こうして話はとんでもない方向へ
「……と、いうわけで全方面どん詰まりになった私たちは異世界の反則クラスの商人さんを召喚しました」
私はビクビクしながら言いました。
「なるほど……完全に反則ですね」
ゼスさんが頭に手を当てました。
「まあ、私にしかできないと思いますけど」
異世界へのゲートを開けるのは結構難しいのです。
国家プロジェクトレベルの魔法です。
この世界の魔法使いだと無理じゃないかなあと思います。
膨大な計算が必要なので最低でも計算尺が必要です。
魔導言語『ふぉーとらん』も簡易スクリプトで途中計算を省略する技術もありません。
普通の魔道士では無理でしょう。
でも私ならそれら全部を作ることができるのです。。
スゴイデスー!
ほれほれ、褒めてくれてもいいんやで。
私は褒めてもらえないと伸びない子ですので。
「ふふふ。これで私もリア充との全面戦争を戦えるというものですよ」
きゅぴーん!
私はイケメンフラッシュをしました。
正直この顔疲れるわー。
「アレックス様。なにを仰られているのでしょうか?」
「へ? だからこの世のリア充という鬼畜外道の輩を滅ぼす話を……」
「……アレックス。お前正気なのか?」
「なんですかシルヴィアまで……? 我々、リア充滅ぼすまで死すときは同じって誓ったじゃないですか!」
「えーっと……ゼス。この超絶バカが理解できるように説明してやってくれ」
「……はい」
なんですか!
感じ悪いですね!
バカと言うヤツがバカなんですからね!
「一応確認しますが、アレックス様の仰る『リア充』とは特定の相手がいないという意味ですよね?」
「まあ、広い意味では現実が充実しているという意味ですが、私の使っている狭い意味ではそういうことです」
「ではシルヴィア様は?」
「強敵ですが?」
なぜかゼスさんが頭を抱えました。
いったいなにが言いたいのでしょうか?
「えーっと……結婚適齢期の王族のご婦人と一緒に他の領地の運営をするというのは他人から見てどう見えますか?」
これはシルヴィアのことですね。
それは簡単です。
「シルヴィアも女王候補ということでしょう? でもいいんですか? こんな危険人物に国任せちゃって」
まったく遠回しにして。
知ってますよ。
国王とかは危険人物でも使えると踏んでいるのでしょう。
「いやそうじゃなくて……アレックス様が人にどう思われるかという事です」
「はい? ……将来の大臣候補? でもうち軍属の家系ですから、その路線はないですね。うーん……姫の護衛……なるほど、やはり今回の追放は勘当でしたか」
私はうなだれました。
やはり大聖堂破壊はやりすぎでした。
家族からリストラされたようです。
私は絶望感に浸りながら顔を上げました。
すると全員目の視線が私に集まっていたのです。
なに言ってんの?
全員の顔ははっきりそう言ってました。
口に出して言えやお前ら。
わからんやろが!
「アレックス様。女王に必要なものはなんですか?」
「権力と人脈!」
へへん。
それくらいわかりますよーだ。
「そうじゃなくて……」
「えーっと……優秀な大臣に将軍に官僚に裁判官に……あー!!!」
そうだアレだ!
「そうそれです!」
「宮廷道化師! もしかして私のリアクション芸人としての才能が誰かに見初められたとか! シルヴィア、コンビ組みましょう! 私ボケで」
真打の位をもらったのはゼスさんには内緒です。
「ちっげーのだ! お前バカなのか!!!」
シルヴィアがキレました。
えー、なにこの理不尽。
「えー、お笑い芸人が違うとすると……あとは……」
あとは……婿でしょうかねえ?
婿と言っても人材は限られます。
有力貴族の息子とか外国の王族とかです。
相棒が離れるのは寂しいですがしかたありません。
なあに、外国に厄介払いされても国を丸ごと手に入れて戻ってくることでしょう。
まあないですね。
「婿はないとして……」
「ソレダ!」
シルヴィアが言いました。
なによ。
……って、そうか!
「うわああああああああ!」
私は素足でゴキブリを踏んでしまったときよりも大きく叫びました。
そういうことか!
……あー!!!
そうか!
私は婿候補なのか!
「……ってありえねええええええッ!」
おいおいおいおい。
シルヴィアと結婚ですと!
ねえよ!
