スラム街
私たちは涙目で逃げました。
そして、やっとこさスラム街につきます。
ちなみにゴーレムはその場で塵に戻しました。
証拠隠滅は完璧なのです。
「うううう。なんかここ嫌いなのだ。危ないのだ!」
シルヴィアが泣き言を言ってました。
この引きこもり娘が。
あんたより危険な生き物がいるはずないでしょ!
「ひゃっほー! 良いもの着た連中がいるぜー!」
品の悪そうな酔っ払いたち……というか露骨にヒャッハーな連中が私たちを見てやって来ました。
「お嬢ちゃんたち。駆け落ちでもしてきたのかなあ?」
気の早い強盗はもうナイフを抜いていました。
あ、そう。
そう言う態度。
あっそう。
ふーん。
あんたら雑魚丸出しですからね。
「身ぐるみ置いて……げぶら!!!」
私は問答無用で強盗の一人に飛び蹴りを食らわせました。
そして流れるような華麗な動きで酔っ払いの髪の毛を掴みパンチを食らわせ、もう一人へ放り投げました。
私が手を開くと髪の毛がぱらぱらと落ちていきました。
「今機嫌が悪いんです。なめてるとぶっ殺しますよ」
やりすぎじゃないか?
それは違います。
これは被害を最小限に食い止めるための交渉です。
その手段しての脅迫です。
脅しというのは殴ってから言うものです。
これこれこういう戦力がありますよ。
あなたたちが襲うにはリスクが高いですよ。
一発で滅ぼさなければ倍返しですよ。
そこまでする必要はないでしょ?
痛い目に遭いたくなければやめときなさい。
それが交渉です。
人道を唱える権利があるのは常に勝者の側です。
ですのでまず最初にこちらの戦力を見せることが肝心なのです。
特に想像力の働かないバカ相手には。
「や、殺れ! 殺っちまうんだ!」
シルクハット親父が両手に持った斧を私へ振り下ろします。
私は華麗に斧を避けると親父の首にラリアット。
首を刈ります。
完全にへし折るスピードです。
三回転しながら親父が転げます。
次に壁にジャンプ。
壁を蹴り三角飛び。
そのまま空中で回転。
ナイフを持った男の頭上からシューティングスタープレスで襲いかかりました。
ぬはははは!
「げびゅううううううッ!」
シルクハットごとぶっ潰しました。
次の犠牲者は誰だー!!!
私はそのままバク転をしながら、いち早く逃げようとしたハゲ親父へ迫ります。
ふは!
ふはははははははは!
「よ、よせ! 来るなあああああああああ!」
泣きながら叫ぶ親父の前でバク宙。
親父を飛び越しバックをとります。
そのまま腰に手を回しホールド。
後方にブリッジしながら放り投げます。
それは見事なジャーマンスープレックスでした。
私の暴虐はまだ終わりません。
にやあっと笑うと、今度はナイフを持った酒臭い親父へ回転しながら迫ります。
回転しながら私は両足を相手の足に挟み倒します。
タイガースピンですとも!
ダメージ?
そんなもの知りません。
全員見せ技で倒してやるのです。
酒臭い親父が受け身もとれずに戦闘不能になると私は新たな犠牲者を求めました。
「SSD! SSD!」
私は不吉な事を口走りながらリーダーらしき赤髪ににじり寄ります。
「ひいいい! く、来るなああああああああああ!」
でたらめにナイフを振り回す赤髪に鳩尾に私のトゥーキックが炸裂します。
「ぐっは!」
私は腹を押さえてうずくまる相手をブレーンバスター状に抱え上げました。
そしてそのままパイルドライバー!
スタイナースクリュードライバー(SSD)です。
プロレスでもマジで死人が出る技です。
不思議なことにどの世界に行ってもこれらは同じ技なのです。
赤髪が煉瓦に突き刺さりましたが、たぶん死んでいません。
明るく楽しいプロレスを目指していますので。
残酷?
いえいえ。
彼らが襲いかかったのが転生勇者だったら問答無用で斬り殺されますよ。
首チョンパですからね!
相手が魔王だからこそ意味不明な技で沈められるだけですむのです。
……そういやまだスタナーとフルネルソンスープレックスやっていません。
でも……まだチンピラはいっぱいいるようです。
ふはははははは!
「ひいいいいいいい!」
蜘蛛の子を散らすようにチンピラは逃げていきました。
ちぇー。つまんない……
でもいいや!
アホどもが、魔王の力を思い知ったか!
と、勝ち誇ったのが悪かったんですよねえ。
「動くなこの野郎! これが見えないのか!!!」
シルヴィアが、残った一人にがっつり捕まってました。
ポコポコ叩いて抵抗しています。
腕力ないのでこうなるんですよねえ。
シルヴィアさん。
魔法でやっちゃってください。
「うううううううううう! 触るななのだー!」
シルヴィアは涙目です。
あれ?
様子がおかしいです。
あー!
そうか!
容易く捕まっちゃってサムライとしてのプライドを傷つけられたのか!
……まずい!
私は背筋が凍りました。
「にゃああああああああああああああッ!」
それは一瞬の出来事でした。
シルヴィアが光りました。
そして、一目でたらめだとわかる巨大魔方陣が出現します。
ええ。
私による数々の特訓で、魔力が半端なく増大したあげくに、どこまでも複雑かつ難解になった魔方陣です。
私はそれを見て思いました。
あーもう無理だ。
これの解除は無理だわー。
そして魔方陣から魔力がスパーキンッ!
ズゴゴゴゴゴゴゴ!
もう知りません。
私悪くないもん。
たぶん悪くないもん!
私は首を振ります。
だめだ!
もうダメだ!
そして魔方陣が光りました。
それが王都からスラム街が消えた瞬間でした。
現在王城は、炊き出しとチャリティが流行しています。
被災者300人。
倒壊した建物約100。
外部には局地的な地震と苦しい言い訳がされました。
器用なことに私の火薬もシルヴィアの魔法も死人は出しませんでした。
たとえ出たとしても誤魔化しましたとも。
でも気づいちゃう人がいるんですよねえ……




