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「にぼしうらない?おいしそうな、うらない、だのう」


先程、大きな焼魚を食べたばかりだが煮干しを頭に思い浮かべティアはごくっと唾を飲み込んだ。

きっとカリカリの食感で絶対美味しいのに違いない。ティアは言葉の響きから想像を膨らませ姿、形を頭の中で映像化する。それは、ほぼ正解に近い。ティアの能力といっても過言ではない。


「今度は私の運命のかわいこちゃんといつ出会えるか占ってもらおうかしら」


「ティアも!」


運命の、なんて素敵だ。ティアはもし、自分に運命の誰かがいたら、と考えたら胸がドキドキする。食い気の方が勝るが、ティアだって16才の素敵な恋を夢見るお年頃の女の子なのだ。


「キティちゃんは運命の王子様ね!」


「…ティアの、おうじ、さま?」


「そう!白馬に乗った王子様よ。赤い薔薇が似合う、素敵な王子様がいいわね、キティちゃんには」


エメラルドはティアとお似合いな王子様を妄想して一人できゃっきゃしている。


(おうじ、さま)


この国の国王と王妃である親に捨てられた王女だと自覚はある。王子はティアの弟だ。

ティアを生んでくれた女の人が放った言葉が忘れられない。

お母様、と呼んだら嫌がるのは簡単に想像できる。

だが、弟の顔を想像しようとしても、不思議とうまく頭の中でイメージが出来なかった。


(あの、おさかなの、おとこのこ、が、ティアのおとーとだったらいいのに)


ティアを助けてくれた少年の顔がふと、脳裏に浮かぶ。黒い花粉用のマスクでほとんど顔が見えなかったが、黄金色の瞳が忘れられない。力強く優しく輝いていた。

少しの間だったが、話していて楽しかった。

あの少年が弟なら仲良し姉弟になれるのに。


(また、あいたいな。こんどは、ティアが、かわから、おさかな、とってきて、やいて、たべさせたい、な)


喜んでくれるだろうか。ティアは楽しい想像をして頬笑む。

ティアは川で魚をとったり小動物を追い掛けるのは得意なのだ。

色々と遊びたい。ボールを投げてパンチするとか、芝生の上で寝転がってころころするのも楽しそうだ。

少年は猫化系の半獣であるから本能的には嫌いではない遊び、だと思う。


(あのこと、てをつないで、いっしょだと、なにも、こわくないきがする)


手を繋いでいる間は、無敵!っていう気持ちに不思議となれた。

酷くティアの心を苦しめるあの女の人の言葉にも。


つらつらと、ティアは少年の事を考える。


でも、自分の姿を見たら怖がるかもしれない。

少年なら怖がらないかもしれない。

ティアの心のなかで不安と期待が同時に生まれた。


「キティちゃん、おうちに帰りましょう!」


「うん!」


ティアは真ん中になり、レミィとエメラルドとしっかりと手を繋いでエメラルドの屋敷へと帰った。

太陽が沈んで辺りが暗くなってきたけど、帰り道は少しも怖くなかった。


***



「……ティアちゃん、また、ゆめですわ。ねておきても、ゆめですわ」


「そうね。また、ゆめのなかね。へんね」


ティアは目覚めてもあの質素な塔の部屋ではない事に安堵してそして、不思議だと首を傾げた。ふかふかなベッドはもう身体に馴染んで寝ると腰が痛くなる固いベッドで寝れるか不安になる。

淑やかな令嬢ルミテルの口真似をして自分に声を掛けて、ティアは不思議だと今度は反対の方向に首を傾げた。


「ティア、どうした?」


レミィがティアを後ろから抱き締める形で眠っていたが、ティアの声が聞こえると目を覚ました。

寝起きで低く掠れた声が耳元に当たって擽ったい。ティアはふさふさな猫耳を震わせた。

ティアはレミィにすっぽりと抱っこされて眠るのが好きだ。とても安心する。カンガルーの子供になったような、一番安全な母親の腹のポケットにいるみたいな心地になる。


「……なんでもない、わ」


夢の中にいる事に気付いているとレミィに知られたら駄目だ。きっと、直ぐにあの一人ぼっちの塔の生活に逆戻りだ。レミィやエメラルドと一緒の夢の中の生活を失いたくない。


それなら、目を覚まさない方がいい。


ティアの声に元気がなくなる。レミィは敏感に感じて何も言葉を掛けずに頭を撫でた。ティアはごろごろと喉を鳴らしてレミィの手に頭を擦り付けて甘える。

ティアの甘える、という行為を初めて受け入れてくれたのはレミィだ。寂しいというと添い寝してくれるし、頭を撫でてくれるし、気に掛けてくれる。


(……おにいちゃん、が、いたら、こんな、かんじかしら)


ぬくぬく、とティアは日向ぼっこする猫のように瞳を細めた。

家族が欲しくなった。本当の家族に捨てられて、余計に家族というものに憧れを持っていた。

ティアは16才で恋に恋する年頃の女の子だ。エメラルドがいう王子様、運命の人、恋人に憧れるがこんな毛むくじゃらで人間でも半獣でもない自分を愛してくれる人はいないだろう。


夢の中で、せめて、家族が欲しい。


名前を呼んで抱き締めてくれる人がいるだけで、幸せだ。だから、ティアはレミィにお願いした。


「レミィ、ティアのおにいちゃん、に、なってくれる?」


「ああ、俺で良かったらティアの喜んで兄になろう。ティアを守る、今度は守る」


レミィは一瞬、痛いことを思い出したような顔をする。

だが、大きく頷くとぎゅむと抱き締めてくれた。

ティアは嬉しそうに微笑んだ。



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