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THE お説教

「アレックス様。なにかございましたか」


 ゼスさんが言いました。

 その顔には完全に『疑っています』と書かれています。

 このシチュエーションだとバカ丁寧な口調も嫌味に聞こえてきます。

 被害妄想ですがなにか?


「私はよけいな殺生は好みませんが領地近くの怪獣は討伐せねばなりません。戦略を考えるのに時間がかかってしまいました」


 きりッ!

 もちろん大嘘です。

 ただ単に忘れていただけです。


「……アレックス様」


 それはまるで人間として成長した息子を見るような目でした。

 こ、心なんて痛まないんだからね!


「では、計画を発表します」


 私は作戦図を机に広げました。


「こ、これは……」


 ゼスさんが息を呑みました。

 そこには『貸借対照表と損益計算書プリーズ』と書いてあったのです。

 つか私が書きました。

 よく考えたらバトルばかりでここの経営をちゃんと見てなかったのです。

 金はモンスター倒して得た宝石でどうにかしてましたし。


「いやー内政(NAISEI)忘れてました」


 てへぺろ。

 シルヴィアと2人で舌を出しました。


「……お前らそこに正座しろ」


 それは地獄から響いたかのような声でした。


「あのゼスさん」


「アレックス様。シルヴィア様。人間には我慢の限界というものがあります」


 ゼスさんはにっこり笑っていました。

 ただし、こめかみに血管が太く浮き出てピクピクしています。

 まずい!

 ぶち切れていらっしゃる!


「はい」


 正座っと。

 シルヴィアも無言で正座しました。


「情報の開示をなさい。あなたは何者なのですか?」


 ゼスさんの言葉に私はだらだらと瀧のように冷や汗を流しました。

 直で来やがった!

 さてどう言ってごまかしましょうか。



 1. 「魔王でしたーテヘペロ♪」と、正直に言う


 2. 「転生したら不遇職が無敵なのを発見したので俺TUEEE!」と嘘に嘘を重ねてみる


 3. 「あれっくすちゃん、まだ17ちゃいだからわかんない」とバカのフリをする



 どれもまずそうです。

 特に3はすでに失敗しています。

 やべえ。

 どれも怒られる!

 超怒られる!

 怒られる未来しか見えない!

 私が死を覚悟したその時でした。

 悪魔的アイデアが頭に浮かんできたのです。


「そうですねえ。ゼス叔父さんの正体を教えてくれたらいいですよ。ね、シルヴィア」


 私はにやあっと笑いました。

 素直に叔父と名乗れないなんて大きな秘密があるに違いありません。

 言えねえだろ!

 なあ言えねえだろ!

 ヒャッハー!


「そ、そうなのだ! ゼスも秘密があるのはフェアじゃないのだ!」


 シルヴィアも参戦しました。

 よっしゃ!

 相手が言えない条件を叩きつけてウヤムヤにするのです!

 私、天才!


「……いいでしょう」


 ……あっけなく失敗しましたとさ。

 めでたし。めでたし。


「と言ってもよくあることです。非嫡出なので養子に出され騎士になった。それだけです」


 今さらっとヘビーな話が出てきたな。おい。

 翻訳すると「じいちゃんが愛人作って子どもできちゃった。うちって結構身分高いし遺産とか跡目で争いとかされたら困るから養子に出したよ」です。

 じじい……たしかに貴族的家族運営(マネジメント)としてはアリでしょう。

 じじいも、ばあちゃんも、すでに故人です。

 二人とも死んでいます。

 ですので、ばあちゃんが愛人とその息子を謀殺するようなファンキーな性格かはわかりませんが、なるべくリスクを避けたということでしょう。

 ……気に入りませんね。

 生きてたらマウントパンチの刑です。


「えっと……すいません」


 ストロベリートークに切り替えましょう。

 こういう重いのは苦手なんですって!


「いえ。ここの騎士団長として赴任して怪獣騒ぎで困ってた所、アレックス様のお父上……兄上から『ウチの息子なら怪獣をどうにかできるだろう』という手紙を頂いたのです」


 あー。

 うちの親父……この領地のこと知ってやがったな。

 それで私たちに自由に暴れられる場を提供したと。


 私たち → 領地で暴れてストレス発散


 親父とか王様(シルヴィアパパ) → 厄介払い&怪獣問題解決


 WIN&WINですね。

 よくわかります。

 ……あの狸親父!

 私は実家の背の低い父親がゲラゲラ笑うツラを思い出しました。

 こんなことなら絵画とか壺とかもパクってくれば良かった……


「わかりました……私が何者か正直に話しましょう……」


「では椅子にお座りください」


 待遇がいきなり変わってやんの。

 ……あ!

 私はようやく気づきました。

 恫喝も重い話も交渉を有利に進めるための布石か!

 このとき私は血の繋がりというものを確信しました。

 だってウチの一族のやり方ですよ。こういうセコイの。


 私は椅子に座ると正直に話を始めました。


「私とシルヴィアは前世を覚えてるんです。二人とも異世界の魔王でした」


「魔王。おとぎ話に出てくるあの魔王ですか」


「……たぶん? と言ってもおとぎ話とは違って私はただの政治屋ですけどね」


 ホント私はただの政治屋です。

 どこかの利権を自分の所に移すのがお仕事です。

 100年先を見据えての国家運営?

