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10.出撃準備

 百人隊の宿営地であれば水場の近くにテントだけというのが普通だ。

 そもそも百人隊が単独で作戦行動をとるということがまず無いが、亜人戦団の場合は独立して動く騎士団と同じような宿営をしている。


 団長小屋のすぐ近くに装備小屋はあった。

 食料庫、武器庫も近くにあり、全てが宿営地の中央に配されている。さらにそれを取り囲むように四方に兵舎が築かれていた。いざというときは兵舎自体も壁や遮蔽物代わりになるように計算されている。


 リオンはオペラとともに装備小屋に入る。まずはオペラの用意してくれた新しいシャツとパンツに着替え、続いて戦闘用の装備を整えていく。着ていた服はボロ同然だったためすぐに捨てることとなった。


 装備小屋にはリバート王国兵士用の正規装備がほとんど無い代わりに、冒険者や傭兵が使っていそうな装備が大量に詰め込まれていた。一応種類別に保管されているようだが、多種多様すぎて雑多に積まれているようにさえ見える。

 これではほとんど傭兵団の装備小屋だ……と改めてリオンは思った。


 オペラがふよっと浮かんで小屋の中からリオンの体型に合う装備を取ってきてくれた。チェーンメイルを着てから革製の胸当て、小手、脚甲などを装備したところで、軽く動いたり飛び上がったりしてみる。


 意外にも動きにくさはない。これは装備というよりリオンの身体能力が上昇したからのようだった。健康であったときより遥かに軽く肉体を動かせるようになっている。リオンは体験したことはなかったが、魔力による筋力や身体強化がこのような感じではないかと思われた。


「すご~い! リオンくん12歳とは思えない動きだね」


「寝て起きてから、なんだか身体全体が強化されているようです」


「うんうん、やっぱり幻人化に成功しているんだね。これなら戦場へも十分ついていけそう。あ、だけど今日は戦闘に加わっちゃ駄目だよ! 戦闘経験のない新兵同然なんだし、リオンくんは指揮官なんだから!」


「はい、わかっています」


 オペラの言葉にリオンはしっかりとうなずく。


 続けて、二人は武器庫へと向かった。


 武器庫にもまた多種多様な武器が収められていた。

 こちらも、とても分類しきれない武器をそれでも必死に努力して種類別に整頓した跡が見える。埃っぽさはなく、磨き油の強い香りが小屋全体にただよっていた。

 なんとなく武器庫と装備小屋は久遠さんが管理しているんじゃないかとリオンは想像する。


「リオンくん使ってみたい武器はある? 慣れないうちは片手に小さな盾も持てる短剣が主流かなあと思うけど。両手で使う長剣は、訓練もしないうちに使うのはおすすめしないかな」


「オペラさんがいいと思う武器にしてくれればうれしいです。出会って間もないですけど、信頼していますから」


「うれしい~。じゃあ選んじゃうね。あ、でも戦闘は駄目だからね! いざってときのため」


「大丈夫、わかってますよ」


 リオンが苦笑して返事する。オペラが満足そうに頷いた。

 ややして、オペラが選んでくれたのは片刃の反りのある短剣だった。

 乱戦ではこのほうが振り回しやすいらしい。合わせて装着する盾は薄い金属の上に革を張り合わせた円型のものだ。


 試しに武器を使ってみると、短剣も盾も重さに振り回されることなく振るうことができた。装備がいいのもあるが、やはり身体能力が強化されているのが大きい。


「問題なさそうです。……あの、質問いいですか?」


「なあに?」


「この武器も、先程の装備小屋でも思ったんですけど、この戦団の装備は質が高いですよね。王国正規品こそ無いですけど、きちんとしたものが準備されている気がします」


「ああ、うちはお金はないけどお金持ちだからね」


「?」


 オペラの独特の言い回しにリオンが重ねて尋ねようとした時、遠くから声がかかった。


「オペラ、リオン、装備は済んだか? そろそろ出発するぞ!」


 ボルカの声だった。明らかに門の方から聞こえてくるのにここまで届くとは恐るべき声量である。オペラが慌てたように口へ手をかざす。


「いっけない、私も早く回復アイテムの準備して並ばなきゃ。リオンくん、悪いんだけど先に門まで行っててくれる?」


「わかりました」


 質問は後回しにして、リオンはオペラと一旦別れることになった。


 宿営地の中を正門へと駆ける。やはり脚力も上昇しており、角の生える前より強い力で大地を蹴ることができた。しかも、かなり早い。先程武器を奮ったときよりもさらに力がみなぎっている気がする。腕力よりも脚力に秀でた幻獣と融合したようだ。


「ぼくの中にいるのは一体何の幻獣なんだろう……」


 口の中で一人つぶやきながら、リオンは走り続ける。

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