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(今の俺を見たら、ティアは怖がるだろうか)


自分は優しくはなく、目的の為なら手段を選ばない。

ティアは純粋で穢れがなく心も身体も真っ白だ。


レミィはカルラ、いや、エメラルドの洋館に居候の身であり、寝泊まりが一緒だった。気を失ったティアが心配で目覚めるまで付きっきりで側に居た。

ティアが目覚めた夜、レミィはソファーをベッドにして寝ようとした。

獣人だが、立派な可愛い一人の女の子であるティアにベッドを譲るのは当然だと思ったからだ。

しかし、ティアは不思議そうに首を傾げた。


「レミィ、ここで、ねないの? ふかふかだよ?」


「……俺はここでいい」


年端もいかないような、幼く無垢な女の子に男だから、とか女だから、とか言いにくくてティアから視線を外して言葉を濁した。

そのレミィの様子を見て寂しそうに耳と尻尾をしょぼんとさせた。


「ティア、レミィと、いっしょが、いいなぁ、さみしい」


その声はあどけなく、愛おしい。

レミィは柄にもなく胸をきゅんとさせた。そして、ティアを可愛がりたくなりベットに入ると彼女を後ろからぎゅうと抱き締めた。

ティアは嬉しそうな声をあげて笑った。聞いているレミィの心が軽くなるような澄んだ笑い声だった。


「……おやすみ、レミィ」


「ああ、おやすみ、ティア」


ティアの身体はぬくぬくとあたたかくて心地よかった。

安心したように目を閉ざし眠るティアの寝顔をしばらく見ていた。


(本当に、俺らしくないな)


ティアと一緒にいると、自分は優しい人間になりたくなる。

不思議だ。

セシルが見たらなんて言うだろうか。


「……大丈夫ですか? 傷が痛む、とか?」


急に黙り込んだ、レミィを見てジェイが眉を寄せて心配そうに声を掛ける。

いや、とレミィは首を横に振った。


「なんでもない、……その本、少し見せてくれないか?」


「ええ、いいですよ。どうぞ」


ふとジェイが持っている本を見てレミィは驚いた。

本を貸してもらうとパラパラとページを捲る。

やはり、この本だ。

この本を探していた時があった。なかなか見つからず諦めてしまった本だ。


「探していたんだ、この本」


「そうなんですか? 私もまだ、読んでいる途中なので今は貸せませんが……読み終わったら貸して差し上げますよ」


「本当か? それはうれしい」


ジェイに本を返すと申し出にふ、とレミィは微笑んだ。自然と嬉しい、という自分にレミィは驚く。素直なティアの言動に影響されているのを感じた。


「さてと、こいつを引き渡しに行くか」


レミィはロブの手首を後ろにして縛ると担いだ。

重力を軽減させる魔法を取得していて助かったな、と思う。


レミィとジェイは店を出て二人は警備隊の本部に向かった。


***


一方、ティアとエメラルドの女の子二人はあまいバニラの香りが漂う可愛らしい店にいた。


「はあーい、おまたせ、キティちゃん」


有名なアイスクリームの専門店。若い女の子達が楽しそうにお喋りしながらアイスクリームを食べている。

クリーム色のテーブルと椅子。ハートの形をしたいすの背もたれ。空気が華やかである。


エメラルドは一見、少々たれ目で優男風の男性的な容貌で背が高い、女の子の視線を集めるくらいには顔が整っていた。

周りを気にしない性格で少し声が大きい。口調が女性なので、会話が聞こえると、視線が別の意味でも集まる。

この場にレミィがいたなら、少し声を抑えろとエメラルドに注意したかもしれないが、生憎別行動をしている。

ティアはエメラルドが好きなので、エメラルドがすることが変とか嫌だとか思わない。

そして、何より初めて食べるアイスクリームに夢中だった。


「おいしい?」


「おいしいのう、おいしいのう」


優しく双眸を細めてエメラルドはティアを見つめている。

ティアは何度も頷き、おじいちゃんになりきっていた。


「あら、エメラルドじゃない!」


ゴリラの声。いや、野太い男の声。顔をあげると赤い派手な露出度が高い服を着たガタイのよい筋肉質な心は女の子、の男が立っていた。

もし、ここにレミィがいたら、眉間に皺を寄せている。


「パトリシア奇遇ね、今日はお休みなの?」


「そうよ、やっと休みなの。その方はどなた?」


パトリシアとティアの目が合う。何故か、パーティ用の面白眼鏡をしているのが気になる様子だ。


「キティちゃんよ、私のおじいちゃんなの」


にっこりとエメラルドは頬笑み、ティアを抱き寄せて頬をすりつける。仲良しであることをパトリシアに見せ付けたいらしい。


「おじいちゃん、です、じゃ」


「可愛いおじいちゃんね、おいくつ?」


「えーと、……90さいだったかのう」


「お元気ね。お髭もつやつやで、秘訣はなに?」


心が女の子の男性とおじいちゃんになりきってきる猫の女の子の会話がのんびりと暫く続いた。

全くティアを怪しいと思っていない。

エメラルドといると簡単に事が進む。

エメラルドのあっけらかん、とした性格となにより、本当の名前の通り『強運』の持ち主だった。


アイスクリームを堪能してパトリシアと別れてアイスクリーム屋を出た。


エメラルドとティアが手を繋いで歩いていたら、何やらバニラのアイスとは違う、美味しそうな匂いがした。

どうやら魚を焼いている屋台があるらしい。


とてもいい匂いでティアの口の中が涎でいっぱいになり喉を鳴らして唾を飲み込んだ。ティアにとっては魚は別腹だ。


「あ、ちょっと、キティちゃん? どこにいくの?」


ティアはエメラルドの手を離すと焼魚の香ばしい匂いがする方向に走り出した。

ティアは自ら、強運の持ち主であるエメラルドの手を離してしまったのである。


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