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海賊少女  作者: 夏
嵐は序章
17/32

あの地図は

ちょっとグロいです。

キルアがたまたま発見した古地図。それはジルヴァの持つ地図に瓜二つだった。




――――兄様はなにを考えている?

ティカは数日前に食堂で質問した事をまた心の中でり返していた。

勿論もちろんこの問いに答える者は居なかったし、答えも見つからなかった。



いつもそうなのだ。ジルヴァはたまにティカの想像もつかないような事を考える。そしてその考えを誰にも言わない。しかしティカはその考えは何なのかが気になって仕方が無い。聡明なジルヴァの事だから、海上兵団につかまるようなへまはしないだろう、そう信じているが、危険な事がその辺にゴロゴロ転がっている海賊という立場なのだ。兄様は気にせずふわふわしているが、あれでは足元をすくわれかねない。



―――――たった一人の家族なんだから話してほしいのに。



ティカはそう思っていた。





ティカとジルヴァの親はティカが5歳になってすぐに死んだ。







二人の両親はろくでもない人間だった。父は四六時中酒に酔い二人を殴っていた。母も特に理由も無く二人を殴り、ののしっていた。2、3歳の頃、ティカは物の分別もつかなく幼かったため、それが当たり前だと思っていた。しかし4歳ほどになったとき、ティカはようやく自分たちの親はおかしいのだと気付いた。外に閉め出され、寒さに凍えているとき、ふと思った。

遊んでいる友達は誰一人家から閉め出されたりしていない。お腹が空いてもゴミをあさって食べられる物を探したりしていない。

ジルヴァはとっくに気がついていたようだ。なにしろ二人は10歳以上歳が離れていた。常識と言う物を良く分かっている

しかし相手は大人。体格も考える事も違う。二人はそんな親に何とか耐えながら生きていったのだった。







そんなある日、国を揺るがす大事件が起こった。




大地震が国を襲うと同時に大量の悪魔達が解き放たれたのだ。



悪魔達はあらゆる動物の姿をしていた。しかし大きさは(けた)違いだ。何より奴等は恐ろしく凶暴で素早い。パニックを起こした両親は二人を殺そうとした。




血走った目を見開き狂った叫び声を上げながら大きなナイフを持って跳びかかってきた父。



――――殺される。


直感的にそう思った。



―――殺される前に――――










頭の中にそんな声が響いた。








気がついたときに見たものは、真っ赤に染まった自分の手。

そして真っ赤に染まり、グチャグチャになった父と母の無残な死体。

目を見開き、肩で息をする兄。




――――私が殺したんだ。



5歳の少女らしからぬ冷静さで、自分の犯した永遠の罪を理解した。その時何故か恐ろしい程に頭が冴え渡っていた。












ガッシャン!!


バリバリ!!





呆然ぼうぜんとする兄妹の後ろの壁が突如とつじょ消え去った。



大きな蜻蛉とんぼのような姿をした悪魔が血の匂いを嗅ぎつけてやってきたのだ。もうもうと立ち込める砂埃すなぼこりの後ろに壊滅状態となった町が見えた。土の匂いがつんと鼻につく。



このままじゃ喰われる。




そう思ったジルヴァはまだ呆然としたままのティカの手からナイフを奪い取り、ボロボロになったズボンのベルトの間に差し込んだ。


悪魔は自ら空けた穴から小さな家を覗きこんでいる。まだ動く気配は無い。おそらくここなら蜻蛉の目にも見えないはずだ。息を殺しながらティカの手を握りゆっくりと一歩ずつ歩く。向かう先はさっき悪魔が家を破壊したせいで空いた穴だ。小さいが、栄養失調でガリガリに痩せた兄妹なら何とか通れる。



一歩、また一歩。



そう進んだところでカツンと音を立てて小石が転がった。悪魔を気にする余り、足元まで気が回らなかったのだ。


ギョロリと大きな複眼が小石を見つめる。




全身から汗が吹き出す。ティカの小さな白い手をギュッと握った。

ドクドク。心臓の音が五月蝿うるさい。


――――頼む。気付くな。あっちへいってくれ



その願いが通じたのか、蜻蛉の悪魔はゆっくりと歩き去った。




ハアッと大きく息を吐き出し急いで穴に向かう。少しだけ頭を出して外を覗けば其処そこは地獄絵図だった。



家は壊され、何処からか子供の悲鳴が聞こえる。あちこちから炎が上がり煙臭い。その匂いに混じってさっき嗅いだのと同じむせ返るような血の匂いまでする。あちこちに食い荒らされた死体が転がっている。



