深淵
ママンは言った。「あんたこれ、胡蝶の夢みたいやね」
一理ある。
最初の私は“全て”を持っていた。色とりどりの宝物を両腕いっぱいに抱え、明日は必ず、変わらずに来るものだと信じて日々を過ごしていた。
次の私は何かに躓き、転んだ拍子に“全て”を落としてしまった。必死になってかき集めたそれは、なんだかよく分からない形の“仮面”になっていた。
次の私は“仮面”を被った。何もしないでいる事がとても息苦しくて、眩しくて、昏く思えたからだ。
“仮面”を被った今は、その限りではなかった。
次の私は“鏡”を見付けた。そこには“仮面”を被った、酷く不恰好の、曖昧然とした私が写っていた。
そのままじっと“鏡”に写る私を見ていたら、不思議な事に“両脚”がなくなっていた。
何故だか悲しかった。
次の私は“両目”を瞑った。そんな私を見たくなかったからだ。
目蓋を下ろして、これで何も見えなくなると思っていたら、そこには暗闇をふわふわと漂う“全て”があった。
慌てて飛び付いてみるも、“鏡”に激突しただけだった。
私は諦めきれずに諦めて、既に二肢となった身体を“地面”に横たえた。
“鏡”は割れて“道”になった。
次の私は慄いた。三体投地していた“地面”が、ゆっくりと崩れだしたからだ。これはいけないと思い、急ぎ“道”へと進み始めた。
必死で這って行った先には、たくさんの“輝き”があった。
最後の私は色とりどりに煌めく沢山の“輝き”を見ていた。いつ間にだか“仮面”は顔と同化して溶け消え、その顔も気付いたら失くなっていた。
もはや“両目”のみの存在となった私は、何処か薄暗い日陰のような場所から、決して手の届かない綺麗なそれらを、羨むでもなく妬むでもなく、ただただ見つめていた。
Q1.漢数字の合計数→
Q2.“全て”の合計数→
Q3.身体の部位名の合計数→