捜索開始!
ロズ、ティカにより集められたメンバーは、それぞれのグループに分かれてロイを探していた。
~ティカチーム~
気持ちよく晴れた空にクークーと静かなカモメの鳴き声が聞こえる。早朝のため、温暖な気候のブリュム・ニュアージュ島も少し肌寒い。そのため皆薄手のマントを羽織っている。
「んじゃ、ロイがいまんとこ攫われたのか自分で出て行ったかわかんねえってことだな?」
ロイと面識のあるパウルがうーんと唸った。ティカチームは今、甲板に出てくる人たちに聞き込みをしていた。しかし居なくなったのが夜中というだけあり、めぼしい証言はない。
「でもよう考えてみい。ロイは常にルルかライにくっついておったじゃろう。そんな子が夜に一人で出かけると思うか?」
相変わらず年寄りくさい喋り方でパウルに問いかけるリクは、手に大振りなダガーを持っている。いざというときの護身用らしい。
「じゃあ・・・つまりロイは攫われたって事か・・・」
「その可能性が高い。」
ロズが相変わらずの無表情で答えた。態度こそ何時もと変わらないが、攫った奴は殺してやる、とでも言うような恐ろしい殺気が滲み出ている。怖い。そしてさらに両手に大人の親指ほどあるはりを3本組み合わせて作った武器、背中に身の丈ほどある剣を背負っている。怖い。
「ロズ、その殺気と武器怖すぎるぞ。」
パウルが若干、顔を引きつらせている。他の二人もうんうんと頷いた。口にこそ出さないものの同じことを思っていたらしい。
「知るか」
短く吐き出された言葉がロズの怒りを示していた。その様子にリクがふうっとため息をついた。
「さて、町に降りてみるか」
そう言ってティカはよっこいしょ、と腰を上げた。そして持っていた袋から拳銃とクナイと剣を取り出して袋をぽいと捨てた。パウルとリクがギョッと顔を顰める。
「おい・・・お前もかなり怖い・・」
「いや、普通だろ」
平然と言い放つティカに今度はパウルが盛大にため息をついた。リクは既に諦めているらしく、視線を町の方に向けている。もう一度パウルは盛大にため息をついた。
~キルアチーム~
こちらのチームは既に町に降りてきていた。とりあえず、初対面のブルーノと自己紹介を済ませ、人が集まりそうで比較的治安の良い酒場に、キルア率いるカイ、ブルーノのチームは来ていた。しかし、いくら治安が「良いほう」とはいえもしもの事があっては遅い。その為、各々の得意とする武器を持っていた。セレスティン海賊団の紋章が入った武器を、威嚇するかのように持てば襲ってくる馬鹿は居ない。キルアは愛用の銃を、カイは槍、ブルーノは斧を背負っている。一目見ただけで海賊と分かるいでたちだ。
「くそう・・・目撃証言も、人攫いが出るという話も無いぞ」
「うん・・・この島、最近誘拐とかに関する取締りが厳しくなったらしいし・・・手掛かりなしね・・」
「怪しい人を見たって言う話も出ないしね・・」
ティカチームと同じく、三人揃って唸り始める始末だった。
「うーん・・・・どうしようか・・・」
~リフェチーム~
とりあえず、初対面のリフェ達は自己紹介を終え、捜索を開始していた。ポポとリフェは同じ女同士という事もありすぐに打ち解けた。リンヤも持ち前の潜在能力の高さからかすぐに仲良くなった。
そして今現在、リフェチームは船を停泊させてある海岸沿いにあるジャングルに来ていた。
「おお―――――い!ロイ――――――!」
「何処にいるの―――――!」
リンヤは持ち前の大きな声を活かしてジャングル中に声を響かせている。しかし、もし、ロイが人攫いや敵に攫われていたら返事などできるはずがないのだが。そしてそこまで声の大きくないポポは船に出入りできそうな場所の周りを徹底的に見て回っている。もしもの時のためにあくまで集団行動をしながら、ではあるが。ポポはジャングルの湿った地面に足跡が無いか、地面に這い蹲るようにしてじっと探していた。
「おう、ロイ捜索中か?」
不意に声をかけられてポポは顔を上げた。低い声の正体は薬学書を読むためしょっちゅう入りたびっている医務室の副医務長、ラウだ。無愛想で目つきが悪く、敬遠している人も多いが本当は優しい人だ、とポポは知っていた。心なしか、いつも濃い隈が更に濃い気がする。
「はい!何か知っている事あります?」
ズボンについた砂をパタパタ払いながら立ち上がり、大きく声をかける。ラウはうーんと考え込む素振りをしてから、あっと声を漏らした。
「関係あるかどうかは分からんが・・・・」
「何でもいいんです!気になった事とかでも構いません」
じゃあ・・・とでも言うように着ている白衣の前を直して、ラウは口を開いた。
「5番隊教官のシルタってのがいるだろう。」
「はい」
