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舞踏会

 普段、王城に監禁されている我々も仕事という苦行からは逃れられません。

 それが夜会やら舞踏会です。

 とうとう私も16歳。

 騎士団やら官僚の見習いになってないとおかしい年齢です。

 同年代はもうすでに騎士団に入ってるにも関わらず、私は相変わらず王城で監禁されるニート生活です。

 名目上はシルヴィア殿下(笑)の側近ということになってますが誰がなんと言おうとニートそのものです。

 そのせいか人格的に問題があるのだろうと思われているようで、誰も話しかけてきません。

 ゆえに私は常に壁の花でした。

 って今は男か。

 壁の花は違いますね。

 言い換えましょう。


 ぼっちでした……


 すごくつまらないです。

 かと言って、親と一緒にいるのも気恥ずかしいものです。

 私はボケッとしてました。

 それにしても今日はやたらとこちらを見ながら噂話をしています。

 えー感じ悪いので直接言ってください。

 私はこちらを見てひそひそ言ってた連中全員を脳内の復讐ノートに書き記しました。

 いつか泣かせてやる。

 会場では円舞曲(ワルツ)が流れ、紳士淑女が踊っています。

 練習させられたせいか曲がリズムにしか聞こえません。

 ぜんぜん楽しくありません。

 私以外はみんな楽しそうです。

 私は静かにキレていました。

 人という生き物はどこまで残酷になることができるのでしょう?

 なぜ人はペア強制という悪辣な嫌がらせを考えつくのでしょうか?

 きっと、お一人様は死ねという意味に違いありません。

 誰も組んでくれない人間に少しは優しくしろやボケェ!

 ムカついた私は生演奏で流れる美しいワルツへ八つ当たりすることにしました。

 頭の中でヘッドバンキングとデスボイス、それにエレキーギターをかき鳴らしブラストドラムがドコドコと心臓に響く曲を流します。

 ドコドコドコ! うぼー! おーがえってんばー! どぼぼー! あぎゃー!


「これはアレックス様!」


 無意識に小刻みにヘッドバンキングしていた私へ声がかけられます。

 少しビクッとしたのは内緒です。


 それは品のいいシャツに勲章をジャラジャラつけた紳士でした。

 有力貴族、エレル卿です。

 親父と同じ派閥の人なので、一人でいる私を哀れんで話しかけてくれたのでしょう。


「これはこれは、エレル卿。お久しぶりです」


 私は、ギターソロの真っ最中だった脳内曲を一時停止し、何事もなかったようにエレル卿へ挨拶しました。


「さすがの令嬢たちもアレックス様にはお声をかけるのは勇気がいる様子ですなあ」


 はてどういう意味でしょう?

 あ、そうか。

 いじめっ子はいじめられっ子に一人で接触するのを避けますものね。

 襲撃されますから。

 おそらく女子の陰湿なイジメのターゲットが私に移ったという意味でしょう。

 雑巾絞り汁配合のお茶ですね。

 よくわかります。

 私は会場を見回しました。

 なんか女子どもが私を見ています。

 私はそれに笑いかけます。

 喧嘩を売ってきたに違いありません。

 微笑んで隙を見せたところに攻め込むのです。


 それが壮大な勘違いだと気づいたのはずいぶん後のことになります。


「でもアレックス様にはシルヴィア様がいらっしゃいますからなあ! 乙女たちは恋が始まる前から負けていると言うことですな。はっはっは!」


 このとき私は「全く意味がわからん。なんでそこにシルヴィアが出るんじゃい?」と間抜けなことを思ってました。

 シルヴィアは女であるという認識すらしてなかったのです。

 だって3歳から知ってるんですよ。

 漏らしたパンツを証拠隠滅するために洗ってやったこともあるんですよ!

 しかも元武闘派魔王ですよ。

 そんな相手を女として考えろって、いくらなんでも無理ゲーでしょ!

 私は喜怒哀楽のどれにも属さない微妙な表情をしてました。

 どんな顔をしていいかわからなかったのです。

 私が微妙な表情をしていると、突如拍手が鳴り響きました。


「シルビア殿下のおなーりー」


 司会が大きな声で言いました。

 シルヴィアがあらわれた!


 たたかう

 まほう

 どうぐ

 にげる

 どげざ

 ぜんら


 じゃねえよ!

 私は妄想を振り払いました。

 美しいドレスに身を包んだシルヴィアが上品に微笑んでいます。

 私はシルヴィアにマナーを叩き込みました。

 よし。

 間に合った。

 ここで尻かいたら拳骨落としますからね!

 肉も取ってやりませんからね!

 それにしても高そうな髪飾りですね……

 ドレスも売ったら良い値がつくに違いありません。


 シルヴィアは微笑みながら私の方へやって来ます。

 他の連中に話しかけられたら人見知りモード発動であうあう言うからです。


「うふふ。アレックス様」


 猫なで声でシルヴィアが言いました。

 手を差し出しています。

 鳥肌が立ちました。

 悪い意味で。

 っちょ、なにこれ怖い。

 私は怖い思いをしつつも流し目になったあと、(ひざまず)いてシルヴィアの手に口づけをしました。

 なにこの晒し者。

 あー……もう逃げていいですか。


「シルヴィア様、私とダンスを踊っていただけませんか」


 奥歯キラン!

 我ながらキモいです。

 なにこの魔王殺しプレー。


「ええ、もちろん」


 こうして我々は踊りました。

 踊りながら思い出すのは、宮廷ダンスを死ぬほど訓練したあの地獄の日々。

 我々はお互いに見栄だけは一丁前にあるので恥をかかないように、それはそれは激しく練習しました。

 お互いに罵声を浴びせ、怒鳴り、椅子を蹴飛ばし、私だけがブン投げられました。

 髪の毛つかまれて、噛みつかれて、引っ掻かれましたとも!

 常に私の被害が大きいのはどうしてでしょうか?

 我々は絶対にペア競技に向いていないと思います。

 体育会系のノリでの練習は功を奏しました。

 ええ、それはそれは美しかったと言われました。

 元の私たちを知っている王様夫妻とうちの両親だけが、まるで可哀想な生き物を見るような生暖かい表情をしてました。

 ちょっと説教するからお前ら全員正座しろ。

 私が内心ブチ切れていると王様が立ち上がりスピーチをします。


我が子(・・・)たちのお披露目である! 皆楽しんでくれ!」


 この時の私は、「我が子たち」の意味を超好意的に解釈してました。

 昔から王城で育ってるから息子みたいなものと。

 実際はもっと意味深だったのですが、それに気づくのは追放になってしばらくしてからです。

 こうしてお披露目は終わり、あとはまた懇親会です。

 ここでは政治的な話や黒い談合などが行われます。

 この世界有数のどす黒い場と言えるでしょう。

 ちなみにシルヴィアはお披露目が終わるや否や「体調がすぐれませんの」とかと言って逃げました。

 知らない人と話をするのがいやだったに違いありません。

 あのヒキコモリめ!

 王様も止めません。

 パニック起こして魔力が暴発したら死人でますから。

 まあいいでしょう。

 私も適当なところで逃げよっと。

 その前に料理をくすねてこなければ。

 シルヴィアに肉を持っていくと約束しているのです。

 あーめんどくさ。

 と、思った私にあの事件が襲いかかるのでした。

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