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09.宿営地

 オペラの提案に久遠がすぐさまうなずく。


「そうね、敵が迫ってるから急いで準備しないと。ボルカ、出撃するみんなを集めて宿営地の正門で待機をお願い」


「おう」


「リオンくんはこっちでお姉ちゃんと準備しようか。カタリーナちゃんも紹介するね」


「はい」


「病み上がり……と言うにはびっくりするぐらい健康だから大丈夫だと思うけど、気をつけてね。甲冑を着た経験はないよね? 革鎧がいいかなあ」


「オペラさん、お任せするわね。装備小屋に使っていないのがあるから適当に見繕ってあげて。ホビットやハーフリングが使っていたのがあるはずだから」


「ありがとう、久遠ちゃん」


 4人がそれぞれの役目のため動き出す。いよいよ魔物迎撃のために動くのだ

 リオンもまた、初めてベッドを降りた。

 ずっと寝ていたはずなのに、フラつきなどはない。かえって違和感があるくらいの健康さだった。


 オペラと連れ立って外に出る。

 真昼の太陽は長く眠っていた目にはすこし眩しかった。目をしばたたかせていると、隣でオペラがまじまじと見つめてくる事に気づいた。


「どうしたんですか?」


「いや、あらためて陽の光の下で見るとリオンくん本当ひどい格好しているなって。事前に届いた書類で呼んでたんだけど、リオンくんってあのケラヴノス家の嫡子だったんだよね? 私でも知っている大貴族のお坊ちゃんがその格好って……ちょっとひどすぎるよ。服を買うお金もなかったの?」


 たしかに自分の姿を見直してみれば、まるで幽鬼だった。陽の下にも関わらずゴーストのオペラのほうがよほど存在感を纏っている。


「ははは……この一年は食料が手に入れば神に感謝するような状況でしたから。それにケラヴノス家はもう貴族ではありません。貴籍を剥奪されて、滅びました」


 リオン自身が驚くほど、寒々しい笑いがこぼれ出た。

 それを見たオペラが目を釣り上げる。リオンに怒っているのでは、無論ない。


「リオンくん、お姉ちゃん、リオンくんをそんな風にした人たちのこと絶対に許さないから」


「え……?」


「許さないよ。リオンくん、いつか必ず復讐しよう」


「えっと……、ありがとうございます、で、いいんでしょうか」


「うん、お姉ちゃんのこと、いっぱい頼ってね」


 正直復讐という言葉にリオンはピンときていなかった。そんなことを考えるには心は擦り切れきっていた。

 それでも、エレノア以来初めて自分のことで怒ってくれる人を見てリオンは胸の中に小さな火をともしてもらったような気がした。


「は……い。復讐とかは全然、考えたことはなかったですけど、オペラさんが怒ってくれるのは、うれしいです」


「だめだめリオンくん、理不尽な目にあったらちゃんと怒って。怒ることは全ての生き物が持っている大事な権利だよ。リオンくんをそんな目に合わせたやつに、それはもう生きていることを後悔するようなむごたらしい目に合わせてやろうよ」


「えっと、オペラさん、ちょっとこわいです」


「当然でしょ。お姉ちゃんはゴーストなんだよ」


 そう言ってオペラがにっこり微笑む。そこに感じたことのない『圧』が見えてリオンの頬は若干引きつった。


「……もし復讐したいと思ったときは、よろしくお願いします」


「うん、お姉ちゃんに任せなさいっ!」


 どん、とオペラが叩いたことで豊かにはずむ胸を見ながら、リオンはぼんやりと思う。


『やっぱり亜人戦団にいる人はみんなちょっと怖いところがあります……』


「さーてそれじゃあリオンくんの服も下着から全部新しいのに替えようか。装備つける時いっしょに備品倉庫から持ってくるよ」


「はい、ありがとうございます」

 オペラとともに倉庫へ向かう前、リオンはふと出てきた建物を振り返った。

 あらためて自分の寝ていた建物を見上げる。思っていたよりしっかりした作りの木造建築で、普通の平屋くらいの印象だった。大きさも、5部屋は入りそうな規模だ。以前の会話を思い出すにここが団長専用の建物らしい。


 団長室から宿営地内に視線を向ける。それはリオンの想像する宿営地よりずっと整備されていた。


「ここがお姉ちゃんたち亜人戦団の宿営地ね。宿営地と言っても野原にテントを張って野宿しているわけじゃなくて、それなりの規模で駐屯地化しているんだ。だいたい一辺が100メートルの正方形の形をしているの。周囲は木の(へい)で囲っているし、一応空堀(からぼり)も掘っているから頑丈だよ。25名が寝泊まりできる兵舎が4つ、それに食料庫、備品倉庫、武器庫、装備小屋とかがあるし、近くに川もあるから水の補給も心配ない。さすがに砦やお城とは比べられないけど、割といいところだよ」


「かなりしっかりした宿営地ですね」


 オペラの説明を聞きながらリオンはきょろきょろとあたりを見回す。

 ふと下に目をやれば地面まできちんと整地されていた。

 よく見れば宿営地内も大きな石や自生している木立のたぐいが全く見当たらない。さらに北側の壁近くには9メートルくらいの高さだが、見張り台まで設置されていた。その下に出入り用の木戸門が設置されており、それが正門なのだろう。


「見張り台まで……ほとんど砦ですね」


「ドワーフとかで工兵も兼任している子がいるからね。亜人戦団は兵士数は百人だけど、戦闘に関わらない補給や土木、救護担当の子も別に30名くらいいるんだ。そういう意味では第5騎士団の所属だけど割と独立性が高いかな。あんまり命令されない代わりに、自分の身は自分で守れって放置されちゃうこともあるけど……」


 そう言って、オペラはちょっと苦笑するのだった。

オペラさんは亜人戦団内でもっとも怒らせてはいけない人です

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