夜の光に照らされて
ようやく嵐も少し治まり静かになった島。そして船員達。一難去ってまた一難、というべき出来事が起こることをこの大きな古い船に乗る者達は知らない――――――
廊下がなにやら騒がしいのを感じてティカは眼を開けた。もともと眠りは浅く、しかも常に回りに気を張っているため、すぐに眼を覚ましてしまうのだ。もぞもぞと自分の体温で温まった布団で身をよじる。
「――――は―――だ?どこ――だ?」
「―――ない!あの――は――こ?」
男と女の押し殺すような、でも焦ったような声が聞こえる。一瞬侵入者かとも思ったが、それにしては堂々と会話をしすぎだ。ティカはそっと目線をドアの方に走らせて更に耳を澄ませる。同じ三段ベッドに眠るポポとキルアの寝息がより一層強くなる。
「つい―――っきまで――――トで―――たのに!」
「落ち――け!―――とりあ――――ず、船内を―――んだ!」
肝心な部分が聴き取れなかったが、どうやら緊急事態らしい。ティカはさっと壁掛け時計に眼をやる。まだ暗くてよく見えないが、おそらく3時すぎだ。眠っている二人を起こすのは早すぎる。なるべく音をたてないように体を起こし、ベッドから抜け出した。明かりをつけるわけにはいかないので机の上の鏡で姿を確認し、髪を整えてから無造作に置かれたブーツを履く。そして音もたてず廊下にサッと出る。廊下はトイレなどに行く者が転んだりしないように灯りがついていて明るい。ティカは二つの影を確認してから一歩ふみだした。
「どうしました?」
ティカの寝起きの掠れた声に、ビクリと廊下で話していた二人は肩を震わせた。どうやらティカの存在に気付かなかったらしい。
「いや・・・大した事では・・・・」
男の方はすぐに目の前の少女が船長の妹だという事に気付いたらしく、丁寧な物腰でもごもごと答える。
「ずっと二人で話していたのにですか?」
その言葉に二人は、どうする?とでも言うような微妙な表情で視線を交わしていたが、やがてまたティカの方を向くと口をひらいた。
「うちの子が――――、ロイが何処にもいないんです!」
ロイという名前を聞いて、ようやくティカは思い出した。この二人は夫婦で、ロズというティカより1つ上の少年と他3人の親だ。ロズとティカは訓練の無い日は手合わせをするほどの仲だ。そしてそのロズ以外にも3人の子供がいる。ルル、ライ、ロイだ。
「ちゃんとベッドに入って寝ていたのに、私がお茶を淹れて飲んで、帰ってきたらロイがいなくて――――」
「その他の子達はいるんですね?」
「はい・・・ちゃんと全員いました。」
こんな会話をしているものの、夫婦がかなり焦っていることが分かる。ロイから以前聞いた話によると、ロイは一番大人しくて人見知りが激しい。いつも姉のルルか双子の兄のライにくっついていたはずだ。自発的に出て行くとは考えにくい。ということはつまり――――――
「誰かに連れて行かれた?」
ぼそりとティカは呟いた。その呟きは夫婦にも聞こえていたらしい。サアッと顔から血の気がひいているのがわかる。
「とにかく兄様を叩き起こしてきますから、部屋で他の子達の事を見ていてあげてください。」
それだけ言うとティカはくるりと踵を返して、兄の自室である船長室に向かってズンズン歩き出した。
コンコン
ティカが船長室の、木でできた大きな扉をノックする。硬質な音が廊下に響く。
「兄様、私です。」
それだけ言うと、部屋の中から眠そうな声が返ってくる。
「んん~?なんだティカかぁ?どーしたー?」
船長がこんなザマでいいのかよ、と心の中で毒づきながら手早く用件を話す。
「子供一人が行方不明になりました。」
部屋の中でようやく動き出す気配がした。
よるのひかりにてらされて。
「くそっ、何処いったんだ・・・・!」




