7話 ドラム缶風呂作り頑張りますっ!
「あー疲れた……澪ー! 戻ったぞー」
運転で凝った身体をほぐしながら澪の下へ歩いていく。
具体的には手を組んで上にぐって伸ばすやつだ。
わたし の びしょうじょ ポイント が あがった。
「あ、おかえりなさい。家畜の世話は全部終わってますよ」
「ん、ご苦労だったな。こっちも首尾は上々だ。目的のフェンスとドラム缶、手に入れてきたぞ」
「じゃあ、早く設置しないとですね」
「ああ、だがまずは風呂だ! 風呂を作るぞ」
「いいですね! 私もお風呂が恋しくなってきたところだったんですよ」
私も澪も日光に来てからは一度も風呂に入っていない。
……安心しろ。近くの川で水浴びはしてる。
森の中の小川できゃっきゃうふふする美少女たち……うん。実に絵になるだろ?
それにしても慣れって怖いよな。
最初のうちは外で裸になるのを渋っていた澪だったけど、最近じゃあもう何も言わないで脱ぐからな。
いろいろ吹っ切れたっぽい。
喋り方も砕けてるし。
「じゃあ早速作っていくか」
「おー!」
右手を振り上げる澪。かわいい。
これはメイド服を着せるよりも甘ロリとかにした方がいいのか……? いや、でも……背高いし……
あ、別に高くありませんでしたね。私が低いだけでした! あははっ! ……笑えよ。
◇◇◇
300Lドラム缶
竃用耐火ブロック
脚立
これが私の盗ってきた風呂の材料だ。
「そう、今回はドラム缶風呂を作ろうと思う」
「なるほど、アウトドアですね」
「うむ。それではまず水を汲みに行くぞ」
「じゃあその間に私は薪を集めてきますね」
「ああ、頼んだ」
こうして、澪は山へ柴刈に、私は川へ水汲みに向かいましたとさ。
ドラム缶を片手で持ちながら歩くこと10分ーー小川が見えてきた。
私が運んだ岩で流れを変えたので、今は澪の膝丈くらいの水溜りが出来ている。
ここで二人してきゃっきゃうふふしているんだ。
名前のわからないアレ筆頭ーー『灯油を入れるときにしゅこしゅこするやつ』を使ってドラム缶に水を入れていく。
ちなみにアレは『石油燃焼機器用注油ポンプ』とかいうらしいぞ?
他には……あれだな。グレーチングとかグレイビーボートとかも名前わからないアレ代表だよな。
それで、水が溜まったのはいいんだが、帰るときのことを考えていなかったな……
重さ的には問題はないんだ。
300Kgくらい軽く持てるから。
でもさ、バランスとるのは難しいわけよ。
だから前に抱えて持って帰る必要があるわけで……水を溜めてる間に拾った薪が無駄になったわ! 時間返せ!
……もっとよく考えろってよく言われます。
そんなこんなで要領悪く水を汲んできた私を待っていたのはさらなる絶望だった……
「いつも思うんですが、人間辞めてますよね……」
苦笑いで迎えてくれる澪の足元には集められた薪がある。
その薪は焚き火を組みやすいように太さごとに分けられていた。
「うん……準備がいいな」
「はい。私、できる従者を目指してるので」
「……うん。頑張ってな……」
「ど、どうしたの? 元気がないみたいだけど?」
「ふっ……どうせ私なんか要領の悪い愚図女ですよ……」
「そんなことないと思いますよ? ドラム缶に水を汲んでこれるなんてすごいじゃないですか」
拗ねた私の頭を撫でながら澪は続ける。
「それに、いいじゃないですか。細かな気配りを私がやって、大きな仕事を貴女がする。二人で一緒に生きていきましょう?」
「……そうだな。それもそうだな! 重いものを運んだりできるのは私だけだもんな」
……私のアイデンティティはここにあったんだ!
確かに代替不能性はあるけどなんか悲しい……
……とりあえず早く風呂だ。風呂に入れば気分も晴れる。
ローマは偉大なのだ! うっ……頭痛が。
てか、私の精神が不安定っていうのは今更だよな。
モノローグで騒ぎ過ぎで、まるで思考のQBだし。
ぴょんぴょんするんだよ!
