表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海賊少女  作者: 夏
月の下で
29/32

あの日の記憶

私はふと目を覚ました。嫌だ私ったら甲板で日向ぼっこしててそのまま寝ちゃったんだ。

そう思って身体を起こしてから、此処が自分の部屋でないことに気付いた。私は青々とした草の絨毯に寝転がっていたらしい。嘘、なんでこんなところに?背筋から、じっとりした嫌な汗が吹き出てくる。


とりあえず立ち上がってみる。足元の草がくしゃりと音をたてた。此処は何処?


辺りを見回してみる。辺りは木々に囲まれているものの、私のいる場所だけポッカリと木が無くて明るい。訳がわからない。なんでこんなところに?同じように何回も繰り返し考えながら、その場をうろうろ動き回る。まるで檻の中の熊だ。

武器は?と思い、腰のベルトを見てみる。良かった、ちゃんとついてる。控えめながらも繊細な装飾の施された銃だ。この銃は、ロクに戦えない私のために、ティカとキルアが選んでくれた物だ。小型なので、少々威力は低いが、手に掛かる負担も少なくて私にぴったりだということで、この銃は私の愛銃となっている。


ホルスターから銃を取り出し、そっと構えた。何が居るかわからないし、誰が私を此処に連れて来たのかもわからないから警戒する他ないだろう。


一歩、また一歩と徐々に歩みを進めて、此処が何処か探ってみる。土と木々独特の匂いが鼻腔をくすぐる。海では絶対に嗅げないこの匂いが、私は結構好きだ。


ポッカリと明るいあの場所を抜けるとふと、何故か見覚えのある場所に出た。澄みきった水を留めた深い泉。木漏れ日が水面を滑り、キラキラと輝いている。

私はスッと銃を下ろし、ホルスターにしまった。神聖な雰囲気をもつこの場所に、血を吸って汚れた武器を近づけてはいけない気がしたのだ。何となく泉を覗きこんでみた。






キラリと何かが光った、と思った瞬間私の身体は見えない何かに引きずりこまれた。


悲鳴を上げる時間もなく私の身体はどんどんどんどん泉に沈んでいく。もがこうと手を動かそうとしても、指先さえピクリとも動かない。


冷たい水が服に入りこみ、体温をじわりじわりと絡め取っていく。怖いはずなのに、恐怖は感じない。むしろ心地良ささえ感じる。そんな不思議な感覚ですら、何処か他人事のように思えた。湖面を照らす木漏れ日がどんどん小さくなっていく。


口からぷくりと小さなあぶくが出ていった。









頭の中に、何かが浮かんだ。私はこんな光景を見たことがある。


そうだ、なんで忘れていたんたろう。これは、この光景は、



―――――私が溺れたあの時の


思い出した途端、視界が歪んだ。水あめみたいに伸びたと思ったらまた縮む。それを何回か繰り返すと、フッと視界がクリアになった。









急に見えた物に驚いた。私の我が家のおんぼろ海賊船の甲板だったのだ。だけど見慣れた甲板と少し違う気がした。それに、思い思いの場所に居る船員クルーも、見たことあるような無いような人ばかりだった。

なんとなく顔を上げ、甲板の淵の柵伝いに歩いていると、小さな手が何かを指差して、高い声が何かを訴えるように叫んでいるのが聞こえた。その声の主の顔をみてまた驚いた。



『私』だったのだ―――――正確には『小さい頃の』私。



何で?と考える間もなく、これは『記憶』なのだと理解した。どういうわけか、泉に落ちて、忘れていた出来事を思い出したらしい。


「どうした?キルア」


あどけない声が聞こえた。小さな私の傍に、とことこやってくる小さな影。サラサラと風に弄ばれる白い髪。ティカだ。ふっくらしたほっぺたがかわいい。大きな蒼い眼が、顔から零れ落ちてしまいそうだ。


「海にまーちゃんが落ちちゃった!」


小さな私がティカの服の裾を引っ張りながら泣きそうに叫ぶ。眼には涙の膜が張って、じわりと目尻を縁取っている。瞬きをするたびに、涙の膜が破れてぽたぽた落ちる。まーちゃん・・・ようやく思い出した。


