001.第零課の召喚術師
大変長らく…
「なんで私がこんなことを…。」
スマホを片手にスーツ姿の女が住宅街の坂をゆっくりと、重い足取りで上がっていく。
どうやら誰かの家を探しているらしい。
額に滲む汗をハンカチで拭く。
無駄に高くて、いい素材のものを親に買わされたが、
買った時にはこれを選んで良かったと思う日が来るとは、夢にも思っていなかっただろう……
彼女の名前は赤星七瀬
言わずと知れた超名門、オリバークロウ魔術学校を卒業後、
魔術師の就職先として最高の機関、魔法・魔術協会に就職。
その圧倒的優秀さと適正値の高さから、第一課に配属される。
第一課は主に魔法・魔術に関連する事件や事故への対処をメインにしている課で、
いわば、”魔法・魔術専門の警察”と言えるだろう。
彼女が配属されてからまだ数ヶ月だがいろんなことを経験してきた。
魔術が使われた殺人事件の捜査、魔術によるテロ行為への対処など、その他諸々e.t.c…。
そして、第一課が請け負う重大な仕事の1つであるのが…
「なんだよぉ!第零課って…」
赤星は坂を上りながら、気だるそうにそう呟いた。
そう、第零課の管理・指揮である。
第零課とは、
協会として表立って取り組みにくい仕事を任務として遂行する課であり、
そのメンバーは正式な協会メンバーではなく、
魔術に秀でており、更に一般社会で生活している者である。
加えてそのメンバーを知る者は協会の幹部数名と第一課のメンバーだけであるという極秘機関である。
CIAとか、FBIみたいでかっこいいね!
赤星は今日、その第零課のメンバーの更新面接に訪れたのである。
更新面接というのは今年も第零課のメンバーとして相応しいかどうかを確認するためのもので、
もちろん、これも第一課の仕事である。
「せっかく初めて単独で仕事任せられたと思ったのにぃ!!!
零課って!素人相手に面接ごっこじゃん!
はぁ、めんどっ!」
赤星は乗り気ではなかった。
それもそのはず、赤星はいわばエリートで出世コースまっしぐらの人間なのである。
なのでプライドが高く、今までも上司に補佐してもらいながらの仕事ばかりで
いや!これくらい、私だけでもできるしっ!と思い、ただでさえフラストレーションが溜まっていた。
そんな中初めて単独で仕事を任せられた赤星はやっとか!と、
やっと一人前として認められたのかと思っていた。
しかし、蓋を開けてみれば第零課メンバーの面接。
がっかり以外の何物でもなかった。
更に移動手段は電車、そして駅からは徒歩と、
協会の車使わせろっての!
なんでわざわざ電車で向かわなきゃいけないのさ!と赤星は思っていた。
そうして、最寄りの駅から長い坂を登り始めて10分。
やっとそれらしきマンションが見えてきた。
「えぇ、高校生のくせにこんなマンションに住んでんの?
ハァ〜、生意気だわぁ〜」
そのマンションは5階建ての白いマンションだった。
しかも5階に住んでいるらしい。
ますます生意気だ…。
資料によると、今日面接するのは不破蓮、高校二年生。
去年から第零課のメンバーで、特に召喚魔術に秀でているとか…。
召喚魔術なんて…
召喚獣に頼っているだけじゃん。
そんなの自分が弱いって言ってるようなもんじゃん。
赤星はそう思っていた。
実際、赤星が通っていた魔術学校にも召喚魔術が得意な生徒はいっぱいおり、
赤星は実践形式の授業ではそういう生徒には負けなしだった。
なぜ勝てたか、
考えることはいかにして召喚獣の攻撃を避けるか、
避けさえすれば、後は術者を攻撃すれば終わり。
召喚魔術は強力な魔術ではあるが、
その分そういうデメリットも大きいのだ。
だからよく召喚魔術を使う魔術師は、
他の魔術師や、魔法使いとよくコンビを組んだりする。
そうすると、召喚獣が攻撃してる間も
その攻撃をサポートしつつ、術者も守ってもらえるからだ。
赤星は資料を一読すると、マンションに入り、エレベーターに乗る。
5のボタンを押し、5階まで上がると、
「えー、不破…、不破………」
指をさしながら一部屋ずつ名字を確認していく。
………あった。
随分達筆な字で”不破”と書いてある。
一息ついてインターホンを押すと、
ピンポーンとよくありがちな音が流れる。
すると…
「はい、不破です。」
とインターホンから若い男の声が聞こえてきた。
「魔術協会第一課から更新面接にやって来ました。赤星です。」
「あー!赤星さん!今行きますね!」
どう考えても普通の高校生って感じの声なんだけど…?
赤星がそう思っていると…
「うわーい!女の人だ!」
「蓮殿の家に人が来るなんて去年の会長殿以来じゃないでござるか!」
「蓮、緊張してんの?」
「うるさい!あんたらは少し黙って!
この面接に失敗したら、蓮の仕事が無くなるかもしれないのよ!」
と言ったように、なんだか騒がしい。
ルームシェアでもしているのか?
もし関係のない一般人だというなら場所を移さなきゃなぁ…。
なんて思っていると扉が開いた。
「ようこそ我が家へ!今日は是非お手柔らかに!」
見るからに普通の、前髪が少し重めの男が出て来た。
「あなたが…、不破蓮さんですか?」
あまりに普通の見た目に赤星は少し戸惑っていた。
どう見てもこの子が腕の立つ魔術師には見えなかったのだ。
「はい!そうですよ…?
