薄汚い大人 VS 魔王
就活中の皆さんマジでごめんなさい
領主の館には男爵領の徴税官や裁判官などのお貴族様が次々と、私とシルヴィアに挨拶にやってきました。
私は紋章官の兄ちゃんに、やってきたクソ貴族どもの馬車についている旗の絵からどこの一族かということ教えてもらっています。
機嫌が悪いのは冷静になったからです。
これは非常に重要なお仕事です。
どこの一族で誰の親戚かわかれば、こいつ排除したら親戚で一番偉い人である議会のどの貴族を敵に回すかなってとこまで予想できます。
ちなみにうまく罠にはめれば一族全員の失脚連鎖を狙えます。
ひゃっはー!
今から彼らの泣き叫ぶ姿が楽しみです。
凄い?
凄いでしょ!
褒めて褒めて!!!
もっと褒めていいんやでー!
……少し我を忘れました。
さて、紋章には独特の規則性があり、「現在何のお仕事をしているのか?」「軍人か文官か?」「どの派閥か?」などが読み取れます。
エントリーシートとか履歴書とか要らないんですよ。
凄いですねえ。
この制度があれば誰も彼も居酒屋バイトの経験ばかり書いてあるエントリーシートや、運動部の経験があるからリーダー向きという謎理論をひたすら読まされる作業から解放されるのです。
運動部なんて9割リーダーになれねえっての。
しかも応募者全員がほぼ同じ内容です。
あれって読んでると仕舞いにはゲシュタルト崩壊起こすんですよ。
マジで。
おっと話が逸れました。
例えば今ついた馬車の中から出てきた人ですが、旗にはドラゴンと菊のマーク。
……てヤクザかい!
……コホンッまずは紋章のマントに模様と色がないので騎士。
軍閥は基本的に模様と色はなしです。
身分も軍部での階級もわからないようになっています。
指揮官が丸わかりだと戦闘行為になったときに真っ先に狙われるからだそうです。
なのでうちの実家もマントは模様も色もありません。
目立ちますからねえ。
ちなみに文官の貴族や王族は色アリ模様アリで派手です。
主紋章はうちの実家と同じドラゴン。
副紋章は菊。
昇り龍と菊です。
ツッコミは入れませんからね。
副紋章は職業を表している場合が多いですが、今回は騎士とわかっているので部隊を表してるんじゃないかな?
旗の下の字は家訓。書いてあるのは「ただ勇敢であれ」。
……少し胸がときめきました。
次に槍の穂先の本数。これは兄弟の順位を表しています。三叉。
つまり先っぽが三本なので三男ですね。
貴族も三男あたりになると養子先もなく、騎士団に入れて公務員にしてしまいます。
騎士団っていうのは要するに軍隊ですので、鬼軍曹に微笑みデブとかのあだ名をつけられてシゴかれるわけです。
キレて軍曹撃ち殺すくらい。
たいへんですねえ。
あ、私は軍隊行きません。
みんなのために。
協調性が全くないのでキレて全員皆殺しにすると思います。
……なぜ微笑みデブに感情移入してるんだろう?
てへ♪
考えるのはやめよっと。
まとめますと、
騎士でうちの親戚か親父の部下。
領主に挨拶しに来るくらいですから最低でも副官クラス。
三男。つまり家督を継いだのではなく叩き上げと思われる。
旗に『あのよろし』とか『みなしの』って書いてあれば満点。ヤクザ的に。
ぶっちゃけうちの親父の部下ですね。
謁見に来た時間が早いのでそうとうな重要人物だと思われます。
「男爵領守備兵団団長であられる騎士のゼス様でございます。」
領主の館に勤める家令の爺様が言いました。
なるほど。予想は当たっていました。
男爵領守備兵団と言っても、要するに田舎の警察署ですから、警察活動や有害な獣を狩ったりするのがお仕事の数十人程度の小規模なものをイメージしてしまいがちです。
ですが、度重なる遊牧民の略奪というリスクを抱えるこの男爵領では予備役も含めると全人口の10%にもなる一大派閥なのです。
金のない場所では軍隊ってのは失業者対策です。
当然、歩兵のほとんどが親の跡を継げない農家の次男三男ということになります。
もちろんそれだけの金食い虫とも言えます。
だからと言って敵に回したらあっという間に死亡フラグが立つわけです。
だって全人口の10%もいたら住民の家族や親戚に必ず一人は兵士がいますもの。
で、ゼス団長は親父の関係者ですから、とりあえずは味方だと思われます。
騎士で三男坊からのたたき上げですか。
正直、やっかいです。
なぜなら、叩き上げの騎士は見習いの従騎士として入団し、騎士の中の騎士として育てられます。
その中での絶対の誓いは正義。
つまりリアル正義の味方です。
彼らは利害関係より正義を優先するので脅迫や利害関係で物事を説得するのは難しい人種なのです。
ただし脳筋ですが。
誠意を持ってちゃんと話さなければなりません。
それは私の不得意分野です。
困りました。
詐欺に乗ってくれない人間をどう説得しやがれと!!!
どう転んでも、まずは仕える価値がある人間か、正しい行いをする人間か、それが試されると思ったほうがいいでしょう。
なにこの無理ゲー!
「お前はどこまでクズなのだ……」
「うっせ!」
なぜシルヴィアは人の心を読むのでしょうか。
◇
執事に通され入ってきた二人の男。
片方は王国の最新の流行を取り入れた品の良い身なりをしている20代後半~30代前半の男性。
痩せ型ですが肩幅が広い細マッチョ。
気品があってあからさまに貴族の子弟という雰囲気を身に纏っています。
その後ろには仕立てのよさそうな頑丈なジャケットに流行遅れの動きやすそうなズボンというやはり30代前半の男性がいました。
ぎょうざ耳の筋肉ゴリラ。無精ひげ。
ラーメン屋でレバニラ定食とビールを食べてそうな顔です。
顔自体の造形は良いんですけどね……
これは正解は一つしかありません。
私は迷わずゴリラの方に挨拶をします。
「ゼス殿。本日は若輩なるわが身にお会い頂きうれしく思います」
私は彼らに先制攻撃をしました。
ちゃんと人を見る目はありますよー。
っていうアピールです。
おそらく相手もゼスさんを間違えたら、私を恫喝するつもりだったのでしょう。
『主人と従者を間違えるとはなんと無礼な!』とか『領主は自分の部下の顔もわからんのか!』とかですね。
就職活動の圧迫面接みたいでムカつきますね。
わ、わかってるんじゃ!
大人のやることはわかってるんじゃああああああ!
上場企業の面接より薄汚い目で値踏みしてるに違いないんじゃあああああ!
私は警戒心MAXでした。
だって私が面接する側だったらそうしますもん。
クズ?
いいんですよ。
私がやるのは許されますが、私にやるのは許されないのです。
これが私とゼスさん。
私と叔父貴の出会い。
そしてこれこそ私と巨大怪獣との戦いの日々のはじまりだったのです。




