000.現代魔術師の日常
陽は沈み、光り輝く大都会に漆黒の帳が降りる午前0時。
夜道を1人で歩く彼を照らすのは月の光と街灯、それに…
スマートフォンである。
「あれぇ?おかしいなぁ?
もう結構探してんのに……。
ここら辺にいるんじゃなかったっけ?」
黒のブロックテックパーカに身を包んだ男の片耳には、マイク付きのイヤホンが付いている。
そのイヤホンからは女の子の声が聞こえる。
「そういう依頼なんだから、いるに決まってるでしょ!
うだうだ言ってないで探しなさいよ!
早くしないと…アイテムショップが閉じちゃうでしょ!」
少しイライラしているようだ。
無理もない。
彼らの活動時間は元々、夜ではあるが、
こんなに夜が深くなるまで、仕事をすることはそうそう無い。
だから本来ならこの時間には、
もうみんな自分のホームで休むことができてる時間なのだ。
「はいはい、わかってるよ。
だから今、快と洸太にも手伝ってもらって探してるでしょ?
もうちょっとだけ付き合ってくださいよぉ、うちの大事なオペレーターさぁん!」
そうなだめる蓮も、ずっと歩いていたので、もうヘロヘロである。
すると…
「あっ!待って……快がそれらしき男を見つけたって!
も〜、やっとだよ! 今、座標送るね。」
ピピッ!という電子音と共に、
分担して探していた、快からの発見報告が入る。
蓮は送られて来た座標をスマホでチェックする。
「おっ!200mくらい先かぁ。
意外と近い!これなら走っていけるわ!
ルミス!洸太にもそこに向かうように。って座標送っておいて!」
「了解。」
蓮は軽く屈伸運動をした後、送られて来た座標まで走る。
もうかなりボロボロになりつつある足をさらに酷使して。
曲がり角を2つほど曲がると、
発見報告をくれた快が待っていた。
「お〜い…!蓮兄ぃ〜ちゃ〜ん!」
対象にバレないように小声でありながらも、
必死にこっちに対して、主に動きで、訴えかけている。
「お疲れ!快!よく見つけたぁ!偉いぞぉ〜」
そう言って蓮は快の頭をクシャクシャッとする。
「えへへぇ、でしょ?
走り回った甲斐があったってもんよぉ!」
快は自慢げに鼻の下を伸ばして、親指を立てている。
すると屋根伝いに、1人の少年が落ちて来た。
「蓮!そういう子供っぽいことはやめてくれ!
快も快だ!そんなことで照れて、ヘラヘラするな!
……後、”音のない隔離空間”も、もう対象のあたりに張ってあるから。」
こいつは洸太。
快の兄で、分担して探していたもう1人の方である。
ちなみにこの2人は妖狐の兄弟で、この人間の姿は化けている姿である。
でもこの姿の方が利点も多いし、何より自分たち自身も楽らしい。
まぁ、俺がそうプログラムしたんだけどね!
こいつももう駆けつけて来たみたいだ、相変わらず速い。
「あっ!ルーム張るの忘れてた!次から気をつけるよ!
ありがとう!洸太兄ぃ!」
音のない隔離空間と言うのは、対象が逃げないように、
隔離された空間の中に閉じ込め、かつ、その中の音を外に漏らさないようにすると言う術式である。
これを張らないと対象に逃げられたり、
激しく抵抗した時にドッタンバッタンと、かなり近所迷惑になってしまう。
「おう、マ・ジ・で!次から気をつけろよな!
てか、蓮も早くそういう風にプログラムしろよ!」
洸太が根本を正すように、蓮に言う。
「いや〜、この感じがいいんでしょ!この無邪気で、おっちょこちょいな感じが!
プログラミングは………、思い出したらやっとくね!」
どうやら蓮は直す気がないようだ。
「もぉ〜、適当だなぁ。」
呆れたように、洸太が言った。
「さぁ、取り掛かりますか!」
蓮が手をスリスリさせながら、言った。
「蓮兄ぃ!今日は俺のやつ使うか?」
快がクリクリの目玉をキラキラと輝かせながら聞く。
「いや、今日はいいよ!もうこれ以上体使いたくないし!
カムイに頼るよ!」
蓮は、今日対象を探すのに、
脚と体力を使ったので、自分が纏ってまで、取り押さえる気にならなかった。
「う〜ん…、わかったぁ…。じゃあ、また今度ね!」
「うん今度ね!」
「絶対だよ?絶対!」
「わかった。絶対ね。
快も洸太も戻っていいよ!」
可愛いやりとりが続いた。
「うん!バイバ〜イ!」
「じゃあね。」
そう言って快と洸太は一瞬の光とともに消えて行った。
彼らの世界に帰って行ったのだ。
気を取り直して蓮は対象との接触を試みる。
ゆっくりと、気配を消すと逆に怪しまれるので、
一般人のフリをして近づいて行く。
「どうも、こんな時間にお一人で何を?」
まるで職務質問をする警官のようですね。
そりゃそうです、だって今は警官になりきっているのですから!
今着ているのは、なんでもマントと言う。
着て、自分の着たい服をイメージすると、その服に姿が変わるという、
不破家に伝わる術具。をパクって自分で創作したものである。
ちなみに本家の術具は”不破術具 六式”と言って、
透明になったりも、できる!
