6話 プロローグ終了頑張りますっ!
「んむ……」
ねぼけた眼を擦る。
採光のための窓からは朝の柔らかな日差しがさんさんと降り注ぎ、室内を仄暗く照らしていた。
(そういえば、日光に来たんだったか……)
思い返せば昨日は長い一日だった。
隣のおばさんを壊して、武器を手に入れ、仲間を得た。
視線をずらせば無防備な格好で寝ている澪の姿。
ブラウスはボタンが多めに外され、裾が捲れあがっているためお腹が見えている。
(暗い部屋の中で白い肌のチラリズム……)
私? 私はもちろん下着だけですが何か?
や、服を着て寝ても起きた時には脱いでるんだから仕方ないじゃないか。
でも、不思議なことにほぼ裸の私より着ているが見えている澪の方が淫靡なんだよな。
隠すと怪しくなるっていう人間の心理なのかね。
「おはよう」
そう言って、顔にかかった髪を手で払ってやった。「……んん」と身動ぎする様はいじらしく、可愛らしい。
「安心しろ。お前のことは私が守ってやる」
風邪をひくといけないからタオルケットをかけてあげて、と。
さて、私は朝の仕事に出かけるとしようか。
外に出ると、しっとりとした空気が私の身体を包んだ。
すでに霧が出ているが、今日は晴れだ。
日が高くなれば自然と晴れることだろう。
いい天気だ。
自然と足が軽くなる。
朝のゆったりとした空気の中、童女のような私が童女のようにかける。
自分で言ってて哀しくなってきた……やめよう。
駐車場を抜け、原っぱまで来た。
そこで私は、ゆっくりとした動きで演舞を舞う。
先に言っておくが、私にはどこぞのラノベの主人公のような、若くして武術の達人だ! とか、料理はプロ級! だとかいう設定はない。
私がやっているのは、本で読んだり、動画を見たりで得た武術の知識を自分なりにつなぎ合わせてみただけのものだ。だから実は武術ではない。
有効なものではないかもしれないが、それはそれ、これはこれだ。
一通り演舞を終えると、凝り固まった身体もいい感じにほぐれてきた。
「んっ、と――」
最後に伸びを一つして朝の支度は終わりだ。
「さーて、今日も一日お仕事頑張りますか」
◇◇◇
まずは牛舎の掃き掃除。
竹箒でもって通路を綺麗に掃いていく。
長い牛舎だからこれだけでも大変だ。
それが終われば、今度はベッドのフンをかきだして、ローダーで一気に押し出す。
バンクリーナーがあるのに使えない歯痒さ……辛い。
まあ、ないものねだりをしても仕方ない。
だから、オープニングの時のとある企業の産業廃棄物ののことは忘れるんだ。弱くたっていいじゃない。浪漫を求めてハンデを背負おう!
ほら、とっつきとか。次元とっつき? やめろ。あれはただの暴力だ。
汚れた寝藁を取り去って、綺麗な藁を入れる。
昨日のうちに選別した屠る牛の藁は変えずに、残す牛のだけを取り替える。
それが終われば配合飼料を牛に与える作業が待っている。
餌を与えていると、牛舎に人の入ってくる気配が。
「おはよう。いい朝だな」
「そうね。でも、ごめんなさい。寝坊してしまいました……」
「なに、気にするな。昨日は長い一日だったから疲れていたんだろ」
「それは貴女も同じゃないですか。手伝います。何をすれば?」
「んー、掃除と藁替え、餌やりは終わったからまた乳搾りかな」
「はい。わかりました」
「じゃあ頼む。それが終わったら自由にしてていいぞ。私は何頭か屠って捨ててくるついでに色々下から盗ってこようと思う」
「わかりました。それでは気をつけて下さい」
「うい……てか、その他人行儀な喋り方やめてくれよ……壁があるようで辛い」
「……善処します」
「昨日の夜くらいでもいいんだぜ?」
「――! わ、忘れてください」
「あ、あと羊と山羊と兎の世話もヨロシクな!」
澪は酒が入ると饒舌になる。とだけ言っておこう。
さ、私は牛を〆に行こうか。
◇◇◇
「あー……これは精神的にくるなー……」
私の足元には赤い水溜りが。
アイスピックを使って延髄で一撃で破壊しているわけだが、うん……死人をぶっ壊すのとはわけが違うな……
やはりこれがいのちってことか……人類種の天敵はどんな気持ちだったんだろうなぁ……
「よっと」
大体800kgの成体の雌牛を担いでトラックの荷台に積み込んでいく。
これくらいなら私にとっては軽いもんだぜ。
人間の体の強度限界を軽く超えてるって? ……気にしたら負けなんだよ。
「とりあえずこれくらいでいいか」
積載量を少し超えるくらいーー重量過多の状態だ。機動力がだだ下がりになることはないのが救いか。
入手目標は服。そして、釣り具だな。
牧場の近くに川があったからな。釣りをしよう。
動物性蛋白質の入手は大事。
哺乳類、鳥類もいいが、魚も食わないとな。
「澪ー! 私、行ってくるからなー」
私の呼びかけに対して、牛舎の窓から手を振ってくれる澪。
くふ、なんだか新婚みたいじゃないか?
私はもうお腹いっぱいだぜ。
とまあ、最初の三日間は毎日こんな感じで過ごしたわけだ。
ご飯は保存食で済ませ、家畜の世話と山を降りての物資の補給。
問題だった多過ぎる牛も随分と数を減らし、私たちだけで飼える数になった。
代償として私の正気度も大きく減ったがな。
これからは牛にかける時間も減ったから開拓に手をつけられる。
とりあえず、今日は夜に向けて風呂を作ろうと思う。
今日まで私も澪も風呂に入ってはいない。濡らした布で身体を拭いていただけだ。
流石にそろそろ気持ち悪いからな。
「さ、今日も農家目指して開拓だ!」