首を引っ込めたジルヴァがまず先に出る。そして虚ろな眼をしたティカの手を引っ張りギュッと抱き寄せた。


「どうして・・・どうしてこんな事に・・・・」


気付かない内に二人とも顔や服がすすで汚れていた。



「お兄ちゃん」


幼い妹は静かに崩れた家を見つめてたまま、問いかけた。


「私達は何処に帰ればいいの?帰る町も、家も無くなっちゃった。」

静かな声で無表情の妹からは何も読み取れなかった。


あんな親がいる家でも、我が家なのだと初めて理解した。


「行こう。このままじゃ喰われる。」

目に溜まった涙に気付かないふりをしてしっかりとティカの手を握り行く当てもなくふらふらと歩き回る。何故か歩く途中、一度も悪魔に出くわさなかった。しかしそんな事を気にする余裕も無く兄妹は歩き回った。何しろ辺りは焼け野原で所々(ところどころ)に食べ残された人間の頭や骨が血と一緒に転がっていた。




ピタリとティカの足が止まった。


「ナナちゃんだ。」

ティカが指差した先を見て、ジルヴァは絶句した。ティカが指差したのはティカと同じくらいの少女の頭だった。眼を見開いたままの生首。ジルヴァはもう一度ティカの顔を見た。いつもと同じ普通の顔。



ジルヴァは理解した。ティカはまともなまま壊れてしまったのだと。




ガッシャアン!!!!





突如とつじょ二人の後ろに響いた大音響。同時に粉塵ふんじんが舞い上がる。悪魔達が居ない事に、心の何処かで油断していたらしい。大音響と共に現れたのは巨大な鷹の姿をした悪魔だった。鋭い眼は不気味に赤く光り、獣くさい臭いがする。



ぎらぎらした眼が二人を射止める。このとき初めて二人は喰われる寸前の獲物の気持ちを理解した。



「逃げるぞ!!」

ジルヴァが叫ぶのと同時にティカが森の方に向かって走り出した。ジルヴァも全速力で駆け出す。しかし巨大な悪魔から逃げ出せるはずもない。すぐ後ろを、じりじりと楽しむかの様に追いかけてくる。



ザシュッ!!!




悪魔の鋭い鉤爪が何かを抉った。



「あああああああッ!!!!」


ジルヴァの腕の肘から下が無くなっていた。スパッと斬られている。ボタボタ、ボタボタと血が流れ落ちる。





――――死ぬ、死ぬ




そう思いながらも何とか走り続ける。



ヒュッ





ジルヴァの横を何かが通り過ぎた。と思った瞬間





「ぎゃあああああああッ!!!」


甲高い悲鳴。数秒経ってから悪魔が自分の横を通り過ぎたのだと分かった。



何を?なにに攻撃した?





真っ赤赤いあれは何嫌だそんなわけない嫌だあの赤い赤い何あれは何




「ティカあああああああッ!!!」



先に走り出し、前の方にいたティカの顔から眼が消えていた。鷹の悪魔に抉られたのだ。



「やめろおおおおおおおッ!!!」


叫びながら動こうとするものの、血を流しすぎたせいか、足に力が入らない。




鉤爪がティカの体に触れる――――――



ギィン!!!!




金属音が響き、ドサリと悪魔が倒れた。



「君達・・・―――――

高い、柔らかい声








あなたはだあれ?






―――――――――――――――――――――――――――








「カ・・・ティカ!」


大きな声にフッと眼を開ける。近くにキルアの黒い、濡れた大きな眼がある。どうやらいつの間にか寝てしまったらしい。




――――あんな夢見るなんてな


起こしてくれたキルアに礼をいい、窓際の三段ベッドの一番上の布団に潜り込む。月明かりがティカの真っ白い髪を、さらに白く照らす。



―――――兄様はあの・・・をどう思っているのだろうか。




布団の中でティカはなおも自問自答を繰り返す。






濃紺の空はそんなティカを優しく包み込んでいた。




















あの日の記憶

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