え? そういうルールなの!?
「めええええええええッ!」
ヌイグルミの目が光り口を開けました。
ビーム!
いや違う!
「めえええええ!」
口から小さいヌイグルミが次々と降りてきました。
いやいやいやいや!
子どもの落書きみたいなヌイグルミの集団。
シュールすぎです。
彼らはいったいどういう攻撃を仕掛けてくるのでしょうか……
……いやちょっと待てよ!
「全員退避!!!」
私は叫びました。
「え?」
と、間抜け面を晒した兵士さんの背にヌイグルミが貼り付きました。
あ、やっべえ……
私は急いで兵士に駆け寄りました。
「めえええええッ!」
ヌイグルミがだんだん赤くなります。
そして最後に光りました。
そして爆発。
ちゅどーん。
私たちは吹き飛ばされます。
でも流石は伝説の防具。
兵士さんは気絶しただけです。
私は吹き飛ばされた衝撃で岩に頭をごっつんこ。
私だけ重傷です。
「いでーよー!!!」
ですが世の中とは残酷なもの。
常に驚異的な生命力で乗り切ってきた私の心配など誰一人としてしません。
「なにサボってんすか! さっさと戦ってくださいよー!」
若い兵士の罵声が飛んできました。
「見てくださいよ! 血が出てるんですよ! すごく痛いんですよ!」
「へー。まあアレックス様だったら大丈夫でしょ」
それはお腹痛いと言い張って学校をズル休みしようとする中学生にお母さんがかけるような冷たい声でした。
冷たいです。
慣れというのもはこうにも残酷なものなのでしょうか?
私はなにも悪いことはしてないはずです。
これも全てリア充どもの陰謀に違いありません。
「小さいヌイグルミに気をつけてください! 爆発します!」
私は檄を飛ばします。
あとは部下達を肉の壁に……おっと本音が漏れてしまいました。
なあに伝説クラスの装備です。
大きな怪我はしないはずです。
吹き飛ばされて岩に激突とかでない限りは。
根に持ってますがなにか?
ヌイグルミの大群ががこちらに向かってきました。
肉ディーフェンス!
私はほくそ笑みました。
ところがヌイグルミはなぜか兵士さん達をスルー。
真っ直ぐ私へ向かってきます。
あっれー?
「っちょ! なんで私に向かって来るんですか!」
私は必死こいて逃げます。
まるでアクション映画の主人公のように。
ちゅどーんどごーん。
炎、爆発、炎。
「一番強そうなのを潰すつもりじゃないか?」
シルヴィアの冷静なツッコミが背に刺さりやがります。
な、なんだってー!
「っちょ! 私は弱いんですって! 一番弱いんですから!!!」
ちゅどーん!
「ひぎい!」
泣きながら逃げる私の後ろで爆発音がします。
ちゅどーん!
「ら、らめえ!」
ちゅどーん!
どごどごどごどご!
「ばかになっちゃうー!!!」
ちゅっどーん!
「しゅ、しゅごーい!!!」
私はとうとう吹き飛ばされました。
ダブルピースで。
私は最後の力を振り絞った夏のゴキブリのように器用に着地。
反撃をしようと目を血走らせました。
「ゆ、許さぬ! 許さぬぞ! このリア充どもめが!」
私は勇者にだけは負けられないのです。
冷静に考えたらただの八つ当たりなのはわかっているけど辛い現実は見えないのです!
「おーい、大丈夫かあ?」
相棒が空を飛んできました。
華麗に空を翔る相棒と、地を這う私。
この格差はどこからやって来たのでしょうか?
「久しぶりにキレちまったぜ……」
「常にキレてるのだ……」
「っく! そんな……バカ犬みたいに……」
「お前がバカなのは誰もが知ってるのだ……」
シルヴィアの冷静なツッコミが私のハートに刺さります。
ひ、ヒドス!
「ギャハハハハハハハハ!」
私がくじけそうになっていると大きいぬいぐるみが私に指をさして大笑いしてました。
心ぽっきり。
「く……くふう。どいつもこいつも……オラは怒ったぞー!!!」
私は全ての気を解放しました。
ゆ、許さねえ!
な、泣いてなんかないもんね!
「久しぶりにキレちまったぜ……」
「常にキレてるのだ」
「……」
「急に黙るな。なのだ」
どいつもこいつも何度も何度も同じ指摘を!
だ、だ、だ、誰がキレ芸人じゃい!
もう! どいつもこいつも!
