はじまりの囁き
プロローグ
赤、灰、黒。三色しかない部屋に、たった一人の少女がいた。
少女の服は使い古した雑巾のようにボロボロで、ところどころ血の染みが付いている。海のように蒼い眼は濁り、見えているのか判らない。髪や肌、睫毛までもが真っ白く、やはり汚れ、血の染みが付いていた。立つ気力すらないのかじっと座りこんでいる。浮浪児のような風貌をしているが、弱々しく、今にも消えてしまいそうな命の灯火に何の反応も示さない。狭く、しかし天井だけは広いその部屋はやはり血の臭いが染み付いて、常人が入れば吐き気を催すだろう。
少女の睫毛がふるりと揺れ、微かに唇の隙間から息が漏れる。震えて糸のように細い息は誰の耳にも届かないだろう。しかし少女の耳には確かに声が聞こえた。幻聴か、あるいは空想か。少女は途切れそうな意識をそこに向ける。
《願うか。悪魔よ》
ボワンボワンと響く、聴き取りにくい声。男か女かすらわからない。頭の中をかき乱す声。悲鳴や歓声が束になり、ひとつの言葉として構成されているような、危うい輪郭をしていた。
しかし、少女にはしっかりと聴こえていた。
《生きるか、この豚小屋で死ぬか。好きな方を選べ》
少女の眼が微かに動いた。見える物は灰色の壁しかない。少女はそのなかに一筋でもいいから、なにか希望を見出そうとした。
「私は・・・・・―――――




