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召喚

「で、マンモスを倒したら出てきたのがコレか」


 シルヴィアが頬杖をつきながら言いました。

 シルヴィアの視線の先には、サッカーボール大の巨大なルビーが鎮座してました。

 あれから私は守備兵団の皆さんに領主の館に運びこまれました。

 幸運にも怪我一つしてませんでした。

 ええ幸運にも。

 自分の頑丈さに逆に恐怖を感じます。

 もう嫌だ。

 私はため息をつきました。


「ええ。もうなにがなんだか……」


 ルビー。

 いわゆる紅玉ですね。

 ものすんごい高級品。

 それがサッカーボール大です。

 外周70センチ、直径22センチ。

 重さは3キロくらい?

 明らかに前回のエメラルドより高級品です。

 要するに……こないだのドラゴンよりも上だったのです。

 あのマンモスは……

 どうりで死にそうになるはずです。

 でも困ってしまったのです。


「うむ……売るに売れんな。このサイズでは」


「ですねえ。この石、全然割れませんし」


 試しに割ってみようと試したのですが傷一つつきません。

 魔力でスキャンすると時間軸の停止魔法がかけられていました。

 簡単に言うと時間の流れの外にあるので傷がつかないということです。

 つまりこの宝石の時間が止まっているので傷をつけることができないのです。

 それなのに持ち運ぶことはできるという意味不明さです。

 それよりも問題なのは時間魔法。

 それは超高度な魔法です。

 なにせ時間の停止ですから。

 時間の停止に開始した時間があるのは構造的矛盾のような気がしますが気にしたら負けです。

 ここはツッコミを入れないことにしましょう。

 私でもかなり難しい魔法です。

 なんたって魔力の必要出力が膨大なのです。

 電力換算で核融合発電所レベルの電力が必要です。

 なのでシルヴィアの魔力の残りカスでは魔力が足らずに時間停止魔法の解除もできません。

 というわけでこのルビーをどうするかは、目下の私の最大の悩みでした。

 ホント、困りましたね。


「もっと安い石の方がいいんですけどねえ……」


 私はため息をつきました。

 これが水晶とかだったら問題がありません。

 そのまま売ってもいいし、王宮に献上して支援を頼んでもいいわけです。

 隣国も水晶程度なら攻め込んできません。

 しかも今回は時間軸が止まっているので、エメラルドみたいに割って隠蔽することもできません。


「なあに狩り続ければもっといいものが出るだろう」


 シルヴィアは笑っていました。


「そうですかねえ」


「ああたぶんな」


「あ、そうそう」


 私はなるべく動揺を隠しながら言いました。

 このタイミングで、アレを言わなければ!


「なんだ……」


「宝剣壊しました」


「はい?」


「折れたあげくにマンモスの自爆に巻き込まれてお亡くなりに……」


 シルヴィアの顔が青くなりました。

 それもそのはず、国宝レベルの品ですから。

 と、言っても私にはその価値はわかりません。

 多くある道具の一つなのです。

 どうも魔道士ってこういう所がダメですよね。


「アホー!!!」


 ぽかぽかぽかぽか。

 なぜこのチビ助は言葉につまると実力行使に出るんでしょうね?

 彼女の肉体言語を文字に翻訳すると、「どうやって折れた剣を隠蔽するのだ!」です。


「そりゃ埋めるしかないでしょう」


「おま! じゃあどうするのだ!!! 剣がなくなったら責任問題なのだ! 父上に理詰めで怒られるのだ!」


 理詰め……それはキツいですね。

 でも怒られるときは私も一緒です。


「手に入れましょう……同じクラスかもっと上の剣を! そしてそれをそっと倉庫に戻して隠蔽するのです!」


 私は何事もないように言いました。


「なにを?」


「剣をです」


「どうやって?」


 私はニヤニヤと笑いながらルビーを指さしました。

 もうね。

 もう一段階禁じ手を解放しましょう。


「召喚魔法には召喚魔法で対抗ですよ」



 召喚魔法。

 異世界から強大な力を持つ存在を呼び出す魔法です。

 とは言っても先方にも生活や仕事などの都合というものがあります。

 私もトイレの最中に呼び出されたら相手を殺すと思います。

 なのでいきなり襲われても文句は言えませんし、呼び出すだけで迷惑料が発生します。

 非常にリスキーな呪文なのです。

 ですが今回は巨大怪獣相手です。

 今さら手段など選んでられません。

 ターゲットは異世界の大商人。

 今回はエメラルドの破片を迷惑料として召喚魔法を試みようと思います。

 大きいエメラルドとルビーはここで大きな取引をして処分する予定です。

 食べ物とかも仕入れることができれば最高ですね。

 私は期待に胸を膨らませました。


 場所は領主の館の応接間。

 広いですし、隠蔽するにはもってこいです。


「というわけでシルヴィア。魔力放出!」


「らじゃなのだ」


 私は召喚呪文を唱えます。


「さいたまさいたまさいたまさいたま埼玉さいたまさいたまさいたまさいたまさいたまさいたま埼玉……」


「なんだそのテキトーな呪文は?」


「なに言ってるんですか! 私の開発した魔導言語SaitamaF※CKですよ! 『埼玉』と『さいたま』の6字で全てを記述でき……」


「なにをやっているのだ……この狂人が!!!」


 な!

 ひでえ!!!

 まったく。

 これだからシルヴィアは派手な攻撃呪文しか覚えられないのです。

 魔導の奥義はこういうサポート呪文にあるんですよ!

 まったく!


「はい出力増やして。召喚相手は商人! なるべくレベルの高い装備を扱える商人を呼びますよ!」


 さいたまさいたまさいたまさいたま埼玉さいたまさいたまさいたま……


「ゲートが開きますよ!」


 バチバチとプラズマを発生させながら、空間に亀裂が生じました。

 そして煙のようなものが亀裂から噴き出してきます。

 私は亀裂をもう一つの世界に繋ぎます。

 そのまま私は扉をイメージ。

 開いた異次元へのゲートに魔法で作った扉を出現させ固定します。

 そして、がちりという気持ちのいい音がしました。

 空間が繋がったようです。

 召喚魔法は成功です。

 

「はーい♪」


 私の開けた次元の扉の向こうから声がしました。

 ピコピコという音もします。

 なんだか緊張感のない声です。

 いえ侮ってはいけません。

 相手は私と同格かそれ以上の相手です。

 これからそんな相手と交渉せねばならないのです。


 相手が姿を現しました。

 全身を覆う真っ白い巻き毛。

 ふわふわの尻尾。

 申し訳程度についた角。

 背中から生える白い羽。

 それはワンコでした。

 羽の生えた二足歩行のプードル。

 しかもくまさんカットの。


「はじめまして。マクスウェルなのです!」


 ワンコが元気に挨拶しました。

 なにこのかわいい生き物!!!


 この時、私は知らなかったのです。

 マクスウェルの正体を。

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