まーちゃん、『マヤちゃん』なんで忘れてたんだろう。



ティカがぎょっと眼を見開いた。くるりと踵を返し、何処かに走っていく。それを小さな私はゴシゴシ目を擦りながら見ていた。


「大人に知らせる!ここでマヤを見てて!」


ティカは近くに居たガタイの良い船員クルーに事情を説明している。この人、何処かで見たことあると思ったら、ラウさんだ。みたところ青年らしい。




「まーちゃん!まーちゃん!」


泣き叫ぶ小さな私の後ろから海を覗き込んだ。黒髪の小さな女の子が懸命にもがいている。マズイ、このままじゃ死んじゃう。柵に手をかけた瞬間、体がガクンと空中に投げ出された。いや、私の手は柵に触れることなく通りぬけたのだ。私の体は吸い込まれるように海に落ちた。視界が逆さまになって、青い空が見えたと思ったら、今度は蒼い海に落ちた。

息を止めるのを忘れていたが、水中でも息はできた。当然かな?これは私の『記憶』だから。でも、じゃあ、まーちゃんは――――――


考えていると、ドブンと何かが落ちてきた。透き通り、日差しを受けて輝く海に、沢山の泡が踊る。その泡が消えると、落ちてきた物の姿が見えた。



アレは――――――私。そのすぐ横に、ゆっくりと沈んでいくまーちゃんの姿があった。黒髪が水に弄ばれてうねうね泳いでいる。

馬鹿な私はどうやらわざわざ海に飛び込んだらしい。海は美しくとも危険でもあるとあれほど長老達に言われていたのに。自分の事なのに、まるで御伽噺おとぎばなしを聞くように、淡々と受け入れていた。目を背ける事もできた筈なのに何故?理由は簡単――――


逃げたくなかったんだ。




私は弱虫で何時もティカやキルアに守られていた。でも、それだけじゃいけないんだ。私は海賊。一生下っ端の身だろうけど、何時寝首を掻かれるか分からない。それに―――――守られるだけじゃなくて私も何かを、『守りたい。』ただ、それだけなんだ―――――



意識を失い、固く眼を閉じていた筈のまーちゃんの顔が、嬉しそうに笑った気がした。



体がぐんと何かに引っ張られた。強風に吹き飛ばされる落ち葉のように、小さな私の体に吸い込まれた。















ごぼごぼ




ここは何処だろう。薄暗くて冷たいような、熱いような感覚が体を巡っている。


私は真っ逆さまに海を落ちていた。服の裾が水に揉まれ、ゆるゆると広がっては揺れる。


皆は何処だろう。寂しいなあ。リンヤに聞かれたら、また弱虫って言われちゃうかなあ。


それでも寂しいもん。独りは嫌だよ。怖いもん。






誰かが私の名前を呼んだ。


だあれ?と声を出そうと口を空けたけど、こぽりとあぶくが出ただけで肝心の声は出ない。









ねえ、だあれ?


心の中で問いかけてみる。


《わたしはきおく。あなたのなかにいるの。》


きおく?それってさっきみたもののこと?


《そう。あなたのきおくたちだよ。ここのうみはね、せかいのひとがながしたなみだでできてるの。》



じゃあ、わたしはいっぱいないたからうみみたくさんみずをふやしたね。



《ううん、ちがうよ。あなたはないてたけどそのなみだはつよくなるためのものだから》


つよくなるため?


《ここのなみだはね、どうしてもかいけつできないようななやみがあつまってできてるんだよ。きみのなやみやかなしみはきみのなかまがかいけつしてくれるでしょ?》



なかま・・・そうだ、みんなのところにかえらなきゃ


《そう。かえるんだ。きみが、じぶんをしんじて。》


しんじる?そうだ、わたしのいばしょは・・・



あそこだ。




帰ろう。私の家に。






またガクンと体を引っ張られた。記憶の声に感謝しながら、私はいつの間にか眠っていた。


















《あなたはよわくないよ。とってもつよい。》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