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私、アイドル目指して頑張りますっ!  作者: 笹井結奈
アイドル下積み時代
2/21

2話 初対決頑張りますっ!

 ドアを少し開けたところで、ぐいと外からの強い力がかかった。


「きゃっ――」


 とっさに出た私の可愛らしい悲鳴を上書きするように鎖の伸びきった音がなる。

 そして、その隙間から現れたモノに私はまた悲鳴をあげた。


「ぎゃぁぁぁぁ――!」


 ……訂正。私に可愛らしい悲鳴なんてなかったようだ。


 て、そんな場合じゃない! 何だアレは⁉︎

 ドアの向こう側にいたのは人間だった。それもお隣のおばさん。

 その人が指先を真っ赤にして、目を血走らさせて立っていた。


 その尋常じゃない様子に私は慌ててドアを閉めようとするが、おばさんがドアを握り、開こうとしてくるため閉められない。


「んぎぎ――」


 またも乙女らしからぬ声をあげて、全体重を後ろにかける。

 一瞬だけ引かれる力が弱くなった気がした後、私は玄関に尻餅をついた。


 ガチャン――!


 大きな音とともに扉が閉まる。

 そして直後にぽとぽと、と何かが落ちる音がした。

 視線を下げて見てみれば、八匹の芋虫がそこには落ちていた。

 赤色をしたそれはしかし動くことはなく、地に這いつくばっている。


 バン、バン、バン――


 ドアを叩く音が玄関に反響する。


(うん。頭が冴えた。私が寝てる間に何かあったのは確かみたいだ)


 震えはもうない。

 私は立ち上がりお尻を(はた)いて汚れを落とすと、洋間に向かった。

 等間隔で聞こえる打撃音に顔を顰めながらもあるものを探す。


 ごそごそと押入れを漁ること数十秒。ついに目的のものを見つけた。

 ついでにバスタオルを一枚持って再び玄関に。


 まだドアを叩き続ける彼女に合掌をして、チェーンロックを外す。


「はぁ、ふぅー……」


 深呼吸をひとつ。

 気を落ち着けて準備は完了。


 ドアノブに手をかけて、捻ると同時に足を使って蹴り開けた。


 重い衝撃。


 思ったよりおばさんは重かった。

 いや、そんなことより。まずは始末が先だ。

 吹き飛ばされ、倒れたおばさんの元に駆け寄り、タオルを被せる。

 そのまま胴の上に馬乗りになり、漁ってきたそれを握った腕を振り上げる。


「ふっ――!」


 大腰筋を意識するための呼吸と共に振り下ろす。

 一瞬の硬い抵抗の後は柔らかいものをぐずぐずと崩す感覚で、根元までしっかりと刺してから手を離した。


 指のなくなったおばさんの頭部に刺さったそれは千枚通し。

 アルミ製の大振りのものだ。


 おばさんは体を一度びくんと跳ねさせた後、大人しくなった。

 しっかり活動停止させられたようだ。

 千枚通しを抜いて立ち上がる。

 首を回して周囲を見回し、他の個体がいないことを確認してから私は家に戻った。


 まずは洗面所に駆け込み、汚れてしまった千枚通しの汚れを洗い落とす。

 細菌の類だった場合、血液などに触れて感染するかもしれないので、しっかりとゴム手袋をして洗う。


(千切った指もそうだが、串刺しにした頭からも出血が少なかったな。心臓は恐らく止まっている。やっぱり死人(ゾンビ)か何かなのか?)


 ベルトを取ってきて、洗い終えた千枚通しを腰に差した。

 冷凍庫から適当な冷凍食品を取り出して、腹に詰め込んだ。

 どれもこれも溶けかけの不味いものだったが、今は気にしない。

 腹が満たされて栄養になればそれで構わない。

 できるだけ早く拠点を移動したい。人が少なくて、自然が豊かなところがいいな。


(さて、これからどうするか……行き先の候補としては那須か日光だな。んー……日光の方が哺乳類が多そうだし、そっちにするか)


 おっと、家族への置手紙を忘れちゃいけないな。

 もうすでに人じゃないかもしれないが、万が一ってこともある。そんときに私の無事くらいは知らせたいしな。


 そうとなれば早速準備だ。

 紙は……ダメだな。すぐに傷んでしまう。

 机に直接掘るか。


 筆箱から肥後の名刀を取り出して机に文字を刻む。


「我は日光ににて待つ、っとこれでいいかな?」


 うむ、達筆。満足のいく出来だ。

 一応プラモデル用のつや消しスプレーもかけておいたから、しばらくはもつだろ。


 ……さて、それじゃあ引越しの準備でもしますか。


◇◇◇


 まずは入れ物。大きなリュックサックを押入れから取り出した。


 水や缶詰、ファーストエイド・キットといったものをまず詰める。

 とりあえず今はこれだけでいいだろう。


 あとは武器になるものだな。

 千枚通しだけじゃ心もとない。


 お、モップがあるじゃないか。

 これならいいものが作れるな。


 先端の毛の付いている部分をのこぎりで切り落とし、棒の先端を平らに削る。

 さらにキッチンから取ってきた包丁も同じように削り、釘を打ち付けた。

 最後にそこに塩ビテープをぐるぐる巻きにして、ガムテープをまけば完成だ。


 出来上がったのは即席の槍。

 うむ。満足のいく出来だ。

 これならあれくらいの死人なんて怖くないし、無力化なんてお茶の子さいさいよ! あ、かませフラグじゃないです。


 最後に着替えて準備は完了だ。

 今度の私のコーディネート? 完璧だ。隙はないぜ?


 今の私の服装は冬服の制服だ。

 ブレザーではなくセーラー服。私のはスカートを長く改造してあるが、その他は既成のままだ。

 足元は長い編み上げブーツ。もちろん踵はない。

 そんなものは激しい動きには合わないからな。


 よし。服装チェック終わり!

 じゃあ行こう。

 玄関で車の鍵を掴み取り、外へ出る。

 小走りに車へ向かい、急いで乗る。


 ウチの車は言わずと知れたターボ付きのアカエイちゃんだ。勿論色も赤い。

 鍵を差し込み捻る。

 重低音と低い振動が車の中を満たし、レブカウンターが上昇していく。


 冷房も効いてきた。

 エンジンの回転も十分。

 忘れ物はないな? 青春? んなものは小学校の夏休みに置いてきた。


 アクセルを踏んでまず目指すのは隣町にある鉄砲火薬店。


「いざ、参る……!」


 ……給油ランプついてるじゃん。全く、しっかりしてくれよ、母さん…………

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