……まぁ、とりあえず中へどうぞ!」
そういうと蓮は家に赤星を招き入れた。
中に入るとインターホンから漏れ出して来ていた騒がしいルームメイトなどはいなかった。
強いて言えば、異常にタブレット端末や、PCが多いことくらいだった。
パッと見で10台以上はあることがわかる。
リビングに座ると蓮は不慣れな感じで赤星に尋ねた。
「えーっと、コーヒーでいいですか、ね?」
「は、はぁ…。」
赤星はお茶かコーヒーかなんてどうでも良く
さっきの声の主が気になって、気になってしょうがなかった。
蓮はキッチンの方へ行き、お湯を沸かして、コーヒーを入れ始める。
自分、なんかおかしいこと言ったかなぁ…?
と自分の行動に自信が持てず、あたふたしている様子だった。
「さっきインターホン越しにお友達?みたいな人の声が聞こえたんだけど…。
この家、あなた以外にも誰かいるの?」
赤星はついに我慢できなくなり、面接そっちのけで訪ねた。
彼女自身は、これも面接の一環だと思うことにしているみたいだが。
すると蓮は周りを見渡し…
「あっ!電源切れてる!
どうりで静かだなと思ったぁ〜」
そう言うと、蓮はタブレットを充電し、電源を入れ始めた。
「紹介しますよ、俺の仲間たち!」
最初は何を言っているのかわからなかった。
ん?つまりネット上の友達ってこと?
さっきの声は、PCとかタブレット越しの通話音か。
しばらくして充電が終わり、タブレットの電源がつくと…
「いえーーーい!!!!!」
「うわっ!」
突然の大音量の叫びに赤星は思わず声が出てしまっていた。
「バカッ!快!
お姉さんが驚いちゃってるだろ!
まずは挨拶しなさい!」
「あー、ごめん洸太兄ぃ…
初めまして、おねーさん!快です!」
「は、はぁ、初めまして…
私の名前はあかほ…」
「俺に謝るなっ!
謝るならお姉さんに謝れ!」
「あっ、そうだった!
お姉さんごめんなさい!
急に大きい声を出して…。」
猫耳のようなものを生やした顔が似ている兄弟っぽい二人組が、どんどん喋りかけて来る。
この2人組が映し出されているタブレットの電源をつけた当人である蓮は
全くこの状況を気にとめることなく、残りのタブレットの電源をつけていく。
赤星から送られて来るチラチラとした助けて欲しそうな視線にも全く気づいていないようだ。
「おや、これまた美しい方でござるな。
初めまして、拙者カムイと申す。
以後お見知り置きを!」
「もぉ〜、今日は大事な日だってさっき言ったじゃん!
なんでみんなゾロゾロ出て来ちゃうのさぁ!
はぁ…、初めまして、ルミスです。よろしくお願いします。」
隣に置いてある別のタブレットから更に、
若そうなのに何か貫禄を感じる男と、眼鏡をかけた美形の女の子が話しかけて来た。
赤星はもう何が何だかわからない状態だった。
「ふぅ、これで全部つーいた!っとぉ…
あらら、やっぱり4人しか出てこないかぁ…。」
「ちょっと蓮さん!」
そう言うと赤星は蓮をキッチンの方へ引っ張って行った。
「不破さん!彼らはなんなんですか?
今話題のVtuberとかですか!?
私そんなこと聞きに来たわけじゃないんですけど!!!」
赤星がそう、少し怒ったように尋ねると
「いや〜、そんなんじゃないですよぉ。
ちゃんと彼らも僕の仕事に関係ありますから!」
「仕事に!?」
「えぇ…!」
赤星の疑問は妥当と言えるものだった。
誰でもあの状況を見たらそう考えるに違いない。
しかし、蓮は仕事に関係あると言う。”仕事”にだ。
赤星はますますパニックに陥っていた。
「そうだよ!関係あるよ!」
「うわっ!」
キッチンの横にあるタブレットから、
先ほど、快と名乗っていた猫耳少年が急に現れた。
急な出現に赤星はまた声を上げてしまった。
「あぁ、また驚かしちゃった。
ごめんね、お姉さん…。」
「いや、別に…、いいけどぉ…。」
彼らの存在が赤星を戸惑わせる理由の大きなものとして、
彼にVtuberのようなキャラを作っている雰囲気が感じられないことがある。
特に快と名乗る猫耳少年…、
一挙手一投足、全てが本当に子供のようなのだ。
赤星はもう聞かずにはいられなかった。
「不破くん、この子たちはなんなの?」
赤星は彼らの存在が不思議でならなかった。
彼女が考えられるどの選択肢にも当てはまらないこの画面の奥のお友達が。
固唾を飲んで見つめて来る赤星に蓮は言った。
「そうかぁ、東雲のおじさんから聞いてないんですね?
そりゃ、不思議ですよね。彼らが。」
東雲のおじさん(?)って………
会長のこと!?
魔法・魔術協会会長 東雲 式次郎と彼は知り合いみたいだ。
しかしそっちよりも気になることがあるので、あまり、と言うか全く赤星は気に留めなかった。
よく考えるとなかなか異常で、おかしいことなのだが。
「えぇ!不思議!教えて!」
赤星はその大きな瞳で蓮を見上げ、首をブンブン縦に振っている。
「簡単に言うと……、彼らはAIなんですよ!」
「………………… AI!?」
この日一番の衝撃が赤星の体に走った。




