ごんだむ
「アレックス何をしているのだ」
鶏肉にがっつきながらシルヴィアが言いました。
そこは城の中庭。
私はシルヴィアの魔力でゴーレムを製作しています。
「シルヴィアちゃん。火薬って楽しいですね」
「うん? どうしたのだ?」
「火遊びしましょう♪ はい魔力の出力上げて!」
そう言いながら私はセラミックコーティングをしていきます。
カッチカチのゴーレムのできあがりです。
「な、何をしているのだ……」
「うん。シルヴィアちゃん。塩素酸カリウムって知ってます?」
そう言う私の目はドブのように濁っていたそうです。
「爆薬だな……なにを考えている?」
塩素酸カリウムは要するにすんげえ火薬です。
花火、マッチ、混合爆薬に使われます。
工業科時代ですとカリウム肥料に含まれているので肥料から爆弾を精製できます。
ここでは一から作らなければなりませんが、私は雷撃魔法が得意なので問題ありません。
電気分解やイオン化などお手の物です。
と言っても大量には作れません。
残念なことに軍隊の装備を揃えるのには向いていません。
どんなに私の技術があっても職人は必ず必要になります。
でもこのときは関係ありませんでした。
コストを気にしないで嫌がらせだけに全てをかけることがでたのです。
「うけけけけ! うけけけけ! 邪魔者はぶっ潰す! それが魔王ですよ!」
「ば、バカがいるのだ……」
シルヴィアうるさいです。
こうして私は大司教への報復に着手したのです。
◇
きらりん♪
カッチカッチのゴーレムが光ります。
ゴーレムの肩には二門の砲台……じゃなくて花火の発射台が光りました。
名付けてゴンキャノンです。
そのうちゴンタンクも作ると思います。
なぜかその時はゴンダムも作らねばならないような気がします。
「実力のあるバカが本気を出すとこうなるのだ……これだから世界は平和にならないのだ……」
うるさいです。
私は濁りまくった目で大聖堂へ赴くのでした。
大聖堂は市街地にあります。
さて監禁されているはずの我々がどうやって市街地に出て行けたのか?
それは簡単です。
トンネルを掘りました。
ちゃんとシルヴィアの魔術でわからないようにしてるのでセキュリティも問題ありません。
「いいですか、シルヴィア。これは夏のDQNがコンビニで買った花火でヒャッハーしたという設定です」
「コンビニはこの世界にはないぞ。つうか、そんなバカでかい打ち上げ花火はどの世界でも売ってないのだ」
「じゃかしゃー! それだったら魔法使いがヒャッハーです!」
シルヴィアは意外に冷静です。
なぜ私がこのような凶行に出たのか。
ムカついたから懲らしめてやろうと……げふんげふん。
じゃなくて、「お前らに大人しく従う人間だけじゃねえんだぞ」という意思表示です。
どこの世界も一神教の教会は相手が言うことを聞いてくれるのが当たり前だと思っています。
長年のそうだったので、未来永劫誰もが言うことを聞いてくれると思ってやがるのです。
ですので、少し嫌がらせをしてやろうということです。
テメエらが賭けているのは自分自身の命だと再確認させるわけです。
これでも穏便なんですよ。
世界にはもっと怖い組織がたくさんあるんですからね。
バレたら恐ろしいだろ?
いえいえ大丈夫です。
なあに長年恨みを買っている組織です。
それこそ容疑者は山のようにいます。
犯人を絞り込む事なんてできやしません。
「あのな……もっと穏便な手があるだろ?」
「じゃあ、塩化カリウムで心臓止めた方がいいですか」
私は虚ろな目で言いました。
塩化カリウムは現代という時代では死刑囚の薬殺にも使われる劇薬です。
経口でも静脈注射でも相手を抹殺することができます。
何度か飲まされた経験から言うと、苦いので経口はオススメしません。
その代わり死因は心不全で、この世界の科学力なら自然死と判定されるでしょう。
毒殺にはされる方で豊富な経験がある私は、ありとあらゆる毒殺を知ってます。
いいのですよ。
ぶっ殺しても。
大司教といえども巨大組織の歯車にしかすぎません。
教皇だろうがなんだろうが、巨大組織は上から下まで歯車にしかすぎないのです。
私は連中一人一人に命を狙われる恐怖を教えあげてもいいんですよ。
憧れの自堕落人間ライフの邪魔をするものは全員排除します。
そのために手を汚すのを恐れてなんかいません。
「私は別に殺してもいいんですよ。後始末は全部王家にやってもらいますから」
「……なんか悪かったのだ」
シルヴィアが可哀想な生き物を見るような生暖かい目をしました。
いいもん。負けないもん。
私はシルヴィアの態度を肯定したと取りました。
明確に否定しない限りは肯定と取ってもいい。
詐欺師の思考ですがなにか?
さてコンセンサスはとれました。
作戦開始です。
「花火発射ぁーッ!」
ゴーレムキャノンが火を噴きます。
シュルシュルと音を立てながら花火が上がりました。
そして空にまばゆい光と爆発音が響きました。
こんな明るい花火はこの世界にはないでしょう。
私はゲス顔で花火を眺めました。
「うけけけけけ!」
思わず笑いが漏れました。
数発発射すると本命の出番です。
「コルダイトキャノン発射ぁーッ!!!」
「っちょ! 今なんて!!!」
シルヴィアの焦った声など聞きません。
コルダイトとは簡単に言うとニトロです。
石けんを作る過程で発生するグリセリンを硫酸と硝酸でほにゃららするとニトロが作れます。
次に硝酸と硫酸をほにゃららして、繊維に浸して乾燥させたニトロセルロースを作ります。
そして森で採取した栃の実をほにゃららして精製したアセトンを作ります。
それらをほにゃららするとコルダイトの完成です。
大人の都合でほにゃららだらけですね。
コルダイトは無煙火薬の一種で火薬よりは煙や光が小さいのです。
ですので花火に混ぜれば……
うふふ、秘密。
ちゅどーん!
無煙火薬の砲弾が発射されました。
砲弾は大聖堂の壁に向かい突き進みました。
私の目標は壁です。
壁をぶち壊すつもりです。
ところが……
どこどこどこどこー!
「はい?」
ここで誤算が生じました。
砲弾は壁に炸裂し爆発しました。
そしてその爆発は壁だけではなく大聖堂にまで炸裂。
大聖堂の二階の壁を破壊し、中の全てをぶち壊しました。
うわーお……穴が空いてます。
石造りがこんなにもろいはずが……
ああそうか!
現代の強度で考えていた!
えー……強度計算を間違えました……
「にゃーッ!!! お前なにしてんのだ!!!」
「う、うおおおおお! シルヴィア逃げますよ!!!」
私たちは泣きながら逃げ出しました。
やっべ、やりすぎた!
大事件になったわ。
「どどどど、どうするのだ!」
「う、裏道を使いますよ! スラム街を抜けて逃げましょう!」
こうして私たちの逃亡が始まったのです。