「よしっ! じゃあ気を取り直して、『ドラム缶風呂作り』始めようっ!」
「おーっ!」
まずは竃用耐火ブロックをローマ数字のIIIのように置く。
で、そこにまずは捻った新聞紙に水を含ませて、固く絞ってモノを入れる。
新聞紙っていうのは、そのままであったり、丸めただけではすぐに燃えてしまって薪にはならないが、捻って巻けば立派な薪になるんだぜ? インフラが止まった時なんかに使えるな。
そして着火!
新聞紙の薪の炎が大きくなってきたら、段々と太い薪へと差し替えていく。
太い薪にまで燃え移れば、安定して強い火力を得られる。
「っと、こんなもんか」
上にドラム缶を乗せてっと……
さて、湯が沸くまでの間にすのこを作ろうか。
そのまま入ったらあっつくて火傷してしまうからな。
まずはドラム缶に収まるくらいの枝を4本。
それを四角形を作るように組み上げる。
まずは縦の一辺に|巻き結びで結ぶ。
やり方は簡単だ。
ロープが8の字を描くように巻きつけるだけだ。
ロープのはじめと終わりを固定する時に使う結びだから、覚えておいて損はないぜ? よく使うし。
それが終わったら、今度は角縛りで四角形を組んでいくぞ。
巻き結びをした上に固定したい枝を乗せる。
それで、その十字を人に見立てた時、脇を通って、首の後ろ、背中を通るように巻いていく。
数回巻いたら枝と枝との間に中割りを入れてっと……
また最後に巻き結びをすれば出来上がりだ。
じゃあ次。
四角形の枠ができても中がスカスカじゃあ、足場じゃない。
てなわけで、中をうめていくぞ。
もちろん巻き始めは巻き結びで固定だ。
そして、互い違いに交差させて縛っていくだけ。簡単だと思っただろ?
残念、かなりの力を入れて縛らないとすぐに抜けちまうから実際やると大変だぜ?
ま、私には関係ないが。
出来上がったすのこをドラム缶の突っ込む。
ついでに湯の中に手を入れてみれば、ちょうどいい湯加減。
あ、もちろん混ぜてるからな?
上の方がちょうどいい湯加減で下はあっつあつなんてヘマはさすがの私でもしないさ。
それに澪もいるしな。
竃の片側から薪を出してっと……
「出来た!」
「おおっ、すごいですね! まさしくアウトドアって感じです」
「ふふん、そうだろう。そうだろう。それじゃあ入ろうじゃないか。私は石鹸を取ってくるから澪が先入っていいぞ」
「でも、苦労したのは貴女なんだから、一番風呂を……」
「いいからいいから」
私の強い押しに負けて、渋々ながら服を脱いでいく澪。
背後からするしゅるしゅるといった衣擦れの音。実に心惹かれるが今は我慢だ。
ちゃぽんと音が聞こえた。入ったみたいだな。
ふふっ、計画通り……早く戻ってこないとな。
私は急いで駐車場に置いてあるコンテナの一つから『天然粉石鹸』を取って、ドラム缶風呂のところまで戻ってきた。
澪はまだ風呂に入っていた。
まあ、当たり前か。まだ5分も経ってない。
私も服を脱いでっと……
「え、ちょっと!?」
「んむ……いくら私が小さいとはいえ、さすがに狭いな……」
ただでさえ狭いドラム缶に少女が二人。
それはもう、肌色同士くっつくしかないわけで……
「あっあたっ当たって――」
「何を今更……狭いんだから暴れるんじゃない」
ほふうと一息。
夕暮れに焼かれゆく空に溶けていく。
澪の顔を見れば、空と同じように茜に染まっていた。
「綺麗だな……」
「ええ、そうですね綺麗ですね……」
「ああ、澪は綺麗だ……」
「ええ……て、えっ!?」
先ほどよりも一層顔が赤くなっていくのが見える。
抱き合うように体を寄せあっているからか、澪の体温が上がったことすら感じられそうだった。
「そんなこと言って……困ります」
そう言って照れ隠しのように身をよじる澪。
そうするとほら、今は抱き合って澪の太ももにまたがるような体勢なわけで……
「ーーんあっ!?」
「ごめんなさい!?」
「悪気があったわけじゃーー」
「問答無用! 誘ったのはそっちだからな!」
このあと滅茶苦茶にゃんにゃんした。
……嘘です。くすぐっただけです。
ま、まあ? くすぐりも愛撫ではあるわけだし? ちきんではないというか? ……はい、ちきんですよね。見栄はってごめんなさい……
巻き結び、角縛りは便利ですよ。