「おいアレックス」
「ないわあああああああ!」
「聞けって」
「なにも聞こえないし、なにも見えませんからねー!!!」
「おいこら」
「にゃいもんねえええええ! あーあーあーあーあー! きーこーえーまーせーんー!」
私の耳は自分に都合のいいことしか聞こえません。
「……ゼス。さすがに傷ついたのだ。コイツ殺していいか」
「書類へサインをする利き手と口は残してください」
「っちょ! あんたら酷いじゃないですか!」
つかね。
私はそもそも異性とすらみなしてなかったのですよ。
このチビ助を。
「だってね! うんこちんちーん♪ とか一緒に歌ってたガキですよ! 数多くのイタズラを一緒にやった共犯者なんですよ!」
イタズラと言ってますが結構シャレにならないこともやっています。
大聖堂破壊とか、スラム街消滅とか。
「シルヴィアからも言ってください! この変人はいやだーって!」
「アレックス。なにか勘違いしているようだな」
「はあ……なにがです?」
「我は極度に人見知りでお前以外とは会話が3分続かないのだ!」
な、なんだってー!
って知ってますがな。
シルヴィアは引きこもりです。
人間が大嫌い。
特に女性が苦手です。
女なのに。
「はあ、知ってますよ。女が怖いんでしょ」
「そうなのだ。例えば後宮ってあるだろ? そこに我が入れられてしまったらどうする! 正室とか側室として他の女と会話をしなければならないのだぞ! 会話とか無茶言うな!」
「はあ、つかアンタが外国に嫁に出されるとしたら、きっと全力の魔法で国を滅ぼして来いって意味ですよ。隕石落とすヤツとかで」
結婚式が始まった瞬間、隕石落として王族と結婚式に呼ばれるような有力貴族皆殺し。
運良く生き残った連中を適当に人質にすれば簡単に国を滅ぼせます。
素晴らしい戦略です。
これは覚えておこう。
メモメモ。
「そ、その前にお、女に挨拶するのだぞ! ……シルヴィアちゃん臭いーとか言われるのだ。洗っても洗ってもニオイが落ちないのだ。洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ……最後は靴を隠されて暗くなっても探し続けるのだ!」
あ、変なスイッチ押してしまったようです。
こいつ前世でどんだけ虐げられたんだよ。
「それどころかトイレで弁当食べていたら上から水がバシャー! リア充ほど残酷な生き物はいないのだあああああああ!」
生々しいな、おい。
正直言ってそういうアホどもは「女子力たったの5。ふ、ゴミめ!」とか言いながら全員気化させればいいと思います。
指先一つで皆殺しです。
つかシルヴィアならできます。
はっきり言って怖いのはお前の方です。
「その点アレックス、お前なら楽なのだ。すっぽんぽんでいても風呂入らなくても文句言わないのだー!」
「いえ風呂は殴ってでも入れますので」
前に二週間引きこもったときはさすがに風呂に放り込みました。
もう忘れていやがります。
「にゃにおー! お前には強敵への配慮がないのだー!」
「んなもん、ない」
私はきっぱり言いました。
あるわけねえだろがボケ。
四天王クラスのくせに!
「アレックスのばかー!」
ぽこぽこぽこぽこ。
音こそファンシーですが、実際は恐ろしく鋭い拳が私に浴びせられます。
本人が非力すぎるのでダメージはありません。
眉間、鼻、人中、喉、鳩尾。
全ての攻撃が性格に急所を打ち抜いてます。
殺す気か!
「っちょおま! ダメージなくても痛いもんは痛いんですからね!」
「うるしゃーい!」
ぽこぽこぽこぽこ。
このどこまでも不毛な争い。
それは唐突に終わります。
「ほう……」
私を殴るシルヴィアを眺めるゼスさんが感嘆の声を上げました。
「うむ。なんだゼス」
シルヴィアは涙目でゼスさんを見上げました。
なんで殴られてるのは私なのに、あんたが涙目なの。
泣けばいいことを学習してやがる。
私がいやな顔をしているのにゼスさんは続けます。
「たしか……シルヴィア様はサムライと仰ってましたか?」
「うむ。最強だったんだぞ! アレックスうんこの師匠なんだぞ! えっへん♪」
とうとう、うんこ呼ばわりです。
これで私に結婚しろとか言ってるんですよ。
わかりますか、この理不尽。
「素晴らしい拳です。よろしければ、団員へ剣を一手ご教授お願いできませんか?」
「うむ。いいぞ」
ゼスさん……それはあかん。
その生き物に武術を習うのは危険です。
死人が出ますよ。
「アレックス様」
「はーい。うんこちゃんですよー。ぷりんこぷりんこ」
私は根に持つタイプです。
「アレックス様は魔道士隊の教練をお願いします。今回は本気で」
「……へ?」
「っちょゼス! その変な生き物に魔法を習ってはだめだ! 死人が出るぞ!」
「っちょアンタ、それはこっちの台詞ですよ!」
なんだかおかしな方向へ話が転がり始めました。
こうして私たちは結婚問題を一旦棚に上げて兵士の育成に着手するのでした。
……ってまた仕事が増えたー!




