あやしい薬
私が領主の館の2階から窓から外を見ると、粉塵が舞っているのが見えました。
ちゅどーんどかーん。
素晴らしい効果音が鳴り響いてます。
「ぎゃあああああああああッ!」
「た、助け!」
「メーデーメーデー!!!」
……悪魔が兵士たちを訓練してました。
もう知らね。
私は悪くありません。
あれは魔導地雷を敷き詰めた地雷原をランニングさせられている音です。
私もよく走らされました。
「考えるな! 感じるのだ! 危険を感じるその勘を大事にするのだ!」
シルヴィアが偉そうにホザきました。
無茶言うな。
私も未だにできません。
手本を見せろって詰め寄ったら、目を泳がせながら逃げたのでシルヴィアもできないのだと思います。
「ひいいいいい!」
「助けてー!」
「まだ死にたくないいいいいいいいッ!」
複数の悲鳴と同時に爆発音が鳴り響きました。
あーあ。ひでえな。
「あ、あの……アレックス様?」
完全に観客気分の私に遠慮がちに声がかかりました。
魔法使いの皆さんです。
「はいはい」
「あの……我々の訓練は……?」
「はい。今作ってますよー。待ってくださいね」
私は度重なるシルヴィアへの人体実験で産み出したポーションを作っていました。
ムキムキ魔力を増強する薬です。
シルヴィアのような虚弱体質でも具合悪くならない素晴らしい薬です。
自分でも飲みましたが全く魔力が増えないのがムカつきます。
0にはなにをかけても0なのです。
少しムカつきました……
やり場のない怒りをドリンクにぶつけた私は鍋をグルグルとかき回しました。
唐辛子粉を大量に鍋の中にぶちまけたい気分になりましたがぐっと我慢です。
そうこうするうちに味を調整するだけになりました。
と、言ってもこの世界ではまだ香料も着色料もほとんどありません。
水飴と砂糖をぶち込む程度です。
しかも水飴は高いです。
なので私は親の敵のように砂糖をぶち込みます。
さて味見、味見。
「うーんトロピカル味」
この場合の『トロピカル』とは『薬品臭い』とほぼ同じ意味ですが、気にしたら負けです。
気分の問題なのです。
「はーいできましたよー。できたてほやほやですよー」
私は弁当屋のおばちゃんのように適当なことを言いました。
でも嘘はついてません。
美味しいとは一言も言ってませんから。
「え、ええっと……その緑色に光る薬品を飲むのですか?」
「はい」
「煙が出てますが……?」
「飲めますよ」
『飲めます』とは言いましたが『副作用はありません』とは一言も言ってません。
大丈夫だと思いますよ。
シルヴィアは飲んでも平気でしたから。
魔法使いの手が震えました。
露骨に嫌そうな顔をしています。
宮廷魔術師になった家庭教師は、もっと前のバージョンを躊躇など一切なく欲まみれのいい顔で飲みましたよ。
そんなんだから地方で埋もれているんです。
「さあ飲みなさい」
私は邪気のない顔で言いました。
「本当に効果はあるんですか?」
魔道士の中のリーダー格が念を押しました。
「すでに人体実験済みの薬品です。効果は家名にかけて保証しますよ」
「あの……素材はなんでしょうか?」
あー……
とうとうそこに気づいてしまいましたね。
しかたない。
言いましょう。
「各種毒です」
キリッ!
「だ、大丈夫なんですか!?」
「アルベルトさん。シルヴィアはこれを3歳の時から服用してますよ」
「顔とは違い腐れ外道ですね……って、あの……なぜ名前を?」
アルベルトさんは驚いていました。
ふふふ。
魔王マジックに引っかかりましたね。
でも私は心の中の『復讐リスト』にアルベルトさんの名前をそっと書き記しました。
いつか泣かす。
「アルベルト・ランゲさん、27歳。魔道士部隊の部隊長。徴税官の次男。王都のアカデミー出身。奨学生で土魔法のマスター。賢者資格持ち」
私はスラスラと略歴をそらんじました。
アルベルトさん以外の魔道士たちも驚いてます。
「いやいやいや、みなさん驚かないでください。資料がない状態ならまだしも今は部下の顔と名前は一致してます」
もちろん嘘です。
直前に部隊の人間の経歴だけ暗記しました。
「そ、そんな我々の名前まで覚えていただけているなんて……恐れ多い……」
もちろんパフォーマンスです。
多くの経営者や政治家がサイコパスで、ほぼ全ての組織がブラック企業という事がバレる前の社会でなら、このパフォーマンスは効果絶大なのです。
初対面の人は善人だと推定しなければなりませんからね。
……魔王を殺すのは情報化社会だと思います。
でもこの世界にはインターネットないもんね!
