血を被れ、勇者よ
レイン、お前は運が悪かった。
お前の人生で、一度でも運の良かったことなんてないだろう。
だが、生きろ。無様でも、生きろ。血を被ってでも、生きろ。
それがお前に唯一できることだ。
生きるためなら劔を抜け。生きるためなら相手を選ぶな。生きるためなら相手を殺せ。
名を捨てろ。誇りを捨てろ。感情を捨てろ。
必要なのは生きるための願望だけだ。
レイン・サンライン、お前は人間を捨てろ。
捨てて生きるんだ。
生きることこそ正義なんだ。
1-1
「ぬ、抜けたぞ!!」
「「おぉおおお」」
帝歴543年、魔王は世界最大級の大陸「エゼルトピア」に君臨した。
地は割れ、空は赤く染まる。
付近に存在していた多くの王国、帝国、連邦国は次々に壊滅、国民は一人残らず惨殺された。
それと同時に、パドレス王国のエレス町、北西部に位置する中級協会によって、勇者が決定された。
「ここに、勇者を青年レイン・サンラインに決定する!!」
協会は青年を野外に叩き出し、暑い扉をきつく閉めた。
「今度は俺が生贄か…」
そう青年は呟き、歩みを進める。
重い劔は、人々の傲慢な願いと共に彼に圧し掛かった。
「まずは国王陛下への連絡か… 俺は勇者じゃなくてパシリなんじゃないのか…」
そう青年は愚痴を漏らす。
そのまま少し駆け足になりながら草原を駆け抜けた。
太陽が45度ほど傾いた頃だった。
「あれは、村か…?」
小さな村から赤い煙が上がっている。
青年は目を凝らし、歩みのスピードを上げる。
「むごいな…」
家は焼け落ち、死体は全て切り刻まれていた。
「盗賊… じゃないな…」
青年は死体から金品を取り出し、袋に詰めて行く。
10の死体から金品を取り出した頃、青年は1つの違和感に気がついた。
「心臓がない…」
1体1体の死体から綺麗に心臓が抉り抜かれている。
青年はそれに疑問を持つことなく、作業に没頭した。