ヤバイ・ヨ=ヤバイ・ヨ
あれから事件は錬金術師の実験からの暴発、犯人は行方不明ということになりましたとさ。
めでたしめでたし。
一件落着です……
ですが……
「アレックス。ほとぼりが冷めるまで国境の街で領主やりなさい」
と、王様が私へ言いました。
バレてる?
バレちゃってる?
突然呼び出されたのでおかしいなあと思ってたのです。
「えー……バレました?」
「この世界であんな真似ができるのは二人だけだろう」
なんと消去法でした!
そんな手があったとは……
こうして辺境への追放が決定したわけです。
ひどいわ!
なんたる暴挙!
さて、追放が決定されたので、私は恩人に挨拶に行きました。
私はちゃんとシルヴィア以外にも知り合いいるんですからね!
私は王城の一室を目指します。
あの方にお会いするのです。
私は王城の一室の前で足を止めます・
そして木のドアをノックします。
「師匠。アレックスです」
「お入りなさいませ」
私はドアを開けると敬礼をします。
ここにいるのはそれほどの人物なのです。
中には金髪のカツラを被ったおじいさんがいました。
彼こそ宮廷道化師、デュマ師匠です。
宮廷道化師とは非常に重要な役どころです。
とにかく王の目の前で王や有力貴族のパロディやコントをしまくるお仕事です。
噂も批判もなにもかも本人の目の前で正々堂々とギャグにします。
たまに笑いながらブチ切れてる貴族がいますが、身分の低い宮廷道化師に危害を加えるのは家名の恥になるので我慢しています。
あのツラを眺めるのは非常に小気味がいいものです。
なぜそんな人が必要なのか?
それは民の声を王や有力議員に伝えるためです。
民を置き去りにした政治は自分を見失いやすいです。
かと言って調査員や軍人、それに官僚に本音で語らせるのは難しいのです。
どうしても出世のためにストロベリートークになってしましますので。
ですので全力で小馬鹿にする役を用意しておくのです。
そして民の声やら少数意見、それに批判意見などをギャグにして伝えることで情報のバランス感覚を取ることができるというわけです。
非常にセンスと頭の回転を要求される頭脳職です。
デュマ先生は私のお笑いの師匠です。
官位や身分は低くとも素晴らしい人物です。
「師匠。今日はお別れの挨拶に参りました」
私は自然と涙があふれました。
なにせ相手はこの世界で一番尊敬する人です。
「アレックス様、どうなされたのですかな?」
そう言いながらその目は全てを知っていると言わんばかりでした。
それもそのはず、女官の噂話から貴族のロマンス、従騎士隊の昼の献立まで、師匠の耳に入らない情報なんて王城にはありません。
やはり師匠は人格者です!
「我らが主神ヤバイ・ヨ=ヤバイ・ヨのお力を見せようとしましたが、持病の痔のせいで……あそこで痔が切れさえしなければ! くっ殺せ!」
私は適当なことを言いました。
ヤバイ・ヨ=ヤバイ・ヨとは芸人ギルドが密かに信仰する神です。
その圧倒的なリアクション芸を武器にお笑いの神になったと言われています。
近年捏造された逸話ですが。
芸人ギルドでは神を理由にするときは、しょうもない作り話をするのがマナーです。
なんと素晴らしい文化なのでしょう!
近年捏造された文化ですが。
「ふぉっふぉっふぉ、もしや昨今話題の爆発事件ですかな?」
師匠はわざととぼけて私へ質問しました。
知っているよ。
そう言う意味なのです。
「ええ。体を張ったギャグでこの有様です。ほとぼりが冷めるまで辺境に身を隠すことになりました」
「ふぉっふぉっふぉ。いやあ、アレには笑わせてもらいました。怪我人もほとんどでなかったそうで、素晴らしいお手前です」
師匠は柔和に笑っていました。
でも実際は失敗したのです。
完璧な計画ではなかったのです。
ですが師匠は私を慰めるように言いました。
「素晴らしいギャグを披露されたアレックス様に私から餞別をお渡ししましょう」
「し、師匠!!!」
人の優しさが身にしみます。
師匠は私に小物入れを差し出しました。
「こ、これは……?」
中には古代埼玉語で『さいたまめいか じうまんごくまんじう』と書かれたペンダントが入っています。
……意味わからねえでなんとくなく古代埼玉語使ってやがるな。
「今日から貴方は真打ちに昇進です。そのペンダントは大陸中の芸人ギルドで貴方様が真打ちであるという証明になります」
「し、師匠おおおおおおお!」
私は号泣しました。
埼玉語の意味は華麗にスルーして。
とうとうこの日が来たのです。
私は真打ち昇進に、今までの血のにじむような努力に涙を流しました。
下ネタ百本受け身からはじまり、ヤバイ・ヨ=ヤバイ・ヨが得意としたリアクション芸を極めるための特訓の数々。
それが走馬燈のように蘇って来たのです。
なにかを成し遂げるというのはこういうことなんですね!
師匠はそんな私にハグをしました。
「ヤバイ・ヨ=ヤバイ・ヨのご加護を。アレックス様、赴任先でも精進してくだされ」
この場合の精進とはギャグのことです。
領主の仕事なんて知りません。
誰かに押しつけようっと。
私は魔王なのです。
リアクション芸を磨かなければ!
ざ、ザリガニを捕獲せねば!
あと熱湯風呂。
「し、師匠!!!」
「アレックス様ー!!!」
私たちは号泣しました。
そう師弟関係の繋がり。
その絆は強いものなのです。
「が、がんばります! 私は大陸一、い、いや、世界一の芸人になって見せます!」
「ええ。アレックス様ならその夢も成し遂げられることでしょう!」
素晴らしいです。
なんと感動的なのでしょうか。
なんと美しい光景でしょうか!
これこそ心の繋がりというものなのです。
……ところがこういうときに限って冷や水を浴びせるものがいるのです。
「領主が芸人になってどうするのだ!」
私たちに声をかけたのはシルヴィアでした。
……音も立てずに現れて背後を取るのはやめなさい。
「我々は魔王ですよ! お笑いの道を目指してなにが悪い!」
「『魔王』と書いて『げいにん』と読むのはやめるのだ!!! つか貴様は貴族だろうが!」
人の存在と夢を全否定!!!
酷いヤツがいます!
「ほう、シルヴィア様は天からツッコミの才能を与えられたお方でしたか……」
「ええ。天性のツッコミです!」
なんたって相方ですから。
私はキラキラとした目をしながらサムズアップしました。
「そ、そんな目で見るななのだ!」
きらきらきらきらきら。
「う、ううううううう」
よし!
もう一押しです。
「一緒にお笑いコンビを結成しましょう!」
「死ねなのだー!」
シルヴィアは逃げ出しました。
あの感触だとあと一押しというところです。
追放先で説得すれば落ちることでしょう。
なんたって時間はいくらでもありますから!
ふはははは!
これが我々が追放されるまでの出来事です。
たしかに自業自得かもしれません。
調子に乗りすぎたのは事実でしょう。
でも後悔はしてないのです!




