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人間って難しい


 ゼスさんが帰ったあと、別室に待機していたシルヴィアに呼び出されました。

 王族のシルヴィアは私より偉いのです。

 なんか感じ悪いです。

 だって優雅にお茶飲んでるんですよ。

 この()


「ふむ。ゼスはただものではないな」


「人の体を触りまくったド変態ということでしょうか」


「おバカがいるのだ……」


 シルヴィアが頭を抱えました。


「な、ひでえ!」


 まったく!

 感じ悪いですよ!


「ゼスがお前の体を触ったのはお前の体格を調べたのだ」


「体格って……シルヴィアの地獄の特訓でついた無駄筋肉じゃないですか!」


 私の剣術の師匠は誰を隠そうシルヴィアです。

 目を閉じるとあの地獄の特訓をした日々がありありと目に浮かびます。

 人差し指一本での倒立からはじまり、板金鎧を着てひたすら走らされ、木に何百回も打ち込みをさせられる日々です。

 普通達人って、力を使わない技を教えてくれるイメージがあるじゃないですか!

 ところがシルヴィアは非情でした。


「脱力なんて死ぬほど練習してから覚えればいいのだ。何事も順序というものがあるのだ!」


 まさに悪魔です。

 私はその時、過去の苦労に思いをはせていました。


 それは私が6歳の時でした。

 それまで「コロコロして可愛い」と会う人会う人に言われていた私。

 普通の6歳児ではない私は、それが「うっわ。このガキ……デブだわぁ……」という意味なのを頭の隅では理解してました。

 理解してはいましたが、自分に都合の悪い現実は見ないことにしてました。

 立って下を向いても自分のつま先が見えないという現実は認識しません。

 人間は真実に向き合うのが必ずしも幸福につながるとは限りません。

 そうなのです!

 おい、勇者(リア充)ども!

 お前らの彼氏彼女もお前の知らないとこでお前の友達としけこんでるんだからな!

 お前らの天下なんて一瞬で終わるんだからな!

 いつまでも魔王(非モテ)が負け続けると思ってんじゃねえぞ!

 ああコラ!

 ……少し興奮してしまいました。


 とにかくデブだった私の前に現れたのが、なにがなんでも鉄棒の逆上がりを成功させようとする体育教師……ではなくシルヴィアでした。

 その時のシルヴィアときたらとにかく無口でした。

 今でも十代の女の子にしては口数が少ないのに、その時はもう必要なことも言いませんでしたとも。

 「うにゅう」とか「みゃああああ」しか言わないんです。

 コミュニケーション能力が皆無だったのです。

 常に喋ってないと呼吸ができない私とは大違いです。

 私たちを会わせた理由は単純です。

 理屈っぽくマシンガントークを繰り返すのに説得するのが難しい反抗的かつ腕力過多の頑固なおバカ。

 コミュ症かつなにを考えてるかわからない無表情、悪意はないのに魔力を暴走させる生まれながらのマップ兵器。

 そうだ!

 友達を作れば少しは管理しやすくなるんじゃね?

 そう考えた親どもは引きこもりの対処法を試してみたわけです。

 不良少年の対処法は友達から隔離することだというのに。

 親にはどちらも大差ないと言うことでしょう。

 この手の親の思い込みで苦労するのは常に子どもというわけです。

 特に私の被害は甚大でした。

 走り込みでしょ。

 超絶ストレッチでしょ。

 筋トレでしょ。

 魔導式地雷を敷き詰めた地雷原でのランニングでしょ。

 着ぐるみ着て火の輪くぐりに……

 ……マジで死ぬかと思いました。

 いつか仕返ししてやる!


「お前も魔法は体で覚えるんですー。とか言いながら死ぬほど練習させたのだ……」


 おっとロリっ娘がばらしやがりました。

 実はシルヴィアの魔法の師匠は私です。

 シルヴィアの魔力はそれはそれは凄まじい量なので、面白半分に禁呪やら世界消滅魔法とかを教えています。

 覚えが悪いときは直接脳に魔方陣を書込んだりしました。

 普通の魔道士だったら10回は発狂してるところですが、今のところ異常が出てないので大丈夫でしょう。たぶん。

 過去の異世界で面白半分に魔法を教えたことが何度かありますが、たいていすぐに発狂するか死にましたので。

 こちらも酷いものでした。

 前世で漫画で見たロウソクに火を灯す訓練をしたところ、火力が強すぎて一瞬で気化したロウソクのガスに引火。

 もちろん爆発炎上。

 吹き飛ぶ私。

 火だるまになる私。

 ……ホントよく生きてるな。

 地属性魔法の練習では土を隆起させる攻撃魔法アーススピアの練習をしたところ、地震発生。

 それはアーススピアの三段階ほど上位の魔法でした。

 シルヴィアの起こした地震で王城の離れの建物倒壊。

 近くで訓練中の騎士団から怪我人二名を出しました。

 隠蔽に持てる能力全てを使いましたとも。

 雷魔法では特大の雷で王城の礼拝堂が焼失。

 宗教嫌いなので放っておいたところ、あやうく私の犯行ということにされそうになりました。

 そろそろ私死ぬかもなあと思い大出力のビームを曲げる練習に切り替えたところ、ビームがコントロールを失って城壁破壊。

 最後には大司教への嫌がらせの逃亡中、スラム街を通ったらごろつきに囲まれヒャッハー。

 スラムがこの世から消滅しました。

 すべてが悪夢のようです。

 ……思い出したくもありません。

 今のところ死人はゼロ。

 ほとんど奇跡です。

 なぜかたいてい酷い目に遭うのは私です。

 どうしてこうなった?


 このように我々は知識をシェアしているわけです。

 幼なじみで同じ所に追放という一蓮托生の間柄ですからねえ。

 実に合理的な取引だと思います。


「ゼスはお前の練度を見たのだろう。騎士としては主はボンクラではなく一安心と言うことだろう」


「今の私はどれくらい強いんでしょうか?」


 これは素朴な疑問です。

 兵士よりは強いような気がしますが、なにぶん千年熟成させた魔術と比べたら付け焼き刃のような気がします。


「今のアレックスは技だけでも魔王の近衛騎士レベルだ。魔王城の中ボスクラスだぞ」


 強いのか弱いのか全くわかりません。


「シルヴィアも魔法だけだったら四天王クラスですよ」


 私もシルヴィアを評価しました。

 本当にシルヴィアの実力は四天王クラスです。

 策を労しすぎて自滅するやつ。

 ちなみに出力だけなら魔王クラスですが悔しいので褒めてやりません。


「強いのか弱いのかわからんな……」


 これが今の我々の現状なのです。

 やはり、生まれ落ちた瞬間に世界最強というわけにはいかないようです。

 それが身にしみているせいか、我々はお互い渋い顔をしました。

 人間って難しい。

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