー」


 と好き勝手騒ぎ始めた。その楽天的な態度にリオンの心も軽くなる。

 なぜ自分が麒麟と融合できたのかとか、なにか使命があるのではないかとか、わからないことをくよくよ考えても仕方ないという気分になる。


『そうですね。いろんな疑問はひとまずおいて、今日は皆さんを助けられたことを心から感謝することにします』


「それがいいわね。大丈夫。まだ出会ったばかりだけど、私もリオンくんには麒麟と融合するのにふさわしい何かがあったんだって信じてるわよ」


 久遠がやさしく笑いかけてくる。そのいつくしむような笑顔にドキッとさせられて、リオンは麒麟の姿でよかったと思った。


 人間の体だったら、きっと頬が真っ赤になっていただろうから。


更新安定せずすみません! ちょっと日をまたいだりしますが連載は継続していく予定なのでよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