難易度ナイトメアモードの土地
畑すらない田舎道を抜けると、そこはド田舎だった。
資料によるとこの街の名前はウルの街。
一応名目上は男爵領です。
つまりこの土地の領主は自動的に男爵になります。
内陸で海はなし。
そのかわり、やたらどでかい川があります。
あまり仲の良くない神聖帝国との国境沿いの前戦地帯。
と言っても神聖帝国領リャドの街まで数百キロほど砂漠が続くので安全なものです。
ここ越えてきたら戦力が半分になりそうですね。
砂漠の手前に広がる広大な荒れ地のおかげで砂漠化は心配なし。
人口は約3000人。
主要産業は農業。
川での漁業も多少あるそうです。
川エビの唐揚げ……
漁民が年貢を払った記録があります。
川エビの唐揚げ……じゅるり。あとビール。
さて領地ですが、ここ数年ほど年貢を滞納してます。
理由は度重なる災害と不作だそうです。
見渡す限り土、土、土。
牧草すらありません。
道に牛や馬のウンコが転がってないので畜産業は盛んではないようです。
凄いきれい好きとは考えられませんので……
マジで何にもないド田舎です。
私のお墨付きをあげましょう。
資料から読み解くと収穫高はほぼゼロ。
前の代官はリストラされました。
つまり、ウルの収支はゼロか、むしろ支援が必要なのでマイナス。
しかもこの最中に支出は倍増しています。
なぜか治安維持のための支出が半端なく上がっています。
要するに土地は痩せ、作物はまともに育たず、栄養状態が極端に悪いため病気が発生しまくり。
治安はステキなモヒカン山賊が村を襲ってヒャッハー。
バカな徴税官が村娘をさらってヒャッハー。
キレた農民が一揆を起こしてヒャッハー。
……独裁者がいないとダメなタイプの土地ですね。
その誰もやりたがらない難易度ナイトメアの領地に『特別行政運営困難地域担当特務局長代理兼第一種王族補佐官』という意味不明な役職として追いやられたわけです。
要するに『死ね』という意味に違いありません。
悪意しか感じられませんとも。
よし、まずは邪魔な連中の処刑から♪
ってできるかー!
よし、ノリツッコミは冴え渡ってます。
でももうだめぽ……なんでこの土地こんなんなるまで放っておいたの……
その謎はすぐにわかりました。
ええ。すぐにわかりましたとも。
というかその辺を歩いてた人捕まえて尋問しました。
おおコラ兄ちゃん。
吐かねえと殺んぞコラァ!
おどれ極道なめてると痛い目会うぞゴラァッ!
と、いうたいへん上品なやりとりで。
なぜか兄ちゃんが銅貨を私に差し出し命乞いしたのは秘密です。
その結果わかったのは遊牧民の軍勢による略奪。
ステキなモヒカンとは別枠です。
ヒャッハー。
要するに市民の生活よりも治安優先だったのです。
しかたないですねー。
……って全部私の仕事じゃないですか!
しごとやだー!
きらいー!!!
街に入ると道にうずくまる男性が目に入りました。
それは懐かしい目をした男でした。
それは負け犬の目。
ただ侵略者に搾取されるだけの生活を漫然と受け入れる負け犬の目。
それは魔王をやっていた頃によく見た、魔族の皆さんと同じ目でした。
勇者に蹂躙されるのを黙って見るあの目です。
完全に負け癖がついてます。
私はその目を見て確信しました。
あかん。
この領地、想像してたよりも3倍ヤベえ……
私は頭の悪そうな顔で呆けると鼻水を垂らすのでした。
「シルヴィア。国からもらった補助金ってどのくらいありましたっけ?」
「一般的な地方の税収3年分なのだ」
「ぜってー足らないやん!!!」
「しかたないのだ!!!」
これは詰んでいます。
完全に詰んでいます。
ヤバいよ! ヤバいよ!!!
「……に、偽金です」
私は黒目を大きくして言いました。
「はい?」
「偽金作って予算を水増ししてどうにかしませう」
まずは洗浄した金貨を溶かして他の金属で薄めて、金貨と同じ形にして粗悪な金貨を作成。
それだけだと色でバレるので粗悪な金貨を温泉で煮て錆を作って……古く見せて……
んで行商人軍団を組織して他の土地で使って……うへへへへ。
あ、偽金作りなんて鋳造技術が未熟な世界だったらどこの地方でもやっていますからね。
バレたら死刑ですけどバレませんから!
「だからなんでお前はデタラメなのだ!!!」
シルヴィアがツッコミを入れます。
「偽札作りは魔王の基本スキルですがな」
「なんで貴様は犯罪に走るのだ!」
えー。
犯罪以外で稼ぐのって難しいじゃないですか。
超面倒です。
「じゃあどうすんのよ!!!」
「コツコツと治安改善と野菜の産地開発に開墾をすればいいのだ!!!」
「予算がねえー!!!」
農業だからお手軽やろが?
農業なめんなよ!!!
まず土木工事に超絶金がかかります。
土を盛るだけで国家が傾く規模のお金が必要です。
期間も30年から100年かかる夢の長期プロジェクト。
土木屋さんが三代食べていけます。
灌漑工事してー、治水工事やってー、農業用の水路作ってー。
ミミズに雑草食べさせるのでも家畜の出すのを発酵させるのでもいいので、肥料作る工場作ってー。
ウンコそのまま撒いたら作物枯れますからね!
とにかく焼くか発酵させるかしないと使い物になりません。
畑の方も土壌改良からやらないと使い物になりません。
全部混ぜっ返すとこから始めるとしてー。
それに作物作ったら作ったで、販路開拓にPRに輸送に……
加工しないと儲けが少ないから工場も作らないと……
なので街道整備しないとダメですよねえ。
んで冬に凍死者とか餓死者が出まくるので、その前にハウス栽培を開始してー。
促成栽培用の苗買ってー。
ハウス建ててー。
観光地化してー。
直売所立ててー。
ついでにキノコも栽培してー。
食堂作ってー。
ここまで来ると地酒も欲しいところですね。
酒があるなら旅館も欲しいわけで……
だったら温泉も欲しいなあ……
そうすると維持費だけで土地あたり現在の5倍は収穫しないと割に合わないわけでー……
こりゃ気がついたら組合とか銀行の奴隷になってるパターンだわ……
「うがああああああ! 金がいくらあっても足りんわ!!!」
「アキラメロ」
「ひでえ!!!」
「根性出すのだ!!!」
「根性なんてあーりーまーせーん! ブラック企業じゃあるまいし。逆さに振ってもそんなもん出てこねえよ!」
「きしゃまー! 我は内政は苦手なのだー!」
シルヴィアは脳筋なので内政は基本人任せです。
私だって戦時の国家運営なら経験豊富ですが、平時の地方公共団体の立て直しなんてしたことありません。
毒殺と謀略以外は苦手なのです。
「私だって文官に仕事分けないと死んじゃいますよ!」
「やったことありません」と正直に言えないところが私の欠点だと思います。
かなり真面目に。
「むきー!」
ぽかぽかぽかぽか。
シルヴィアが私を叩いてきます。
口より先に手が出るタイプです。
何度も言いますが効果音は『ぽかぽか』ですが構えも繰り出すパンチも本格派です。
ただ圧倒的に腕力が足りないのでダメージはありません。
「きーきーまーせーんーよーだ!」
やーいやーい!
「にゃにおー!」
はい、こうしていつものケンカが始まります。
こうして私たちは市場に売られていく子牛気分で領主の輩に運ばれていったのです。
到着前にすでに大ピンチ。




