4話 燃料調達がんばりますっ!
乗る前から給油ランプがついていたとはいえ、もう少し走れると思ったんだ。なのにもう止まるなんて……
「おぃ、まじかよ、夢ならっ――と、これはいけない」
危ないところだった……
覚め、まで口に出していたら死んでいたぜ……
乙種一級フラグ建築士舐めんな。
というわけで現在私は快適気ままなドライブ中――ではなく、ホームセンターでの買い物帰りだ。
買ったものは携行缶と両方が蛇腹になっているホース。
てか、ちょうど良く抜ける車あるかなぁ……
最近のは防犯用のネットが入ってたり、ドレンボルトがついてなかったりするんだろ?
最悪、ガソリンスタンドまで歩くしかないか……
「はぁ……」
ああ、幸せが逃げていく……
……うん。この状況でこのフレーズって割と洒落にならんよな。私ってばほら、乙種一級フラグ建築士だし。
「ガァ――!」
ほらね、やっぱりこれだよ。
停められていた車の陰から一体の死人が飛び出してきた。
すぐさまカートを押しのけ、抜刀――!
そして、見事に切断され、胴と別れて転がった首を蹴飛ばした。斬り払うように刀を振るう。
その動作で刀に付着していた血液が飛び、周囲の車を汚した。
「ふぅ……」
いやー刀っていいよな。セーラー服に日本刀とかすごい浪漫にあふれるし。
美少女とセーラー服。最高の組み合わせ。
あ、刀関係ないですねすみません。
即席の槍は浪漫に敗れたのだ。
浪漫は大事。だから私もブレオンとかやっちゃうの。
両手月光最高! あれ……? ENが……
ん、この刀? これはさっき、そこの質屋によって取ってきたんだ。
万引き? 窃盗? 残念、死人倒して強盗でした。
死人の着ている服で刀を拭う。
この死人が着ていたのはホームセンターの隣のスーパーの制服だった。
そこで、ふとスーパーの方をみると入り口の自動ドアが割れているのが目に入った。
「まあついでだ。ジャーキーでも取ってくるか……」
ガラスには大量の血液が付着していた。
枠に残っている方も、割れた破片にもだ。
多分圧力で押し割ったのだろうな。
血液の量からいって死人が割ったっぽい。
巣窟になっていてもいいように装備確認だ。
現在私はフル装備。
口に懐中電灯を咥え、左手には信頼のM。そして右手には日本刀。
うん、完全な中近距離アセンだな。どうしよう、炉心侵入阻止できないわ。36砂欲しぃ……
店の中に入って耳をすます。
聞こえてくるのはかすかな動作音。
ガラスを踏み割る音や、ビニールの擦れる音。
まずはレジの前を歩き、棚の間を確認していく。
これで見つかったのは三体の死人。
とりあえず走って近寄って、日本刀で斬り殺す。すでに死んでるから、破壊した?
一番奥のバックヤードの扉の前に四体の死人が群がっていた。
私はそこに何気なく近づき、発砲する。
急な攻撃に身構えることすらできずに吹き飛ぶ死人。まあ、身構えたからどうなるものでもないけどな。
ふむ。でも気になるな。なんで死人はここに入ろうとしてたんだ? 奥に何があるのか? てか、なんで入れなかったんだ。
好奇心は猫をも殺すというが、見なきゃ始まらないしな。
怖くても開ける。これ鉄則。
フラグだって? 乙種一級フラグ建築士を舐めるなっ!
ぐいっと力を入れて扉を押してみるも、開く気配はない。
私の馬鹿力で開かないとなると相当だな。
あ、言っていなかったが私の身体的スペックは常人のそれをはるかに超えている。
リンゴを素手で砕けるし、軽自動車くらいならひっくり返せるんじゃないか?
こんな体じゃなけりゃ片手でショットガンなんて撃てんよ。
おばさん相手に苦戦してったって? 腰が抜けてたんだよ。
それにしても、どうしたもんかね。
私が押しても開かないとなると、どうしたらいいのか……車で突っ込むか?
ほら、力はあっても私ってば軽いから。
花も恥じらう乙女な私は軽いんだ。それはもう風が吹けば飛ぶ感じに。
おい、尻軽って言ったやつ。叩き切ってやるからちょっと来い。
殴ってみると金属のきしむ音が。
鉄パイプか何かで塞がれているようだった。
なら、開けられるな。
輝く月光の煌めき、ドミナントソード。あ、この日本刀の名前な。今名付けた。
さあ、ドミナントソードが光を噴くぜ!
「とーうっ――!」
日本刀を扉と扉の間とを切り裂くように振り下ろす。
ガイィン、と金属に当たった感触がした後、カランコロンと金属が落ちる音がした。
うまくいったみたいだ。代償は大きかったけど……
右手を見れば中程で折れた刀が目に入る。
さらば、ドミナント……キミのことは忘れないぜ!
扉を押せば今度はすんなりと開いた。
中は暗い。窓はあるが、方向が悪いため今はあまり光が入っていない。
懐中電灯で室内を照らすと、ひっ――! というような短い悲鳴が聞こえた。
その音のした方に懐中電灯を向けると、スーパーの制服を着た女の子が一人いた。
「お前、人間か……?」
声に反応して大きく身体を震わせた彼女。
うん。これはないわ。こんなんじゃ死人の上位種みたいじゃないか。
どんな作品にもいるよね。雑兵と違って喋れる敵。
どうしよう……
「とりあえず、ジャーキー食うか?」
◇◇◇
あの後、私がいかに無害な小動物的童女かってことを説明したわけだ。
一生懸命身振り手振りも交えてやったわけだが、笑われた。解せぬ……
そんなこんなで辛気臭いスーパーから外に出て、今は爽やかな空の下。
「へえー、大学生なのか」
「はい。あのスーパーにはバイトで……」
私が助けた? 女の子の名前は水谷澪と言って、十八歳の大学生だそうだ。
なんでも、出勤して開店前の準備をしていたら突然同僚が襲ってきたらしい。
それで必死にあそこに逃げ込んだとか。
困惑して半泣きになりながら逃げ惑う女の子……いいかも……
「それにしても、助けていただきありがとうございました。あのまま誰も来なかったらどうなっていたことか……」
「うん? そりゃ餓死だろ? お前が戦えるとは思えないしな」
「そ、そんなはっきりと言いますか⁉︎ もう少し歯に衣を着せてもいいんですよ!」
「なぁ、お前はこれからどうするんだ?」
「無視ですか……」
「あてがないなら一緒に来るか?」
「え、いいんですか?」
「ああ、構わんぞ。幸い助手席は空いてるからな」
ちょっと話しただけだけど、人格的に問題ないだろ。ネコっぽいし。
あ、当初の目的のガソリンはすぐに手に入った。
古い軽トラがあってそれから楽に取れたんだ。運がいいなぁ私。日頃の行いのせいかな?
女の子も増えたし、先々がいいんじゃないか? とりあえずぼっち卒業おめでとう!
わかる人にはわかる。