キレた私はその辺の小さいヌイグルミを拾うと本体に投げつけました。
ただ単にムカついたので嫌がらせ目的です。
おどれぼけー!
「めえええええええええッ!」
光るヌイグルミが爆発。
大きいヌイグルミが崩れ落ちました。
お?
「うん? 効いてる?」
「そういうルールか……」
どうやらゲームなんかのボス戦、それが目の前で行われているようです。
「ああ。これはアレですね。ピコピコであるやつですね」
「おじいちゃんかお前は……」
侍におじいちゃん扱いされた!
ちょっとしたギャグなのに!
とりあえず攻略法はわかりました。
あとは命令するだけです。
「赤くなったヌイグルミは爆発します! それ以外のを拾って大きいのに投げつけてください! シルヴィアは引き続き待機!」
兵士さん達はヌイグルミを拾っては投げつけます。
ちゅどーん!
「めええええええええええッ?」
だからなんだよその疑問形!?
バカなの?
死ぬの?
と突っ込んでいる暇はありませんでした。
相変わらず小さいヌイグルミは私を爆殺しようと迫っていたのでした。
っちょ!
なんで兵士さんスルーして私の方へ来るのよ!
っちょ!
なんで!
ひいいいいいいいいいいっ!
私は必死こいて逃げます。
死ぬ気で逃げます。
ちゅどーん!
「アレックス様が引きつけている間に本体を攻撃!」
ゼスさんの声が聞こえました。
っちょ!
助けろよ!
ふっざけんなー!
と、怒る私ですがこれまでにないほど血の絆を感じました。
外道は遺伝だったのです!
と、余裕をこいた私の後方で爆発が起こります。
ちゅどーん!
なぜか赤とか緑とかの色つきの煙が上がっています。
うわーん!
お笑い芸人の祭典かよー!
「よし、もう少しだ! みんな頑張れ」
「ぎゃあああああああ!」
私は地雷原を駆け抜けるかのように鳴きながら逃げました。
「本体が分裂したぞ! アレックス様ががんばってくれる間に叩け!」
っちょ!
「一体が包囲網を抜けたー! アレックス様逃げてください!」
ふざけんなー!
「アレックス後ろ後ろ! 後ろから分裂したヌイグルミが!」
っちょ!
時速何キロ出てるよ!
私はもう限界ですからね!
ねえホント限界なんですからね!
「後ろで光ったぞー!」
うわあああああああああん!
もうだめだー!
「めええええええええ!」
あきらめた途端、地が響くような大爆発が起こりました。
この日、我が領地は震度3の地震に見舞われたに違いありません。
そして今度こそ私は意識を手放したのです。
◇
「尻丸出しでなにやっているのだ?」
シルヴィアの声が聞こえました。
私は爆発で地面に突き刺さっていました。
ズボンが破れて尻丸出し。
この状態でもなお頭以外に怪我をしてないのは防具のグレードの高さゆえというところでしょう。
私は何事もなかったように土から這い出すと、お尻丸出しのまま決め顔で仕切りはじめました。
「怪獣は?」
「うむ。爆弾投げつけまくったら倒せたのだ」
そうですかい。
ゲームのルールが変わったのでしょうか?
「怪我人は」
「軽い怪我が数人、気絶が一人。あとはボロ雑巾のお前だけなのだ」
さすが伝説の防具。
私以外は怪我をしてないと言うことでしょう。
……なぜ私だけ怪我をした!
「魔王の意地を見せられたようですね」
「魔王と書いて『げいにん』と読むのはやめるのだ」
正直言って似たようなものだと思います。
主に爆発コントとリアクション芸的な意味合いで。
「ふふふ。あれだけの強敵です。さぞ素晴らしいアイテムが手に入ったのでしょうね……」
私は欲まみれのえげつない笑顔でした。
なにせ強敵ですから!
もの凄いアイテムに違いありません。
「うむ……それがな……」
はい?
「これなのだ……」
シルヴィアがなんとも言えない微妙な顔をしました。
なんでしょうねえ?
それは小さく、黒く、四角い、樹脂製の物体でした。
それがいくつも現れたのです。
数にして100個以上。
私はそれになんとなく覚えがありました。
「あっれー? これってメモリーカード?」
「知ってるのか?」
「ええまあ。前世の電気屋で売ってましたからねえ。でも読み取り装置がないですねえ……作るの面倒なのでマクスウェルに相談しましょうか……それにしても残念ですねえ金目のものじゃないのかあ……」
と、正直がっかりしてたのですが実はこのメモリーカードはとんでもないお宝だったのです。