うっかり発言を録音されて世界中に拡散とかないもんねー!!!
ずっとマスコミのターンとかないもんねー! ヒャッホー!!!
私は心の中だけでゲス顔をしました。
私は取り繕った態度が露見する前にもう一つのパフォーマンスを繰り出します。
「じゃあ最初に私が飲みましょう」
私はそう言うと木のカップに薬を注ぐと一気に飲み干しました。
「ぷはー!」
ビールじゃないのが残念です。
じゃなくて、これで絶対的な魔力が手に入るのですよ!!!
わくわくわくわく。
ぷすんこ。
煙が出ました。
やはりダメなようです。
「うーん。やっぱり魔力は上がりませんでしたね」
私は人ごとのように言いました。
所詮、自分の体なんて人体実験の材料の一つにすぎないのですよ!
さあ、感動したまえ!
自ら薬を試したと褒め称えるのです!
ところが私の小細工はいつもの通り激しく外れるのです。
「ちょッ! なにしてやがりますか!!!」
アルベルトさんが涙目で胸倉を掴みながら揺さぶってきます。
どうどう。
「てめえコラァボケェ!」
怒りすぎて正常な判断ができなくなっているようです。
「落ち着いてください」
「おま! 公爵家の長男だろうが!!!」
「まあ、そうなんですけど。私自身は偉くありませんよ?」
責任問題になるとでも思ったのでしょう。
それはありません。
城でもさんざんやらかしているので、もし死んでも「うっわー……」程度で済みますとも!
ちゃんとだれも責任取らないような前例作ってきましたもの!
大聖堂破壊事件で。
だいたい公爵家とか正直どうでもいいです。
そもそも私が偉いのではなく、家が偉いのです。
そこを勘違いすると死亡フラグ直結です。
調子に乗った瞬間に転落は始まっているのです。
「そうじゃねえよ! 自分の立場わかってんのかってつってんだよ!!!」
自分の立場……立場ねえ。
「王族のスペア?」
私は真顔でした。
「真顔でなに言ってんだよ。死ねよ」
酷いです。
ちょっとムカつきましたよ。
アルベルトさんは領主に優しくないんだ。
こんなに頑張っているのに。
あっそー。
ふーん。
にっこり。
私は笑顔になりました。
「あ、あの……その笑顔は……?」
「アルベルトさん。話が進まないからこれ飲んでください」
ターゲットロックオン。
「いや、私もつい興奮して言い過ぎました……」
「あっ、そ」
私はアルベルトさんににじり寄りました。
笑顔のままで。
「あ、あの……ご領主様?」
「飲め」
「へ?」
「いいから飲めコラァ」
私はアルベルトさんの口をこじ開け問答無用でポーションを流し込みます。
もう知りません。
「あぎゃ、あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
おっと初回の副作用が発生しました。
私は眼球を確認します。
眼球が凄まじい動きをしてました。
これはスペシャルポーションを飲んだ魔法使いだけに現れる現象です。
魔力を司る筋肉やら臓器やらが刺激されて、その結果、脳に凄まじい速度で神経網を作ります。
急速に魔法を使う体に改造されていくのです。
生きながら進化を遂げるわけです。
今ごろ脳の中で神いわゆるゴッドに会っていることでしょう。
この症状が出ていると言うことは死ぬことはありません。
すでに実体実験済みなので断言できます。
不思議なことに症状はシルヴィアには全く出ませんでした。
体質ってあるんですね。
ちなみに動物実験でも死人は出ませんでしたので大丈夫です。
私はアルベルトさんの無事を確信すると、他の皆さんへにっこりと微笑みました。
「さあて、他の皆さんも飲みましょうか」
「い、いやああああああああ!」
逃がしません!
私はゴキブリの如き速さでドアを抑えました。
ばたむ。
「ふっふっふ。逃がしませんよ」
ゆらり。
ぼく の かんがえた さいきょう まどうへい。
その野望を邪魔させはしません。
「ぎゃあああああああ!」
私は神がかり的なハンドスピードで次々とポーションを飲ませていきます。
ふはははははははははは!
「ぬははははは! 貴公らはこれから歴史に残る大魔道士になるのだ!」
私は高笑いをしました。
え?
これで終わり?
いえまだですよ?
彼らにはこれから地獄を見せるのですから。