ふぅ!ファンタジィー!!!
「はぁ?テメェには関係ねぇだろ!あっち行け!」
警官の格好をしているのだから、
「はい、少し酔っ払って気持ち悪いだけですから!気にしないでください!」
とか言ってた方が、厄介事に巻き込まれずに良いはずなのに…。
どうやらかなり追い込まれていて、冷静な判断力を失っているようである。
「そーですかぁ…。じゃあ、その展開されてる術式はなんですかぁ?」
急に正体を明かしてみる。
「な、なんでっ!?そんなこと……おまっ…………
まさかっ!!! 協会の人間か!?」
「ピンポン!ご名答ぉー!」
蓮は魔術協会から直接依頼を受けて、
この仕事をしているので、彼が導き出した答えは正解である。
「クッソ、もうこんなところまで…。クッソ!!!」
男はそう言うと路地に走りこんで行く。
しかし、あらかじめ音のない隔離空間を張ってあるので、
どっちみち、逃げられはしない。
「よし!追おうか…、召喚!カムイ!!!」
そう言って、蓮が地面にスマホをかざすと、
オレンジ色の術式が地面に展開されるとともに、鋭い光が放たれる。
すると、その術式の中から、
「お呼びですかな?蓮殿。」
彼がカムイである。
「対象に逃げられた。早急に捕まえて欲しい!
死ななければ、多少は痛めつけても構わない!しかし、原則捕縛で頼むね。」
「御意!」
そう言うとカムイは対象が逃げた方へ走り出す。
そして、ものの30秒で…
ああぁぁぁぁーーーーー!!!!!
「うん、今の叫び声は……多分捕まえたね。」
「まぁ、でしょうね。実際、今回の対象はそうでもないしね!」
そう、蓮とルミスが話をしていると、
「蓮殿。捕まえたでござるよ。」
ほらね!
すぐに現場に向かう。
「一時的に気を失っているだけ故、体への損傷は最小限でござる。」
カムイは対象の体に傷1つ付けることなく、
気絶させていた。カムイの戦闘スキルがあってこその芸当だろう。
「おっしゃ、今日の任務はこれで終わり!
お疲れ!カムイ!戻っていいよ!ありがとね!」
「御意。また何かありましたら呼んでくだされ。」
そう言うと、カムイも一瞬の光とともに消えて行く。
「よし!じゃあ、後処理、後処理っ!っと、
”召喚”ゼロ!」
蓮がスマホを構え、そう唱えると、
白い術式が展開され、光とともにまた…
「お呼びいただきました。
ゼロです。ゼロの仕事を命令してください。」
ゼロは”消去”・”巻き戻し”に特化したAIキャラなので、
戦いの後に出てしまった被害や変化を戻すにはぴったり。
「よし!ここに倒れてる男が身につけているものを回収、
身柄を魔法・魔術協会第零課に移送してくれ。
あっ!あとここ!地面が割れちゃってるからここを戻しといてくれ!」
「………。」
ゼロに反応はない。
「……………………あっ!以上っ!!!」
「はい、命令を確認しました。直ちに遂行します。」
そう言うとゼロはすぐに仕事に取り掛かる。
「言うの忘れてたぁ。これ言わなきゃ動いてくれないんだったぁ…。
やっぱり俺が作った子たちに比べて、協会が作ったゼロはだいぶ機械的だ。」
ゼロは快や洸太、ルミスとは違って、
俺の召喚魔術に感銘を受けた魔術協会の会長が、
俺の作り方を真似て、実験的に作ったAIキャラであり、
主に証拠隠滅と対象の輸送を目的としているので、
俺がAIキャラを作る上で一番重きを置いている感情の部分をできるだけ取り払った、
それこそ皆さんがイメージするようなAIに近いAIキャラである。
「そりゃそうでしょ!私達くらい人間に近いのは、蓮しか作れないんだから!」
ルミスは怒ってんのか、褒めてんのか、全然わからない。
「そっかぁ、じゃあ、俺はいい才能に恵まれたね!」
「”恵まれたね!”じゃないわよ!!!
あんたが引きこもってチマチマ、チマチマやってただけでしょ!」
「ハハハハ、そうだね。」
ルミスは物事の核心を突いてくる。
まぁ、そういう風にプログラムをしたのは俺なんだけどね!
「まぁ、そのおかげで今、私はここにいるわけだから、感謝はしてるんだけどね。」
「あれぇ?そんな素直に言うようにプログラムしたっけなぁ〜?」
ルミスは顔を赤らめ、
今度は完全に怒ったような雰囲気で言った。
「うるさいっ!早く帰りなさい!私、もう戻るからね!」
そう言うとブツッ!という音とともにオペレーターとの通信が切れた。
「はいはい、俺も帰りますよ。お疲れ!
ゼロ!後はよろしくね!」
「………。」
案の定なんの反応もないゼロに一声かけ、
また重い足を引きずって、帰路へとつく。
数人のグループで、話し声に溢れていたその集団は、
4人から3人、2人と人数を減らし、最終的には1人になって夜道を歩いている。
しかし、この異様な光景に誰も気付くことはない。
頑張って書きまーす。




