8話 牛の解体頑張りますっ!
どうも、おはようございます。
主人公ちゃんさんだ!
今日は『牛の解体』をしようと思う。
全部をそのまま捨てたんじゃあもったいないからな。
食べられる分は肉にするんだ。
食物への感謝もあるしな。
あ、ちなみに今回澪はお休みだ。
普通の人間の澪じゃあ屠殺の役には立たないからな。
それに、あまり澪には見せたくないような光景が広がるだろうし……
まあ、適材適所というやつだ。澪には洗濯を頑張ってもらおう。
一週間分をためたから中々に大変だろう。
◇◇◇
さて、どうやって屠ることにしようか……?
家畜のためにも、私のためにもあまり苦しめずに屠るようにしないといけないしな。
今の私の服装は汚れてもいいようにと下着だけを身につけた軽量二脚スタイルだから、牛に暴れられでもしたらさすがの私でもかすり傷の一つは負うかもしれん。
そんなことになったら澪に怒られてしまう。
「綺麗な肌なんだから大事にしなきゃダメだよ!」ってな。
……まあ実際、澪につけられた痕の方が肌に悪い気がするんだけどな……
まだ首のところとか赤いしな。
うん。脱線したな。
とりあえず、いつものように脳幹破壊でいいか。
アイスピック
頑丈なロープ
重り
業物ナイフ
水
脚立
今回用意した道具はこれだ。
牛はすでに牛舎から出し、トラック二台と柵で囲われた広場に出してある。
手を合わせる。
……さて粛々と始めようか。
まずはアイスピックで背後から脳幹を貫く。
その時点で牛は力を失い崩れ落ちた。
「よっと……」
地面に投げ出された肢体にロープをかけ、トラック二台の間に渡した鉄骨に吊るし上げる。
そして、業物ナイフで牛の頸動脈を掻き切った。
ぴちゃりぴちゃりと音を立てて赤い水溜りができていく。
やがでその拡大が終わった頃。頭が下になっていた状態から、頭が上になるように吊るし直す。
そして、喉から肛門まで浅くナイフを入れていく。
ここから先は内臓を傷つけないように丁寧に、慎重にやるんだぞ!
食道と気管を切り離し、繋がっている内臓をーー肺、心臓、横隔膜、その他内臓をを引きずり出していく。
あ、肛門のまわりは肉ごと取り去れよ?
大腸菌とか、寄生虫とかがついてるかもしれないからな。
それと、反芻する動物は食道に食べ物が上がってきていることがあるから、食道はできるだけ頭蓋骨に近い位置で切ること!
で、内臓を出し終わったら次は皮を剥ぐぞ。
……水洗いを忘れてた。みんなはちゃんとやるように。
洗い終わったらいよいよ皮剥ぎだ。
まず、首、そして四肢の皮膚をぐるっと一周回し切る。
次に、今切ったところから、開けられた腹へと直線的にナイフを入れる。
そして、皮を指でもって下へと剥いでいくんだ。
ふっふっふ、そしてここで吊るす向きを変えたことの意味がでてくる。
後ろ足を上に吊るすとーー凄く剝ぎづらい!
でも、頭が上ならするっと剥けるんだ。
ちなみに、この皮は後でなめして使います。
無駄にするところはないのだ!
……内臓は怖いから食べないけど。
あっ、肉が皮にちょっとついた⁉︎
うへぇ、なめす時に面倒が……
面倒だけど後悔はしない!
というわけで、次は頭を外します。
首の骨にナイフを突き立てて、手首を返すようにくるりと回せば簡単に外せるんだ。
頭は……そうだな。頰肉とタンだけ取って、残りは埋めようか。
脳みそを食べる人もいるみたいだが、私は遠慮したいな。
異常プリオンが発生しても困るし……
まあ、頭は後で埋めるとしてと……次は脚を外すかな。
前足は肉の継ぎ目? みたいな部分があるから、そこにナイフを突き立てていけば外せる。
後ろ足は動かしてみながらゆっくり切っていくんだな。
後ろ足は少々複雑だからな。でもまあ、何頭か捌けば慣れるさ。
で、最後に残った胴体から肉を外していくぞ!
……とまあここで問題が生じるわけだ。
私、牛の解体なんてやったことない!
いや、鹿ならね、あるんだけどね。牛はちょっと……
だから、まあ。はっきり言ってわからんのですよ。牛の肉の部位とか!
鹿だったら『背ロース』取ってーとか、わかるんだけど……
よしっ! とりあえず鹿と同じようにやっていくか。
ダメだったらその時は誰か教えてください。お願いします……
はい。じゃあ背骨に沿ってついてる『背ロース』を取るぞ。
それが取れたら、胴の内側についてる――『ヒレ肉』。あばら周りの――『バラ肉』。
……忘れてたんだけど、『ヒレ肉』って痛みやすいから、水を使う前に取るべきだった。
まあ今日ならまだいける。多分……
うん。まあ当たったら当たったでいいや。
脚の骨外しまーす。
中心にある骨は、こう押し出すよにすると肉を綺麗なままに保てるぞ!
肩甲骨? それは慣れ。
で、全部の肉の筋とか膜とかを取って作業終了!
取れた肉は冷凍車に打ち込みます。
お疲れ様でした!
◇◇◇
「あー疲れたー……」
「お疲れ様です。お風呂、沸いてますよ」
「ああ、ありがとう。でも、私が先でいいのか?」
「ええ、大丈夫です。というか自分で浸かる用と洗う用で二つドラム缶を用意してたじゃないですか。それに私もすぐに行きますし」
そういえばそうだった。
久し振りの解体に集中してすっかり忘れてたぜ……
澪と別れた私は着替えをもって風呂場へと向かった。
下着しか着ていなかったので、脱ぐのは速い。
外気に晒された肌が少し震える。
さすがに山の上の夕方は寒いな。
桶ですくったお湯を体にかければ、赤く血で穢れた私の肌がその白さを取り戻していく。
「血が穢れか……」
血が穢れ。屠殺は悪しき事。
それもこれも死というものを日常から切り離してしまった弊害なのだろう……
人は日常で目にしないものを異常だとみなす。
かつては家庭で家畜を飼い。家庭で肉にしていた。
そんなパラダイムの下では強い憐憫を抱くものは少なかっただろう。
屠殺場の実情を知れば菜食主義者になる?
そんなのは嘘だ。
もしそうなら初めから人は肉なんて食らっちゃあいない。
人はエゴイストだ。
だがこれは家畜を食らうことを言っているわけではない。
家畜を食らうことをエゴだと思っていることがエゴだ。
自分の日常にはない事をーー非日常を行っている者に対して。異常だ! 辞めろ! と。
これをエゴと言わずになんと言おうか……
人はいつもそうだ。
自分たちと違ければすぐに排除する。
私の時だって――
「ひゃんっ――⁉︎」
私の胸にひやりとした感触。
私のまな板ではないだけの胸が後ろから揉まれた。
「――っ⁉︎ 何をするんだ澪!」
「なんだか難しい顔をしてましたからね。リラックスですよ。リラックス」
「……全く。ほら、このまま裸でつったてちゃあ冷えてしまう。さっさと入るぞ」
「はい」
それにしても、何を考えてたんだっけか? 次回の予定?
ぬぅ……思い出せん……
まあ、とりあえず次回は今日の肉の加工だ。干し肉作りをしよう。
鹿は手伝ったことあるんですけど、牛は法律的にアレですからないんですよねー。