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私、アイドル目指して頑張りますっ!  作者: 笹井結奈
アイドル下積み時代
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1話 状況把握頑張りますっ!

今は八月。うだるような暑さとセミの大合唱がとてもうざったい。

 冷房の切れた室内はそれはもう酷い有様で二度寝なんてできないくらいだ。

 ごそごそと、枕元をあさってリモコンを探す。そして手にぶつかった硬いものを、感触だけを頼りに弄っていく。


 ポチ、ポチ、ポチ――

 

 しかし、おせどもおせどもクーラーがつく気配はない。


「ちっ……」


 私は舌打ちを一つして体を起こし、電灯の紐を引いた。

 無機質な白い光に刺されると思い身構えていたのだが、いつまでたってもその光線はやって来ない。


 カチッ、カチッ、カチ――


 こちらも、引けども引けども電気がつく気配はない。


(ブレーカーが落ちたか? いや、確か家族は旅行に行ってんだっけか……じゃあ停電か? ちっ、こんなくそ暑い中で停電させてんじゃねぇよ……)


 仕方がないから飲み物でも飲みに行こう。

 完全に覚醒してしまい、五感を取り戻した私にこの渇きは辛い。

 ついでにうがいもしてこよう。長く寝ていたせいで口の中が最悪だ……


 暗い部屋の中、手探りで服を探して着る。

 私は寝るときは基本的に下着しか着ない。さらに言えば下しか履いていないのだ。何? 上も寝るとき用のをした方がいいだって? はっ、私に形が崩れるほどのものはねぇよ……


 スポブラをつけ、シャツに袖を通す。下は……ロングスカートでいいか。

 手近なところにあった、という理由で今日の私のコーディネートは決まった。


 いったんベランダに出て、雨戸を開けてから下に降りた。

 下に降りてきた私はまず洗面所で顔を洗い、うがいをする。そしてさっぱりしたところで水を一杯あおる。


「んく……ぷはっ」


 うむ。この一杯だ。朝に飲む水。コレが一番。

 うんうんと頷きながらリビングへ。停電のせいで暗いそこに明かりを入れるために雨戸を開けた。

 経年劣化で重くなってしまった雨戸を頑張って開け、網戸にする。

 風はほとんど通らないが、開けないよりはましだろう。


 一通りの作業を終えて時計を見ると、時刻は十時。

 学校ではちょうど夏期講習の二時間目が始まった時間だ。

 私? 私はもちろんサボりだ。

 サボータージュという名のエスケープをしているんだ。

 ロシア語と英語が混ざってる? 気にすんな。細かいことはいいんだよ。人生気楽に生きようぜ?


 気楽に言ってはいるが、私が学校からエスケープするようになったのには深い、それはもう深いーーバイカル湖よりも深い理由(ワケ)がある。だが、それはここでは語らない。

 さすがにモノローグで語ることではないからな。

 いつか機会があったら話すと思うぜ?


 と、そんなメタな思考をして時間を潰してみたが、一向に停電から復旧する気配はない。

 停電が直る気配なんてあってもわからないとは思うけどな。

 テレビもつかないからすることもないし、携帯でも弄るか……


 あ、ちなみに休日のとき私は朝飯は食わない。ブランチなわけだ。


 携帯をひらいてみると通知が一件。

 クラスメイトからのメッセージで、内容は……


「だいびやはまあ?」


 何だこれ? 意味のわからん文だ。

 嫌がらせか? 酷いよあやちゃん……キミだけは友達だと思っていたのに……よよよ……

 送ってきたのが丑三つ時なあたりに悪意を感じるなぁ。ま、零時五十九分ていう微妙なところではあるけども……


 さ、気を取り直してゲームでもしますか。

 勉強しなきゃと心が痛むが、私のハートはそんなにやわじゃない!

 実際問題模試で高判定がでてるわけだし問題ないはず。

 夏期講習も全部サボータージュしてるけど、きっと平気。

 だってもう全教科教科書は終わってるしな。あ、地理は終わってないか。でもまあ、それは置いといて、と。

 自分で問題演習すれば合格できるはずさ。むしろ学校への通学時間を削れる分だけ伸びるじゃないか?


 と、長々と自己弁護をして免罪符を手に入れて、さあ起動だ!

 待ってて愛しのミラちゃん! 今会いに行くからね――


 サーバーとの通信が切れました。リトライしますか?


 リトライ、リトライ、リトライーー


 やり直せどもやり直せども繋がる気配はない。


「全く、運営め……しっかりやってくれよ…….」


 ああもうっ! 今日がイベント最終日だったから周回しようと思ってたのに……

 こうなったら作戦の立て直しだ。まずは情報収集しないと……!


 そう思い立ち、つぶやきのアプリを開いたときだった。


「圏外、だと……?」


 左上のキャリアの部分が圏外となっていた。

 ぴょんぴょん跳んでみたり、壁際まで寄ったりしてみたものの、一向に電波を拾わない。


(さすがにおかしくないか? 停電に鯖落ちに電波障害……私が寝ている間に大地震でもあったのか?)


 網戸越しに庭を見てみても何かが起こったようには見えない。

 植木鉢は整然と並んでいるし、外は穏やかなもので、セミの声と時々の鳥の声しかない。


(ん? 待てよ……何でこんなにも静かなんだ……?)


 私の家は太い国道のすぐ近くに位置している。

 だから、十時ともなれば車の走行音で五月蝿くなってくるはずなのに……


(とりあえず、様子を見に外にーー)



 ガリッ、ガッ、ガリッーー


 私は肌が粟立つのを感じた。

 何だこの音は……何か硬いものを力任せに引っ掻くような音。自分へのダメージなんて一切考えていないような行動だ。

 それを想像しただけで、怖気が走った。


 自分の爪が剥がれ、指が血だらけになろうとも構わず引っ掻き続ける……人間にどうしてそんなことができようか。


 音が止んだ。


 私は荒い息を立てながら、ひたひたと玄関へと近づいた。

 玄関扉の横の曇りガラスの部分には赤い線が走り、その奥に人影が見える。


 私は震える手でチェーンロックをかけ、そっとドアを開いた……

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