セレスティン海賊団は大きい。そのため、8つの部隊に分かれて生活している。普通の海賊なら、子供は見習いとして船に乗る。しかしセレスティン海賊団は家族全員海賊、というのが普通だ。そのため、小さいときから訓練をすることになるのでそんじょそこらの海賊よりずっと強いし人数も多い。そして沢山いる海賊のなかの5番隊の教官といえば、ドルン教官に並ぶ実力者のはずだ。何度か顔を合わせた事がある。暗く、湿った感じのする人だった。
「その方が何か?」
「いや・・・なんか夜に誰かと会ってたみたいなんだよ・・・ほら、俺医務長の手伝いさせられて寝れないって事が良くあるだろ?んで手伝い終わってやっと寝れると思いながら男子便所の前横切ったんだわ。そしたら話し声が聞こえてきてさ・・・」
ラウはふっと目を細めた鋭い、獣のような目が一層鋭くなる。その鋭い眼を縁取る隈が酷いのはそのせいか、とポポは妙に納得してしまった。今度アル姉さんにラウさんの睡眠時間を削らないようにお願いしようと思いながら思考をラウの話に戻す。
「そしたら・・・なんかひょろっちいガキっぽい奴と話しこんでてさ・・・・その時は何も思わなかったけど、今考えたら大分遅いし、何より消灯時間とっくに過ぎてんのにおかしいだろ?だからなんか記憶に残ってるんだ」
「たしかに・・・明らかにおかしいですね・・・・」
あ、そうだ、と未だにジャングルで叫びまくっているリフェとリンヤを手招きして呼び寄せる。二人はすぐに駆け寄ってきた。
「何だ?ポポ」
「何か見つかったの?」
「ラウさんが手がかりになりそうな事教えてくれたの。」
そういいながら、ポポは手短にラウから聞いた事を話した。
「成る程・・・」
リフェは顎に手を当てたままうーんと唸る。リンヤも短い眉毛を眉間に寄せてうんうん唸っている。4人は、大きな切り株に腰掛けて話し合っていた。
「シルタ教官について、良い噂は聞かないわ。訓練の時、不要な『指導』をするとかで・・・」
「指導?」
今度はポポがギュっと眉根を寄せた。リンヤやラウも同じ表情をしている。
「何かにつけて、『指導』、暴力をふるうと。それも打撲では済まないような、訓練に関係の無い。」
「え?!」
リンヤとポポが同時に声を上げた。ラウは声こそ上げないものの、今までに無いくらい恐ろしい表情をしている。セレスティン海賊団では、決闘や喧嘩以外で、骨折などの怪我を負わせた場合、懲罰対象になるという掟がある。海賊といえど、ちゃんと掟はあるし、守らなければ、海賊「団」として成り立たない。リンヤも馬鹿な事をしてドルン教官やティカにに度々拳骨を落とされているが、二人ともちゃんと手加減しているし、何よりリンヤが悪い事をしているのだから当然だ。
しかし何も悪くない者に怪我を負わせるとなれば、話は別だ。間違いなく懲罰対象になる。そして何より怪我を負わされた子が可哀想だ。怪我をしている間、どうなっていたのだろう。
「怪我を負わされた子は、教官に、誰にも言うなと脅されて、怪我をしたまま訓練を受けさせられたそうです。噂では、この前自殺したウィルがそうだそうで・・・遺書に噂の内容が書かれていたみたいです。」
ポポは両手で顔を覆った。可哀想に・・・誰にも言えず、辛くてたまらなかったのだろう。海賊の自殺はそう珍しいものでは無い。怪我で船に乗れなくなった者、掟を破った者、海賊という生業に耐えられなくなった者達が選ぶ、最後の『道』だ。
「あくまで噂よ?本当かどうかはウィルとシルタ教官にしかわからない。」
リフェも冷静な風を装っているが、表情は険しい。リンヤやラウも、何ともいえない、怒っているような、悲しんでいるような顔をしている。
黙ったままの4人の間で、風にまかれた落ち葉が輪を描きながら、ふわふわと舞った。ポポはキュっと表情を引き締めて切り株から立ち上がった。
「みんな、行こう。5番訓練生の所に。」
もしかしたら何か手がかりがあるかもしれない。今はその、夜遅くに話していたというシルタ教官しか手がかりが無いのだ。リンヤとリフェも重い腰を上げて立ち上がった。
「待て」
不意にかけられた低い声に、立ち上がった3人はピクリと立ち止まった。低い声の主―――ラウはすっと顔を上げた。
「俺も行く。」
「え?!」
「仕事はどうすんだよ?!」
「オイ、敬語使え敬語。」
リンヤに苦笑いしながら、ラウはゆっくりと切り株から立ち上がった。
「もし、噂が本当で、シルタがガキを平気でぶん殴る奴だったらどうすんだよ。お前らだって危ねえだろうが。それに―――――」
ラウの眼に、一瞬殺気が篭った。冷たく、凍えるような。
「一発ぶん殴ってやりてえ。」
いくぞ、とスタスタ歩き出したラウに、3人は気圧されて動けなかったが、「ほら、何やってんだよ」と言うラウの声にようやく動き出した。ざくざく、と落ち葉を踏みしめる音だけが、辺りに響いた。
ひゅるり、と木々の間で風が啼いた。
闇の真実。