 知らんがな。

 技術革新によって一瞬で吹っ飛ぶような計画なんぞ官僚に丸投げです。

 頭いいんだからそれくらいできるでしょ?(鼻の穴に人差し指を突っ込みながら)

 国家という暴風雨の中では政治家など木の枝にしかすぎません。

 どんなに太くても運が悪ければ風に煽られボキンと折れるのです。

 いいんですよ!

 自分の生きてる間だけどうにかなれば!

 ちなみに「魔王様、戦争になるとみょうに生き生きしてますね。顔もツヤツヤ……」とよく言われますが、私は平和主義者です。


「あのな……ゼス。魔王と言ってもだな、生まれがなんとなく魔族側と言うだけでな……」


 しどろもどろになりながらシルヴィアが言い訳を始めました。

 相変わらずシルヴィアの説明はヘタクソです。


「承知いたしました。とりあえず信じましょう。そうでもないとあなた方の異常な力を説明できませんから……」


 ゼスさんはため息をつきました。

 あれ?

 それだけ?


「あの……退治しなくていいんですか? 愛と正義と人類のためにーとかわけのわからないこと言いながら」


「シルヴィア様とアレックス様を退治する理由がどこに?」


「いや魔王ですよ。私たち怖いんですよ!」


「そうだぞ! 怖いんだぞ!」


 私たちはよくわからないことを言いました。

 ゼスさんのその淡泊な態度に逆に焦ったのです。


「今は人間なんでしょう? 人類を滅ぼすとか言いだしたら、考えを変えるまで拳骨落としますので」


 ぎゃー!

 それはらめええええええ!

 ゼスさんの拳骨痛い!


「せいぜいアレックスが教会を滅ぼすくらいですませるのだ」


 シルヴィアー!!!

 っちょおま、裏切ったなー!


「まあいいでしょう」


「いいのかい!」


「ええ。教会は簡単に滅ぼせるような存在ではありません。なにしろ神がそれができるのならアレックス様は神を越えた存在と言うことでしょう。だとしたら、もはや私如きが止めることはできないでしょう」


 やはり我が一族……思考方法がすっげえ論理的です。


「とにかく敵対勢力以外には迷惑をかけないこと。このゼスとお約束できますね」


「ひゃ、ひゃい!!!」


 て、敵対勢力にはなにしてもいいんだもんねー!

 言質取ったもんねー!

 と、心の中だけで勝ち誇る私にゼスさんはさらに質問をします。


「それで……巨大怪獣に心当たりはございませんか?」


 ここは正直に答えましょう。


「全くありません。だいたい怪獣騒ぎの内容すら知らされないでここに運ばれてきたんですよ!」


 これは本当です。

 なぜこうなったのか?

 それが一番の問題なのです。


「そうですか。それではもう一つ……これにお心あたりはございませんか?」


 そう言うとゼスさんは懐から袋を取り出しました。

 そこには「業務用くとぅるふ印のたこ焼き」と印刷されていました。

 あ、それまーくんのところで買ったやつだ。

 安かったので大量に買って村に配ったんだっけ。

 畑を焼かれてしまったので食料が必要ですからね。


「シ、シリマセンヨ」


 ここは嘘をつきましょう。

 まーくんのことは内緒にしておくべきです。

 完全に反則技ですからね!


「配ったのはブラック企業株式会社という組織だそうです。他にも小麦粉や様々な品を配っているそうですが……」


「それは素晴らしいことですね! ステキー!」


 私、天才!

 なんて偉いんでしょう!

 褒めて褒めて!


「す、すごいのだ。世の中には凄い人もいるのだ」


 シルヴィア、ナイスアシスト!

 若干棒読みですが。


「……素晴らしい人がいるものですね。ところでこの袋に書いてある『ハバムートショッピングプラザ』とはなんでしょうか?」


「さ、さあ? そんなビニール袋なんて知りません。ねえシルヴィア?」


「そ、そうなのだ! そんなビニール袋なんて知らないのだ!」


 シルヴィアの目は泳ぎまくってました。

 こいつ嘘つくのヘタですねえ……

 私はいつもシルヴィアから悪事がバレて怒られていたのを思い出しました。


「ほう……この袋はビニール袋というのですか……見たことも聞いたこともない素材ですね」


 やってもうた!

 おっと私も嘘が下手だったようです。


「なぜアレックス様もシルヴィア様もご存じなんでしょうか? 説明をお願いします」


「……も、黙秘します」


 ゼスさんが睨んでいます。

 私は脂汗を流しまくりました。


「もう一度言います。説明をお願いします」


 ゴリラの拳が光ります。

 拳骨いやあああああああああッ!

 ゼスさんの拳には「魔王キラー」の効果がついてるに違いないんですって!

 もう!

 あれしかない!


「ふ……ふははははは! よくぞ嘘を見破った勇者よ!」


 私は両手を挙げた魔王っぽいポーズを取りました。

 よしごまかせた!

 ですがゼスさんはそれを見て……大きく振りかぶり。


 ごちん。


 はうわ!

 それは拳骨でした。

 擬音は「ごちん」ですが私の頭の中では「ドゴドゴドゴデストローイ!!!」でした。

 容赦のない爆撃に視界がシェイクされます。

 い、痛い!


「全て話してください」


「……はい」


 こうして私たちは生い立ちからまーくんのことまで洗いざらい話すことになったのです。

 ……自主的に正座に切り替えて。

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