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レーダー魔法『枯山水』

「もっと腰を入れて打て! 型は忘れろ! 実戦は一撃で終わりではない。何度も何度も打ち付けるのだ!」


「はい団長!」


 木剣を打ち合う音とゼスさんと兵士たちの声が私の部屋にまで響いてきました。


 やはりみんな気合が入ってますね。

 素晴らしいものです。

 私は重い荷物を持っての行軍を提案した以外はすべての訓練をゼス団長に任せました。

 「皆さーん! 訓練のプランが固まりましたー♪」と言いながらこのていたらくです。

 頭の中ではすごい育成プログラムがあるのよ!

 でも今の時点では私やシルヴィアがしゃしゃり出ても仕方ありません。

 まだ彼らの能力を把握してませんので。

 把握してからが問題なのです。

 私は他人様に剣術を教えるほどの実力はありません。

 総合的な戦闘力と剣への熟練度は別なのです。

 シルヴィアもまた同じです。

 魔法への理解度が足りません。

 専門の魔法使いにツッコミを入れられて涙目になって魔力を暴走させる未来しか見えません。

 かと言って私が魔法を教えて、シルヴィアが剣術を教えるのもよくありません。

 圧倒的に説得力がありませんから。

 なので二人で相談して現時点では黙っていることにしました。

 タイミングを見て徐々に解放していきましょう。


「どうやったらそんなバカげた強さになるんですか?」


 いろんな所で聞かれましたが答えられません。


「幼女に秘孔を突かれて覚醒しました」


 誰が信じるというのでしょうか!

 シルヴィアも同じです。


「バカに薬を飲まされたのだ……」


 発覚したら全方面から針のむしろです。

 ……私が。

 なにこの理不尽。

 なので、


「アレックスちゃん、おバカだからわかんなーい♪」


 で、誤魔化すことにしました。

 訓練にも口なんか挟みませんとも!


 それに今は私たちが介入しない方がいい結果をもたらすと思います。

 郷に入ればうんたらかんたら。

 巨大怪獣との戦いは彼らの方が慣れているのですから。


 なので私は全力でサポートに回ることにしました。

 私は砂を箱に入れ、石を置きました。

 それはまるでジオラマのようでした。


「なにをやっているのだ?」


「シルヴィア。これを見なさい。これは私のオリジナル魔法『枯山水』です」


「……なんか渋いのだ。悪い意味で」


 サムライなのにこのネーミングの良さがわからないですと!

 ザッツクールくらい言えよ!


 ダディ! このファッキン枯山水、最高にクールだぜ!

 マイサン、それより肉食え! 肉はいくらでもあるぜ!

 ファッキンビーフ! 最高だよダディ! この最高のファッキン枯山水に完敗!

 HAHAHAHAHA! ファッキン枯山水!!!

 ダディCoooolだぜ! YAAAAAAAA!


 このくらいの小芝居はできるようにしましょうね!

 魔王として。


「で、どうするのだ?」


 それはたいへんつまらない返事でした。

 これでは私も普通に返事するしかありません。


「宝石魔法ですよ。それから逆算して怪獣の居場所を特定するんです」


 要するに相手の魔力の波長を逆にたどって情報を引き出すと言うことです。

 私は王城の宝物庫からくすねた来た宝石を枯山水にばらまきます。

 最悪の場合を見越しての逃走用の資金です。


「シルヴィア、起動に魔力が必要です。安定するまでこの真ん中の水晶に向かって魔力放出」


「わかったのだ」


 枯山水の宝石が動いていきます。

 真ん中の水晶は我々の現在地を示しています。

 成功すれば宝石は敵の数と位置を表すはずです。

 そして……


「あー……これはまずい」


「まずいのだ……」


 我々は事の重大さをこのときはじめて認識したのです。

 悠長に訓練をしている暇なんてなかったのですよ!



 数日後。

 私は広場で壇上に上がっていました。

 得意の演説です。


「さて、皆さんにはオン・ザ・ジョブ・トレーニングで最強兵団という坂をマッハで落下してもらいます。胃薬の用意はいいですか?」


 まるでブラック企業の研修のようなことを私は言いました。

 守備兵団の若い団員たちがザワザワと騒いでいます。

 私は空気など読まずに言います。

 それほど事態はひっ迫していたのです。


「皆さんには、これから突撃してもらいます」


「と、突撃? どこに」


「どういうことだ」


 ザワザワが大きくなります。


「ここから、10キロ先に巨大怪獣を見つけました」


 私は笑顔で言い放ちました。

 私の枯山水はあまりにも絶望的な現状を示していました。

 怪獣を示す宝石が街を取り囲んでいました。

 この街って巨大怪獣に囲まれてやんの!

 今までよく全滅しなかったなあこの街。

 もうヤケです。


「っちょ! 死にますって!」


「ふざけんな!」


「やってられるか!」


 ブーイングがあちこちから聞こえてきました。


「いいんですか?」


 私は静かに、かつ全員に聞こえるように言いました。

 にこやかに邪悪にエレガントに、そして脅すように。


「なにがです?」


「巨大怪獣はこの街へ真っ直ぐ向かってます。このままだとみんな死にますよ」


 そう、囲んでいるだけで攻めてこないなら問題はありません。

 でも巨大怪獣はこちらに向かっていたのです。

 枯山水の反応では、巨大と言ってもこのあいだのドラゴンよりは小さいはずです。

 大きさを見る限り、まあなんとかなる程度の相手でしょう。

 空も飛んでいないようですし、こないだのドラゴンよりは弱いはずです。

 そう思わないとやっていけません。


「んな!!! もうダメだー!!!」


 若い団員たちがこの期に及んで泣き言をほざきました。

 潜在能力を解放しても負け癖は直らないのです。

 とりあえず殴って大人しくさせようかな。

 と、考えたその時でした。



「この馬鹿者どもが!!!」



 ゼスさんの怒鳴り声が聞こえました。


「貴様ら! 逃げようとしたものはこのゼスがこの場で叩き斬る!!!」


「で、でもだんちょう……」


「アレックス様の命令だ! それ以上の理由はいらん!!!」


 ゼスさんは完全に言い切りました。

 意訳すると「組長が黒と言うからには白でも黒なんじゃあ!」という意味です。

 体育会系組織(ブラック企業)は楽でいいですねえ。

 もちろんここで白だったら信用失いますので、諸刃の剣なんですけどね。

 だもんで論破する原稿も用意してたんですけど……

 「特別ボーナスで城からパクってきた(という設定の)エメラルドあげちゃうぞー!」とか。


 まあいいです。

 私はキリッと真面目な顔になりました。


「ゼスさん。念のために住民の避難してください。残りは馬止(まど)め並べてください。気休めにもなりませんがやらないよりはマシです。住民の避難が完了したら討って出ます! 猶予はありません。はい作戦開始!」


「御意!」


 こうして私と人間さんの共同ミッションが開始されたのです。

 おっと、お約束。お約束。


「ジークジ(都合により略)」


 ふう。

 私はなにかをやり遂げたかのような満足げな顔をしました。


 さて……今回のミッションではシルヴィアはお留守番です。

 だって王女ですよ。

 怪我されたら誰も責任取れません。

 じゃあお前はどうなんだよ?

 そう思うかもしれません。

 大丈夫です。

 職業軍人の家系の男の子は手足がもげでもしなかぎり、たいていは若い頃のヤンチャですまされます。

 男なんてそんなものですよ。

 ぎゃははははは!

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